009a3 試作改造人間9号改参式   作:migg arty

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序章 黒い幽霊団の亡霊たち

  とある島国・某所にて

 

 「オリンピックやら近隣諸国の動向のおかげで、この国の法整備もかなり我々の意図した方向に改善された。」

 あいさつもなく会議が始まった。全員がモニターで参加する、会議が。

 正面中央で、黒いシルエットが若々しい声で語ったのを口火に、次々と発言が始まる。

 「しかしながら、我々の次の製品はまだ未完成です。」開発部責任者。

 「ようやく我が国の製品が、合法的に海外へ輸出できるというのにな。」販売責任者。

 「申し訳ありません。先月の〇〇沖にて、✖✖島研究所を喪失したのは、この保安部の責任です。」

 「まったくだ。あそこでは、最新式のPASがほぼ完成し、試験中だった。それをああもたやすく破壊されるとは。」

 「PAS・・・Personal Armored Suit。個人用防護服と銘打ってはいるが、それはこの国特有の言い回しだ。実際は、生身の人間をたやすく超人に変える、Powered Suitと言っていい。ワンマンタンクとも言える。その2個中隊が護衛部隊とともに一夜にして壊滅。これでは買い手も一斉に引き上げる。」

 「戦闘機1機分の価格で無敵の歩兵1個中隊。大規模戦の切り札から特殊部隊での運用まで多用途多目的。」

 「操作訓練のみで、素人集団でも超人部隊に早変わり。大きな声では言えないが国家でなくても需要あり」

 「聞きなじんだキャッチコピーが空々しく聞こえるな。」

 「結果、我々は次期主力商品を失い、代わりにアピールできる新製品もない。」再び最初の声が響く。

 「そもそも、なぜ、あいつら如きを駆逐できない。我らの前身ではあるが、数十年前に結成された組織が作った骨董品の、さらにその試作品が9体。それが、一度ならず二度までも我らの前身を倒し、今また新たに結成された、我々の自身の最新兵器をも上回るのだ?」

  しばしの沈黙の後、不快な合成音声が語りだした。

 「開発部、生体兵器部門技術開発者 a-3です。会長のご質問にお答えするのは、a-3が最適と思われます。」

  会長と呼ばれたシルエットが、開発責任者を一瞥したが、彼は沈黙を守った。

 「a-3。答えよ」

 「予想される回答、1。」間髪入れず音声が流れる。

 「試験体脱走時のX島の破壊による、『サイボーグ計画』中心メンバーとその研究成果の喪失。サイボーグ計画には当時、世界中で最も優秀な生体工学の研究者・技術者が集められており、彼らの喪失は、初期における生体兵器開発を大いに遅らせました。」

 「しかし、その後、暗殺者としてやつらの発展型、製品として量産型、幹部用として高性能型と次々と開発に成功したではないか。特に『ミュートス計画』の改造体は、試作型とは比較にならない。」

 「発展型は、サイボーグ計画の構想に含まれており、改造前の個体いわゆる原体の選定とその基礎技術は、喪失した第一期グループに依存していました。その後急きょ結成された第二期メンバーは、原体の改造に長い時間を要し発展型は完成するや、逐次投入され、各個に撃破されました。」

 「・・・。」 

「そもそも発展型を、試作型に対するアサシンサイボーグとして仕様変更した結果・・・。」

しばらく発展型10号から13号までの、開発・運用への批判的な分析が続いた。 

「予想される回答 2。各個体の特性を生かした戦術。・・・」

  その後も、合成音声は、淡々と「予想される回答」を続けていった。それは、以前から調査・推論を長期間続けた末の結論であろうことは、聞いている誰もが理解した。

 「予想される回答 3。原体の特性を考慮した設計による完成度。・・・」

 「予想される回答 4。現存する最高レベルの生体工学者アイザック・ギルモアの存在。・・・」

 「・・・。このように長期にわたって戦闘経験を蓄積した結果、その戦闘技術は幹部型改造体との性能差を補うものとなりました。」

  a-3の分析が試験体一体ごとにおよび、さすがに多くの列席者が退屈を覚えた。が、それも試作最終型の解説となったことで、結論に近づいたことを察した。

 「特に加速性能の差は、戦闘の勝敗を決定づけるものです。しかし試作9号は、加速中の戦闘経験の豊富さから両者の性能差では一瞬で終わるべき戦闘を、数分、時には数十分に引き伸ばしました。それが敵味方の状況の変化を招き、時にはあり得ないはずの非加速中の試験型の支援を受け、我が幹部型改造体をも退けるに至りました。」

 「加速中の戦闘経験・・・。珍しく抽象的な分析だな。確かに圧倒的な加速性能を覆して9号が生存している事実は認めるが。」

 「加速中の戦闘を記録できる媒体が存在しません。戦闘の形跡を分析した推論です。主に9号の足跡・・・歩幅の細やかさや跳躍のとき足場の崩れ方、行跡の複雑さ・・・そういうものを1つ1つ解析して導き出した推論です。もちろん通常の射撃・格闘の技術や戦術・判断力の範囲と解釈したければ、それで問題ありませんが。」

 その後、数秒の解説の後、音声はやんだ。

 「以上か?」

 「以上です。」

重苦しい沈黙が続き、すべての列席者のシルエットは微動だにしない。

 「で、対策は?」沈黙を破ったのも、若々しい声の苦々しい詰問だった。

 「出だしでスタッフを失った我々が長く遅れを取ることになり、やつら骨董品の試作品が原体の特性に即した完成度の高いワンオフ設計で、日々さらに性能を高めることができる優秀な科学者がついていて、チームとしても個人としても圧倒的な戦闘経験を持っているとしよう。」

  周囲のモニターから何人かが発言する気配を見せたが、シルエットはそれを察し、手を払ってそれを止めた。

 「我々が、数十年前に出遅れ、ようやく技術的に追いついたら経験で差をつけられる。ではどうすればいいのだ?」

 「まさに、それが答えです。」再び不快な音声が流れる。

 「対策としては不十分ですが、回答としては充分です。」

  数瞬の静寂が続いた後、かすかに得意げに聞こえなくもない言葉が続いた。

 「優れた原体に最新の技術で処置を施し、経験を積ませるのです・・・彼らの相手をさせて。」

 

 

 

 

 

 

 


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