童貞のまま30歳になったらTSして本物の魔法使いになりました   作:いつのせキノン

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少年

 

 地図が読めねぇ。

 

 オレこと溝口守は社畜から女魔法使いに奇妙なジョブチェンジをした訳だが、昨日のピンチから一貫して状況判断が感前に好転しない。

 

 そう、地図が読めない。

 

 いや、マークとかそういった奴は何となくわかるんだけど……文字だ。アルファベットに似たモノがローマ字読みっぽい並びをしてるんだけど、母音は全部大文字だし子音は小文字で書かれてる。

 まぁ左へ行けとかそう言うのは書いてないだろうけど、町みたいなマークの上に“sA-rIrE”と書かれてたりして、「なにこれ、サーリレ? 言いづらい……」ってなる訳で……。

 そうなってくるとこの地域の言葉に対してオレが対応できるのか、という問題が出てきたり。先行きが不安すぎる。

 突然上司に「君はシベリア送りだ」とか言われてロシアに放り込まれた気分だ。

 

 たまに出てくるモンスター……オークやゴブリンとか(例によって全員裸、しかもオスばっか)の、よくあるRPG序盤で見る奴を時折処分しつつ歩いていると、思ったより早く町らしき人工物が見えた。

 

「……城壁か……?」

 

 石を組んで積み上げられた壁が見える。見上げるほどに大きくて、多分一〇メートルくらいはあるんじゃないか。

 

 更に歩いて近付けば、大きな鉄製の柵が門として降りている。その両横には見張りの衛兵が一人ずつ険しい表情で立っていた。

 

「……とても歓迎ムードには見えないんだよなぁ。大丈夫かな、捕まったりしないかな……」

 

 昨日の盗賊に関してはノーカウントとして。

 この門の目の前で暴れるのはマズい。多分警備隊とかいるだろうし、騒ぎになればお縄必須だ。胃世界に来て早々牢獄入りは避けておきたい。というか絶対に嫌だ。

 

「うん……いざって時は逃げてから忍び込むか」

 

 具体性の欠ける作戦だけど仕方ない。事が上手く運ばれるのを願うだけだ。

 

 勇気を出して「あのぅ……」と声をかけてみる。

 

「すいません、この町って入れます?」

 

 近付いてって見ると、二人は一瞬驚いたような表情をしてから怪しげな視線を送ってくる。何だろう、変なこと言ったんだろうか……それとも言葉が通じてない?

 

「あー、えっと……旅の者でして……」

「………………………………………………………………」

 

 気不味い!! 何か喋ってくれ!!

 沈黙の居心地の悪さに顔が引き攣りそうになる。

 すると、二人は一度オレから視線を外して何やら相談し始めた。

 

「UsAkEhAyAhAkI?」

「kAtArIkE。sUkIsU、kUkUkAmAOhAIrEsAnAbI」

「nUmAAsAdOhInIUkI? dInAsErObI、kIrOnnrAAdOkErObIrAUdIyAE」

 

 二言ずつくらい言葉を交わして、そのあと一人が詰め所らしき場所へ駆け込んで行った。

 慌てたようには見えなかったし、敵とは見なされてない……のかな?

 

 逃げる雰囲気でもなく、取り敢えず待つことにしたけど、微妙に居心地が悪い。誰も何も言わないのもあるし、残った見張りの視線がじっとオレを睨んでるのもある。

 変なのか。スーツは万国共通のフォーマルな格好だと思うんだけど……あ、女なのに男物を着てるのがマズいとか? 男装だとか思われてんのかな……。いや、だったら胸をもうちょいどうにかしろとか?

 

 視線を下におろして見ると、自己主張の激しい胸がワイシャツを押し上げている。上のジャケットは胸が苦しいからボタンは全部外してるんだが……足元が見えないくらいには大きい。

 

 ……思ったんだが、オレって傍目から見ればただの変人かコスプレイヤーにしか見えないんじゃ……?

 

 そう考えた途端、急に恥ずかしくなってきた……。

 いや、どう見てもコスプレイヤーだよ。オレだってそう見ちゃうよ。平時からコスプレとか頭どうなってんだよ、秋葉にでも行ってろって話だよ……。ああああ恥ずかしいぃぃぃ……!!

 

「…………気分が悪いのか?」

「ぉはぁっ!?」

 

 に、日本語!? 日本人!?

 

「っ、……だ、大丈夫か……?」

「あっ、は、いや、大丈夫、です、はい……」

 

 びっ、ビックリした……。急に日本語が聞こえてくるから何事かと思った。

 一度深呼吸して心を落ち着かせ、息が整ったところで視線を真正面に向ける。

 と、そこには、オレよりも頭一つ分くらい背の低い、若い少年が立っていた。

 中肉中背、に見える。軽装だけど、どことなく騎士を思わせる胸当てやポイントアーマーを着けていて、腰には両刃剣を携えていた。

 若干焦げ茶っぽい短い黒髪と、少年から青年に変わろうとしている思春期に差し掛かった若さの顔立ち。落ち着いていてどこか大人びてるけど、子供っぽさがぬけきれていなかった。

 

「その様子だと言葉は通じるらしいな。それで、帝都にどんな用事があって来たんだ?」

「あー……それは、だな、ですねぇ。旅って言うかなんて言うか……宿とかないかなぁって、思いまして……」

「旅? 旅か……とても旅をするような格好には見えないが……」

 

 うっ、と図星を突かれて息が詰まる。確かにスーツは遠出をするような格好じゃない。正論だ。

 

「その服、非常に高価な物だ。どこかの貴族……にしては怪しい」

「あ、あはははっ、いや、ちょっと道中オークとかゴブリンとかいたもんで!! 馬車に乗ってたんだけどダメんなっちゃったから逃げ出して来たんです!!」

 

 半分合ってるからセーフだよな!?

 

「……そうか。それは気の毒に」

 

 おいあんま気持ち篭ってねぇな?

 

「立ち話もアレだ。詰め所で話を聞こう。ついてきてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 古の言葉を話す者が来た、と聞いた時、「そんなバカな」と僕は思わず呟いた。

 そして、現場に来てからまた同じことを呟いた。

 

 ケント・K・ウルフは帝都騎士団に所属する騎士であり、外交官補佐も兼任している。

 騎士としては平々凡々な僕は、趣味で古語や異国語を調べて回っていた。独学で勉強を重ね、通訳だって可能だ。

 そんな訳で外部の人間とは異国語で頻繁に言葉を交わす機会がある。

 けれど、古語を喋る人間はこれまで片時もいなかった。少なくとも、僕が生きている時代では。

 

 目の前の女性――マモリ・ミズチは、この時代でもかなり珍しい古語を喋ることができる者だ。

 いや、正確には、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 黒地に銀のメッシュが入ったサラサラのロングヘア。整った顔立ちの中に爛々と輝く金の瞳。

 一目見たとき、どこかの国の王妃かとも思った程に綺麗だった。

 加えて、そのプロポーションは世の他の女性と比べてもか格が違った。間違いなく、人生の中で最も美しいと言える。

 詰め所の中もその色香に惑わされてか、兵士達は若干だが浮ついている。

 

 いや、男なら仕方のないことだろう。何せ絶世の美女が突然やって来たんだから。

 

「いやぁ助かりましたよ、ホントに。言葉が通じる人がいて」

 

 僕の対面に座る彼女は安堵した笑みを浮かべ、椅子の背もたれに寄りかかっていた。

 

 …………胸を強調する形になってるが、ワザとなのか……?

 

「んんっ……さて、色々と聞きたい」

 

 咳払いをして空気を改める。

 僕の雰囲気を見てか、ミズチも態度を改めたらしく椅子に座り直した。

 

「オークやゴブリン……モンスターに襲われた、と?」

「あーそうですね、結構鉢合わせした感じで。まぁ何とか魔法でちょいちょいっとして逃げたんですけど」

「魔法? 魔法を使えるのか?」

「え? あぁ、はい。あれ、変なの? じゃなくて、変です? てっきりオレ……私が使えるんだし他の人も使えると思ってたんですけど」

「……普通、魔法は使えない。魔法適性といって、才能がある奴しか使えないんだ」

「へぇぇ、そうなんだ……」

「ちなみに、僕は魔法適性ゼロ、使えない。というか、人間の九割は魔法適性は出ないと言われている。使えるのはほんの一握りの人間だけだ」

 

 そう説明すると彼女は「そうなのかぁ」と頷く。

 ……推測だが、彼女はどうやら一般常識の一部が抜け落ちているらしい。先程から詞が通じなかったり文字が読めなかったり、魔法の存在や世界の一般常識などなど。学校に通わなかった者ですらわかっていることを理解してなかったりと、あからさまに外部の人間であることが見て取れた。

 少なくともこの大陸の人間ではなさそうだ。世の中にはこの大陸を囲む海の向こうにも人々が住んでいると聞いているが、そこの人間なのかもしれない。

 

「魔法が使える、となると色々と声がかかるだろう。ここ帝都は東西の玄関口で、取り分け西方から来るモンスター達の迎撃拠点でもある。魔法使いは戦力として重宝され、待遇も非常に力が入れられている」

「……それってその分面倒ごともあるよってことでは……?」

「……………………………………………………」

「何か言ってくれると助かるんですがあの……」

 

 残念ながら、魔法使いを巡る問題は色々と複雑で難しい。魔法とはそれだけで人類の切り札になり得る程に希少価値が高く、帝都は喉から手が出るほどに欲している。

 加えて彼女(ミズチ)は西方から単身で逃げてきた。西方はモンスターの巣窟と化しており、独り身で通るのは非常に危険だ。魔法使いと言えどいくらかの護衛などを連れていくのが常識である。

 

 しかし彼女は一人で、軽々と口にしていたが、オークやゴブリンの群れを壊滅させたのだと言う。

 オークは帝都付近でも頻繁に見られる強いモンスターだ。岩のような肌は生半可な剣も弓も通さず、魔法でもそう簡単には貫けない。加えて大型の体躯に怪力だ。人間が太刀打ちするには戦力をかなりの割合で当てなければならない。オーク専用の討伐隊が帝都に常駐する程度には厄介なモンスターである。

 

「あーあ、魔法使いってそんな面倒ごとあるのかぁ。良いことばっかじゃないのなぁ……」

 

 不貞腐れている彼女は、一目見ればただの美女だ。だが、その内に秘めている力は国一つが動くレベル。帝王や貴族が放っておくとは到底思えない。年もそんなにいっていないのか……。

 

「旅をしているとのことだが、しばらくは帝都にいるのか?」

「あー、……そのつもり、です。土地勘はわかんないし、野宿も嫌だし……」

「ふむ……まぁ留まるのは良いかもしれないが、貴方は大陸語を喋れないだろう? 後は、路銀はあるのか?」

 

 僕がそうたずねると彼女は息を詰まらせて苦々しい表情を作った。会ってから少ない時間ではあったが、すぐに表情に出るから本当にわかりやすい。

 

「……一文無しでして……言葉もわかんねぇし……」

「だと思った。そうなると、帝都で一人暮らしていくのは厳しい。路銀に関しては……魔法使いならすぐにでも働ける場所があるが、言葉はどうもな……」

 

 ずーん、と音が聞こえてきそうな程に意気消沈している。

 果たして、僕以外に古語をこうやって話せる人間がいるのかどうか……。王宮に掛け合ってみないとわからない。

 

「その、何か就職口とかってありますかね? 当面の生活費をどうにかしないといけないんで……」

 

 おずおずといった様子で、猫背のままこちらを見上げて苦笑い。

 ……言葉の壁さえなければ、すぐに斡旋程度はできたかもしれない。ここ帝都は他国と比べて非常に安定しており、雇用口が多くある。それも議会が優秀なおかげだ。

 

「……わかった。貴方を魔法使いとして上に掛け合ってみるとしよう。素性も大分聞かれることになるだろうが、そこは自分できちんと説明してくれ。通訳のことも伝えておく」

「お、おぉ、ホントっすか!? 有難い話だ……!!」

 

 ありがてぇありがてぇ……と、彼女は安堵した様子で緩んだ表情を見せた。にへら、と力の抜けた笑みで、あまりの無防備さに顔を逸らした。自分の美貌に自覚のない人というのも困ったものだ……。

 

「ふぅ……取り敢えず、事情聴取は以上とする。後は魔法について見せてほしい。一応確認を取りたいのと、どれ程の力を持っているのか知りたい。訓練所へ案内しよう」

「お、魔法の披露かぁ……。他の人に見せるのは初めてだからなぁ。ショボくないといいけど……

 

 ショボいはずがあるもんか、と内心ツッコミを入れるだけにしておいた。本人もわかっていなさそうだし、今までの話がハッタリという説だってあり得る。とにかく評価は結果を見てからだ。

 

 

 

 

 

 




溝口 守

ミゾグチ マモル

マモル ミゾグチ

マモリ ミズチ

TSロリverのDTTS魔法使い、見たい?

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