リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
季節は再び一周して春。俺ももう小学五年生になる。
……なんだか、小学五年生とか変な気分ではあるが。
さて、そんな事はおいておき、春休みの真っ最中ということなので、どこか出かけようというレヴィの言葉により、あれやこれやと遊園地に行く事が決まった。
いや、来てしまった。
「うわーーい!! ほらみてみて、凄い乗り物が動いてるよ!」
「本当です! あっちにも面白そうなお馬さんが!」
「ええ、ではいつでも念話が届くようにしてください」
「ふむ、こちらも気を付けるようにしよう」
レヴィとユーリがはしゃいでいる横で、シュテルと王様はそれぞれ注意事項を確認し合っている。
なんだか見事に保護者と子供の関係である。
そんな風に眺めていると、キーホルダーほどのサイズになって持って来ていたアリシアから念話が入った。
(お兄ちゃんはレヴィたちの方かな)
(なんだとこの)
精神年齢からみても俺は保護者枠だろうに。
しかし、こんなときにアリシアと口げんかを始めるのも無粋だと思いそこで止める。
子どもの体に引っ張られているのか、それともずいぶん久しぶりの遊園地だからなのか、もしくは信頼できる家族と共に来ているからなのか、心が躍っていることは否定しない。
「龍一は何が乗りたいですか?」
色々な乗り物に目が奪われていた様子のユーリ。
おそらくどれもこれも乗ってみたいのだろうが、選びきれないのだろう。
ならば、こういう場面で即決できる人物を当てにしてみることにする。
「レヴィは何と言ってるの?」
「あの速い乗り物に乗りたいって言っていました」
視線を向けた先はジェットコースター。
いきなり乗るには少し早い気がするが、他に先にのりたいものがあるわけでもない。素直にジェットコースターを乗る事にしても良いだろう。
「では、そのように言っておきますね」
ユーリは小走りでレヴィに伝えに行く。
人混みも多い訳では無いのでぶつかる事はないだろうと思い、その背中を暖かい目で見守る。
(みんな何だかワクワクしてるね)
(初めてだろうし、しょうがないよ)
(お兄ちゃんも達観しているみたいに言うけど、すごく高揚しているのが伝わってくるよ)
(そうか? ……そうかも)
アリシアの言葉を否定できない。
それは自分でも楽しみにしているのが分かっているからだろうか。
「おーい、龍一、早くしないとおいてっちゃうぞー!」
レヴィの呼ぶ声に目を向けてみると、すでに人混みに紛れそうなほど遠くへ行っていたのに気が付いた。
慌てて追いかける最中、ふと考える。
もしかするとこうしてみんなで来ているからこそ楽しみにしているのかもしれないと。
ジェットコースター。
「わああああああああああああ!!」
「ひゃあああああああああああ!!」
「あはは、あはは!!」
絶叫している人居るけど、それより早いスピードで戦ったりしていません? あ、だからレヴィは笑っているのか。
フリーフォール。
「また絶叫系いいいいい!!?」
「これヒューーーーっていくやつだよね!」
「ちょ、ちょっと怖いです……!」
怖いというユーリはむしろ楽しそうにしている。
一番怖がっているのはおそらく安全バーをぎゅっと握っている王様だろう。
「なんだ丸太棒! 我は気が立っている!」
「な、なんでもないです」
パイレーツ。
「ひゅんってくる、これ!」
「これ楽しい! 気にいったかも!」
「あ、レヴィ、たっては駄目ですよ」
安全バーから抜け出し稼働中のパイレーツに立とうとするレヴィを止めるシュテル。
実際立っているのがばれると、出禁されるかもしれないほど危ない行為なので気を付けてほしい。
空中ブランコ。
「これは魔法でも味わえないね!」
「そうですね!」
「でも、もしかして王様に頼めば同じ事やってくれるかも?」
「どうでしょう……今度頼んでみましょう!」
レヴィとユーリが回転中なのに談笑しているのが聞こえる。
これ、そこまで余裕のある乗り物じゃないと思うのだが、絶叫系続きで慣れて来てしまったのだろうか。
昼食をとるために適当なレストランに入る。
空調もしっかり効いていて、園内レストランの割にはしっかりと環境が整えられているみたいだ。
そんな様子にはしゃいでいる奴もいるが、俺は事情が違った。
「龍一弱いね~」
「うぅ……」
「れ、レヴィ、そのようなことをするのは……」
乗り物に酔ってぐったりしている俺に笑いながらつついてくるレヴィ。ユーリはそんなレヴィを止めようとしているのかあたふたしている。
そりゃ俺だってジェットコースター一回くらいならなんてことはない。しかし、絶叫マシンばかりを何回もまわられると思わなかったので、完全にグロッキーだ。
こちらとしては何故みんな平気なのかを問いたい。
「ふん、相変わらず丸太棒は虚弱だな」
「そういうディアーチェこそ、凄い声が出ていましたよ」
「き、気のせいだ!」
「そうですか。それより、どの料理にしますか」
「すぐ話を転換されると、こちらとしても困るな……」
二人が話している風景。王様と初めて出会った頃はこんなふうになるとは思わなかった。それは、シュテルが楽しみからなのか気がせっているのも同じ。彼女もまたこの遊園地を楽しんでいるのだろう。
一通り注文する料理を決めて、店員さんに頼んだ。店員さんはにこやかに注文を受け取った後、特にこれといった対応も無く下がっていった。
ふと思ったけど、この世界では子供だけで遊園地に来ても不思議がられないのだろうか。
……いや、魔王たちを見ていれば、少々早熟な子供が多いので問題はないのかもしれない。
「でも、まさか皆が良いって言ってくれるとは思わなかったなー」
「なんだ、断ると思ったのか」
「うん。王様だって、こういう子供っぽいの嫌でしょ」
「む、よく分かっている……が、臣下に請われた以上、無下にはせん」
「ディアーチェ、そういうの私知ってます! つんでれって言うんですよね?」
「誰がツンデレだ!」
ユーリを睨む王様だが、その顔は仄かに赤い。そもそも睨むにしては目付きがそこまで厳しくないので、きっと照れているのだろう。
レヴィはそんな二人を見ながら楽しそうに笑い、ようやく復活した俺に視線を向ける。
「ねえ龍一、遊園地に来てよかったでしょ?」
「そうだね」
レヴィの言う通り来て本当に良かったって思っている。
今日の所為で絶叫マシンは嫌いだが、こうしてみんなと思い出を作れたのは素直に嬉しいと思える。
そういえば、こんなふうに誰かと遊びに行くって事はあんまりなかった気がする。
前世を含めても親と出かけただけだっただろうか。そう考えると、こんな機会をくれたレヴィには感謝しなくちゃいけないのかもしれない。
普段はちょっとおバカな感じが見受けられるが、意外とレヴィはしっかりしている。周りのこともしっかり見ている。
「なに龍一、僕の事じっと見て」
「ううん、なんでもない。ただ、レヴィはしっかりしてるなって」
「僕が? あはは、そんなこと言われたの初めて! 僕としては、かっこいい、って言われた方が良いな!」
「うんうん、かっこいいよ」
「本当!? じゃあ、今からポーズとるから、しゃしん、お願いね!」
シャキーンとポーズをとるレヴィに苦笑いする。
カメラに収め、きちんと写っているか確認。
そう、レヴィは本当によく見ているのだ。
時間も過ぎ、夜のパレードが始まる。
多分そろそろ子供だけではいてはいけない時間なのだろうが、本来の年齢は子どもなんて歳の人なんてここには誰も居ないので大丈夫だろう。という言い訳。
パレードは煌びやかな飾りやライトが辺りを照らし、楽しげな音楽が流れている。
言わずもがな、俺達の誰もがその光景に目を奪われていた。その理由は美しさだけではないが。
ポツリと誰かが呟いた。
「どこか、静かで、話せるところを」
多分、理解していたのだ。
だからこそ、今日という日にそんな事を思わなかったのだ。
こんな日がいつまでも――
「なら、あそこに行こう」
これは自分から動かなければならない。いつまでも現実を直視せずにはいられない。終わりは来るのだ。
俺は日が落ち暗くなった人混みの中でも、より一層目立つ観覧車を指差して答えた。