リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
ある日の昼下がり。
何事も無い日々。まさに平穏と呼ぶにふさわしい日常が過ぎ去っていく。
「今日のご飯は何が良い?」
朝刊に付いている広告を眺めながら、共に朝食を摂っているみんなに聞いてみる。
とはいえ、この問いはすでに数えきれないほど行っており、その問いに対する答えもすでに知っているような物。
「僕はカレーが良い!」
「私はハンバーグが良いです!」
予想通りといって良いのか、いつもの二人からいつもの答えが返ってくる。
広告に安売りされている物はミンチ肉とジャガイモ、玉ねぎ。カレールーは家に余っている物があったはず。今日どちらか作り、明日もう片方を作るという手もあるが。
どっちを優先させようかとうなっていると、珍しく王様が口を出してきた。
「どっちもすればいいのではないか」
「王様、そうは言うけど……」
「手伝いが欲しいというのであれば、王であるこの我が一つ手助けしても良いぞ」
「手伝うって、一緒に作るの?」
「そう言っておるだろう」
本当に珍しい。基本的に料理当番は俺と王様の交代だったはず。俺から手伝うことはあっても、王様から手伝いを打診する事なんて今まで一回も無かった。
そんな珍しさもあり、今日の晩御飯はハンバーグとカレー、いわゆるハンバーグカレーに決まったのだった。
王様と二人での買い物。
一緒に買い物に行く事は珍しいことではないが、それは他の皆もいてからこその話。
今日はシュテルは管理局の方に行っていて、レヴィとユーリははやての家に遊びに行っている。つまるところ、手が空いているのは俺と王様しかいなかったのだ。
俺に関しては正しくはあまりはやての家に行きたくなかった言うべきか。
「王様も、はやての家に行きたくなかったの?」
「ふん、丸太棒と一緒にするな」
王様はすぱっと言い切った。
小鴉とはやてに渾名を付ける位だから、自分のオリジナルということもあり好いていないのかと思っていた。
いや、そもそも王様は厳しいことを口にすることが多いが、本気で相手にどうこうすることはまずない。
ユーリも「ディアーチェは本当は優しいんですよ」と言っていた。
俺に対しても初めての料理を口にさせなかっただけで、それ以降王様が何かを作る時はしっかりと俺の分も作ってくれていた。
「なんだ、こちらをじっと見て来て」
「なんでもない。それより、買う物は覚えているよね」
「あたりまえだ。我をなんだと思っている」
先程の考えを表に出すつもりは無い。
どうせ否定するだろうし、怒らせるだけだろうから。
さて、よく行くスーパーだが、割引の日は少し大変になる。
人混みが増えるのは当たり前で、それにより野菜などの鮮度を確認することが難しくなるためだ。
だからこそ王様と分担することは最初から決めていた。
「王様はミンチ肉。量も分かってるよね」
「ふん、我が信用ならんというのか」
そういうわけではない。
今までも王様が買い物に行ったことはあるが、間違えて買ってきたことは一度もないからだ。
やはりはやての姿形をとっているだけはあるのかもしれない。比べると怒られるが。
さっそくスーパーに入って二手に分かれる。
買う野菜はじゃがいも、玉ねぎ、にんじん。
ハンバーグがあるのでいつもより数は少なめでいいかもしれないが、玉ねぎだけは多めに買わなければならない。
そう考えて早めに玉ねぎ売り場の方に移動したとき、運が良いというべきなのか、最高に品質の良さそうなたまねぎを発見することが出来た。
「ラッキー。じゃあ、いただき……」
「これはよさげやな。リインフォース、とって……」
偶然、だろうか。
同じ野菜に手を伸ばそうとしてきたのは、つい先ほど考えていたはやてだった。
「龍一やん。珍しいなぁ、こんなところで会うなんて」
「そう言っても近所だから会うことはあるよ」
予想外の邂逅だが、俺もはやて自身に逢うことは歓迎である。
しかし問題は後ろにいる女性、祝福の風だ。彼女の視線は間違いなく俺を歓迎なんてしていなかった。
とはいえ口を出してこないのは主を前にしているからか。間にはやてが居てこれほど助かったと思う日はこれまでになかった。
「龍一も買い物? 晩御飯はカレーなんか?」
「そ、そうだね。ちょっと違うけど……」
「カレーゆうてもいろいろ種類があるからなぁ」
とりあえずそう話をしながらでも野菜を入れていく。
はやても俺との会話とは別に祝福の風に指示をしていって、必要な野菜を次々とかごに放り込んでいった。
そうして確認の段階に入ったところで、後ろから王様の声が聞こえた。
「げっ、貴様は小鴉!」
振り向いてみると、まるで会いたくなかったと言わんばかりの顔をしている。
手にはしっかりとミンチ肉を持っているところからすると、向こうが早くに終わったのでこちらへときたのだろう。
「なんや、王様も居るやん。龍一と買い物なん?」
「それがどうした」
「庶民的やなぁ。でも、そういうところも良いと思うで?」
「う、うるさい!」
そこで、ポンと手を叩いてはやては
「王様もうちにどうや? 料理、作ったるよ」
「小鴉のか?」
「せや。今日はカレーやで」
そう言って誘ってきた。
個人的感情を抜きにすれば、その提案は受けても構わない。向こうからしてもカレーなら人数が少し増えても問題ないだろう。
それに、はやての家にはレヴィとユーリもいる。呼ぶ手間もある訳では無かった。
しかし、それは此方にも予定がなかった場合のみ。
「いらん。我らは家でハンバーグカレーを作ると決めている」
「ま、そうだな。もしカレーだけになったらユーリが拗ねてしまう」
さすがにはやての家でハンバーグを作るわけにもいかない。彼女の家は人数も量も多くなってしまう。
しかも、今日は全員揃っているというし、出会ってからずっとこちらを見るのを止めない祝福の風やあの剣士も気になる。個人的な都合としてもお断りしたい。
はやては少し残念そうにした後、頷いた。
同タイミングに会計をして、道もそこまで違わないので途中まで一緒に行動する。
帰りは帰りでそれなりに話も弾んだ。主にはやてが王様を弄って遊んでいただけのような気もするが。
話が途切れて少し無言になったタイミング、真剣な表情で王様は祝福の風に言葉を向けた。
「貴様、体の方は何とも無いか?」
「ええ、貴女達のお蔭で安定しているようです」
「そうか、それならば、もう安心かもしれんな」
口ではぶっきらぼうに聞こえるが、何となく安心しているようにも聞こえる。
はやては明るく祝福の風に声をかけていて、ほっとするように祝福の風もまたはやてに応対している。
少し前にアリシアが彼女の容態について語っていた。
確か、助からない。そのようなことを口にしていたはず。
しかし三人の様子はその容態と思えないほど安定していた。よくは分からないが、そういうことなのだろう。
祝福の風とは相変わらずの関係ではあるが、それとは関係なしに内心嬉しく思う。
家に帰ってきた。
鍵は開いていて、先に誰かが帰ってきているのがわかる。
靴を見れば三人分。
既に帰っていた二人は扉の音を聞きつけたのか、足音を立てて玄関に殺到してきた。
「あー、やっと帰ってきました!」
「待ちくたびれたー! 早くカレー!」
この二人を見ればあの誘いを断ったのも正解だと言える。
急かす二人に待ったをかけて、王様と二人で台所に向かっていく。
「しかし、こうして貴様とここに立つ日が来るとはな」
「そうだね、俺もそう思うよ」
「……べ、別に貴様を認めた訳では無いぞ!」
「何も言ってないけど!?」
何を勘違いしたのか、もしくは先走ったのかは知らないが、突然怒声を浴びせられる。
ユーリの言う優しいディアーチェというのも、なんとなく分からないでもないが、やはり実感するにはまだ早いようだ。
ちなみに、その日王様と作ったハンバーグカレーは三人から大好評だった。