リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第九十五話 拓ける感情

 特に体の問題は無いので、次の日には学校に復帰することにした。

 前日休んだ分に関してはとりあえず風邪で通していたので、多くの人からの追及は無かった。

 

 当事者たち以外は。

 

「それにしても災難よね」

 

 昼休憩に入ってそんな風に気軽に話し掛けてきたのはアリサ。

 何を言われたのか一瞬理解出来なかったが、すぐに一昨日のことについてだと気が付いた。

 

「そ、そうだね」

 

 多分アリサの中では俺も一緒に攫われていることになっているのだろう。シュテルはそう説明したと言っていたはず。

 もちろんそれに対して不満はない。事実、あの夜は助けられた事の方が多かった。

 

 それにしても、アリサは攫われていたというのに元気なものである。

 すずかは大事を取って今日はお休みだと聞いたというのに。

 

「シュテルさん達にはお礼を言わなきゃいけないわね」

「うん」

「でも、なんであんたまで捕まってたの? しかも別の部屋で」

「え、そ、それは……」

「私達は自分で言うのもなんだけど、いわゆるお金持ちの娘だからわかるんだけど、あんたは……」

 

 そこで口を止める。

 最後まで言わなかったが、一般庶民といいたいのだろう。

 別に本物のお嬢様のアリサから言われてもどうとは思わない。一応補足しておくと、一軒家を立てて海外を飛び回る親が貧乏なわけないので、一般家庭よりは裕福な方である。

 

「というか、それってシュテル達から聞かなかった?」

「私としては納得がいかなかったから聞いているの。最後のあれだって」

 

 もしかすると魔法を使ったことを言っているのだろうか。

 それについてはすでに相談してある。そう、泰然とした態度で説明すれば問題ないはずだ。

 

「そそ、それは、シュテルが外からドーン的な奴で俺は全く何にも関係ないですはい」

「言い訳するならせめてもうちょっと堂々としなさい」

 

 やはり魔法を見られたことに対する動揺は相当なものだったと口を開いてから実感した。

 

「……事実がどうあれ、やっぱあんたなら隠すわよね」

 

 アリサは意味有り気な言葉を呟いて、ふうと息を漏らす。

 その目は呆れているような、それとも笑っているような、なんだか微妙な感じである。

 これはひとまず逃れられたといっていいのか。

 

 そこで、どこへ行っていたのか見知った顔が。

 

「二人共、一昨日は大変だったね」

 

 フェイトが教室に入ってきて、こちらを見つけるとそう言いながら近づいてきた。

 

「なのは達も休みよね。どうしたのかしら?」

「街中でとばしちゃったせいで、反省中、かな」

「そう……」

 

 とばした、というのは王様との戦闘のことだろうか。

 王様もレヴィも本気を出していたみたいだし、それに対するなのはも本気を出してしまったのだろう。

 はやてがいないのも、同じ理由なのかもしれない。

 

「それでもみんな無事で良かった。なのはも二人のこと心配していたから」

「そうね、シュテル達が助けに来なかったら危なかったかもしれないわ……」

 

 誘拐されていた日の事を思い出したのか表情に影を落とす。

 扱いとしてはあまり良くなかったとは聞いた。直接聞いた訳では無いから又聞きではあるが。

 とはいえ大事な人質だったからだろう、救出時にアリサとすずかにこれといった大きな傷は無かった。そこだけは少し安心した。

 

 やはりと言って良いのか、相手は金品目的の誘拐だったらしい。ただ普通の誘拐と違うところは、誘拐した犯人が組織だっていた事。

 これらはニュースで流れていた内容であり、もし本当であればほぼ解決したと言って良いのかもしれない。経緯は分からないけど。

 

「そうだ、なのはが学校終わったらみんなで会おうって。もちろん、大変な目に遭っていたし、また今度でも良いって言ってたけど」

「いえ、行くわ。すずかとも実は約束をしているの。場所は?」

 

 聞いていると、放課後に会う約束まで取り付けていた。

 多分このまま放っておいたら俺まで着いていく羽目になるのだろう。

 

 今はそれもいいかなって、そう思った。

 

「龍一の家」

 

 前言撤回。

 

 

 

 

「結局どこまで喋ったの?」

「私たちがこの家に住んでいることだけですよ」

 

 家に帰って早速シュテルに問い詰めてみた。

 シュテルの手には編み物。最近ユーリと一緒にしているところをよく見る。

 

 答えに関しては前に管理局ともどもばれていることは知っていた。参観日の時に盛大にネタバレしてしまっている。

 思い返せば、シュテル達は大きな事件を起こした当事者だ。それを監視無しでこうしていられるなんてありえない。

 それでもこうして見逃されているのは、実は監視をしっかりしているのか、放っておいても大丈夫か……あるいは前に聞いた、いずれここから居なくなるからか。

 

 今間違いなくいえる事は、もうわざわざ隠すことはないという事だろう。みんなのことも、魔法のことも。

 

「でもアリシアまでは向こうは知らないよね」

「はい。それに関しては龍一が危惧している通りになる可能性がありますから、みんなで隠し通すようにしています」

「危惧していること……それって管理局に捕まるってことだよね?」

 

 シュテルが神妙に頷く。

 ここまではっきり答えるのであれば、俺の想像通りになる可能性が高いのだろう。

 

「やっぱロストロギアの持ち出しは犯罪者か」

『ロストロギアのこともそうだけど、私自身の存在も危険だからね』

 

 そこで、今までずっと机の上に置かれてあったアリシアが口を出した。

 ちなみにアリシアは俺が起きたときにはスリープモードだったらしい。あの時は焦って損したと思った。

 

「危険って、確かにフェイトとの関係は危ういけど」

『そこだけじゃなくて、私のような意志を持つデバイスは珍しいから』

「そうなのか?」

 

 祝福の風はデバイスだったはず。人間らしいデバイスはそこまで珍しいというほどではないのではないだろうか。

 

 いや、そういう意味ではない。

 アリシアが言ったのは、人間としての意志を持つデバイスという意味なのだろう。

 人間として生を失った人物がデバイスとして存在している。それは別人といえばそうなのだが、その人物としての記憶と意志がしっかりしている時点で危うい存在といえるのだろう。

 

「じゃあ、どうあがいても管理局からは隠れる方がいいわけか」

『うん。特に私の存在はね』

 

 なんにせよ、事件については今のままが一番ということなのだろう。

 下手に口を出すのは危険。

 ひとまずはみんなが家に来ている間は機能を停止して押し入れにしまっておくことにした。

 

 

 

 

 家に来たのは三人。アリサ、フェイト、すずかだ。はやては学校の時点でいなかったが、どうやら病院らしい。いつもの通院とのこと。

 それと正直フェイトは魔王と行動しているイメージが強かったので、魔王を連れて来るか来ないかのどちらかだと思っていたので肩透かしを食らった気分である。

 

「ねえ、龍一。聞いても良い?」

「なにを?」

「シュテルやレヴィ達も居るんだよね。何処に居るの」

 

 油断していた矢先の言葉。

 フェイトからすると聞いて当たり前の質問であるし、身構えておくべきだったのだが、条件反射のように息が詰まってしまった。

 

 それでもどうにか息を整えると。

 

「レヴィと王様は今日もアースラに呼ばれて朝から出て行って、シュテルとユーリは出かけて来るって」

 

 そう伝えることが出来た。

 フェイトは得心がいったかのように頷いたが、詳細はいまいち聞かせてもらっていないので自分にはさっぱりだった。

 もちろん、それには何らかの理由があるのだとは思っているが……

 

「それより、よく外に出ることを許してくれたわね」

 

 会話が無くなったあたりで、アリサがすずかに向けて話し掛けていた。

 

 確かに、アリサは我が強いので学校に登校することだってできたし、うちに来ることも出来た。(とはいえ、送り迎えに護衛が居たりして、今も家の前に隠れている人がいるが)

 すずかの方は蝶よ花よと育てられているだろうし、しばらく家から出て来ないと思っていたが実際には明日から学校にも登校するらしい。

 

「ううん、登校は今日にだってできたし、アリサちゃんが思っているほどじゃないよ」

「そうなの?」

「今日はちょっと、後始末というか……う、ううん、なんでもない」

 

 慌てたように手を振る。

 彼女を見ていると、何故かいつしか前に会った彼女の姉とメイドをふっと思い出した。

 もしかしたら、すずかは事件について何か知っているのかもしれない。それを追及するつもりは無いのだが。

 

 しかし、思い出したのだが呼んだ張本人の魔王が居ない。

 

「ねえフェイト、なのはは?」

「あ、うん。なのはならちょっと遅れて来るって言ってた」

 

 呼んだ本人が遅れるとは。

 フェイトが先に来ているという事は魔法絡みではないのだろう。だとするならば、魔王は実家の件で遅れているに違いない。

 

「つまり、まお……なのはは甘味を持って来てくれる!」

「よく分かったね」

 

 大袈裟に感じられるほど飛び跳ねるようにして驚く。

 恐る恐る振り向いてみれば、そこにいるのは魔王。当の本人は驚いた俺を見てきょとんとしている。

 

「その、勝手に入ったのはごめんね?」

「客人のようですから、私の判断で入れました」

 

 苦笑いしている魔王の後ろから出て来たのはシュテル。

 手には袋を持っていて、その後ろからもレヴィと王様、ユーリがぞろぞろと出て来た。

 なんだか思ってもいなかった集団に少し思考停止していると、隣にユーリがちょこんと座ってきた。

 

「龍一さん、翠屋のシュークリームです。美味しいんですよ」

「ああ、美味しいのは実によく知っているが、それよりもどうしてこの面子で帰ってきたんだ?」

「お客さんが来るので、私とシュテルが翠屋に行くところまでは知ってますよね」

 

 え、そうだったんだ。何も言ってなかったから、てっきり本当に個人的なお出かけかと思っていた。

 

 そう思ったが口には出さずにうんうんと頷いておくことにする。ユーリは俺のことを知ってか知らずか、あんまり疎外感を味あわせるようなことはしたくないらしい。

 だから本を借りに行く時もわざわざ許可を得るし、シュテルに編み物を教えることも報告してきた。

 そもそも、こんなタイミングで外に出るなんて、気が利くシュテルとユーリの事だからおかしくはないのである。

 

「翠屋でたまたまなのはと出会いまして、あ、なのはは管理局からの帰りで、レヴィとディアーチェと一緒だったんです」

 

 それにしても人見知りの気があったユーリも今はこうして流暢に話しをしてくれるようになった。

 時の流れを連想させてくれるのと同時、妙な寂しさも覚える。

 

「龍一さん?」

「あ、うん、聞いてる。それで?」

「ちょうどなのはも龍一の家に行くということでしたので、翠屋でお菓子を増やしてもらって一緒に帰ってきたんですよ」

 

 さすがお菓子屋の娘というところだろうか。みんなが袋を持って帰る分を用意してくれるなんて、これが立場というのか。

 多分商品に手を付けた訳では無いだろうが、明日位に別口でお礼を言いにいってこよう。

 あそこの人もやり手だし、再び店に訪れてくる可能性を視野に入れて、多めにお菓子を用意してくれたのかもしれないと思うと、手のひらの上で踊らされている感が否めないが。

 

「うん、お疲れ様、ありがとうユーリ」

「えへへ」

 

 なんとなく流れで頭に手を置いて優しく撫でる。

 目を細めて嬉しそうにはにかんでくれるところは、なんだか愛らしいペットのようなものを連想させてくれた。

 

 ふと、周りを見ると、周りには何だか宇宙人でも見るかのような皆の姿が。

 

「思ってたけど、龍一って私達の前とこの子たちの前だと反応変わるよね」

「あ、レヴィからよく聞くんだけど、意外と優しいし、遊びにも付き合ってくれるって」

「私もシュテルから聞いた事あるの。感謝してるって」

「へぇ、あの龍一がねぇ」

 

 いまいち納得がいかないのか渋い顔をするアリサ。

 そんな状況で、俺は美味しそうにシュークリームを頬張るレヴィと、わざと視線を逸らそうとしているシュテルを睨むだけだった。

 

「丸太棒を褒めるためだけに集まったのか? ならば我は外させてもらうぞ」

「あ、うん、そうだね」

 

 話が逸れそうなタイミングで、王様が鶴の一声となって空気を変えた。

 なんだかんだ面倒見のいい王様のことだから、きっと俺が嫌がりそうな話題を避けてくれたのだろう。本人にそんなことを言うと白い目で見て来るけど。

 

「えっと、アリサちゃんとすずかちゃん、二人が大変なことになってるのに、気付かなくてごめんね。困っている人を助ける為にって、考えていたのに」

「いいのよ。結果的に助かったわけだしね」

「そうだよ。私達だって、なのはちゃんに何もしてあげられないんだから」

「そ、そんなことないよ!」

 

 あれやこれやと言いあう三人だけど、その内容はお互いに気付かう物ばかりだ。

 これが親友という物なのだろうか。

 こういう姿を見ていると、ほんの少しだけ、こういうのも羨ましいって、そう思う。

 

「ああもう、兎に角、なのはが謝ることはないの! これで終わり!」

 

 いつまでも続きそうな言い合いをアリサが打ち切る。

 魔王もこれ以上続けたら止まらないことを察したのか、それに異論はないみたいだった。そうして、次にシュテル達の方を向いた。

 

「シュテル達も、ありがとう。シュテル達が助けてくれたんだよね」

「いいえ、私は……いえ、そうですね。素直に受け取っておきます」

 

 一瞬言い淀んだあと、シュテルは表情を変えることなく感謝を受け止めた。

 ちらりとこっちを見たのはそういうことなのだろう。こちらとしても言うことはない。

 

 これから先、彼女達と素直に付き合うことになっても、胸に留めておくのだろう。

 単純に目立ちたくないのもあるが、自分が助けに行ってあんなことになったなんて、情けなくて言えたものでもないし。

 

 しかし、どうやらなのははお礼を言いたかっただけの様子である。

 お礼を言い終えると、すずか達の様子を確認しつつお菓子を食べながら雑談モードに入っている。

 

 いや、もう家に入れちゃっていろいろばれてるから雑談くらい良いんだけどさ。

 やっぱり流されているだけなんだなぁ、とこの光景を眺めながらそんな風に思った。

 


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