リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第九十二話 潜入

 廃ビルの裏手に回った。

 それぞれの念話の通話状態に問題はない。王様たちとはあっちでドンパチが起こった段階で切る予定だ。

 こっちの状態関係無く、そっちの方が真剣みを増すと言われたからだ。実際の所、王様も暴れたかったのかもしれない。

 

 さて、それは置いておき、周りの状態を確認する。二階の窓から侵入する姿はそもそも近隣住民にすらばれてはいけない。

 まあ、さんざん上空で戦闘が行われていたのに気にもされていない時点でそんな心配は無用かもしれないが。

 

「大丈夫ですか」

「え? あ、うん」

 

 そういえば最近はシュテルに心配されることも多くなった。少し前は逆だったのに、なんだかさみしくも感じる。

 いや、それはシュテルが成長したということなのだろう。何も変わっていないのはむしろ……

 

「なんて、考えても仕方がないこと」

『うん、今は二人を助ける事だけに集中しなきゃ』

 

 そう、ここには変わらなくても良いと言ってくれたアリシアもいる。シュテルだって自分を信頼してくれている。今更考える事なんて何も無い筈だ。

 

 時刻としてはそろそろ。俺は外で監視をしているユーリと何処かに移動している王様に念話を飛ばす。

 

(そっちは?)

(はい、その上なら誰も監視をしていません。今なら行けます)

(こっちも準備が整った。すぐに始めても良いのだな?)

(ボクはもう戦いたくてうずうずしているんだからさ!)

 

 なんとも、安心感のある仲間な事か。

 あとは自分の気持ちを固めるだけ。

 

 深呼吸を一つ。

 

 …………

 

(王様、レヴィ、始めて!)

(ふん、失望させるなよ丸太棒)

(頑張ってね!)

 

 その言葉を最後に二人の念話が途切れた。

 それと同時に海鳴市上空で強烈な魔力反応を感じた。

 

 おいおい、本気を出し過ぎだろう……

 

「行きましょう、龍一」

『そうだよ、この様子だとなのは達がすぐに来ちゃうから!』

「あ、ああ、そうだな」

 

 今なら二階からなら無事に入れるというユーリの言葉を信じて、軽く浮遊して二階の窓に手を掛ける。

 グッグッ。

 

 ……ん?

 

「あれ、もしかして」

『鍵がかかってる、みたいだね。厳密に言えば、鍵が潰されてる』

 

 ここにきて予想外の出来事に頭がいっぱいになる。

 動悸が早くなり、押しつぶそうとして来るのは勝手に感じているプレッシャー。

 

 あ、いや、ここで混乱するのはまだ早い。そうだ、まずはばれていないかそうか、それを確認してからでも……

 

「龍一、落ち着いてください」

 

 シュテルの声にハッと我に返る。

 そうだ、まったく考えてない事では無かったはず。しかし、いきなりの躓きに動揺を完全に抑える事が出来ない。

 

(す、すみません! 鍵まで見ていませんでした!)

(い、いや、違う、これはこっちで確認していなかったから!)

(いいえ、鍵に関してはここからでも観測が出来ます。えっと、その位置なら三階から入ることが出来ます!)

(そ、そっか。あ、ありがとう)

(い、いえ……)

 

 ああもう、駄目だな。入って大丈夫と指示してくれたのはユーリだ。それなのにこっちが不安そうにしていたら、それ以上に不安になるのはユーリに決まっている。

 ユーリはそういう子だし、それが分かっていたはず。

 

 と、そのタイミングでビリッとしびれが入った。

 

「痛っ!」

『ちょっと電気流しただけだよ?』

「ちょっとという割には普通に痛かったが」

『でも、すっきりしたでしょ?』

 

 電気を流されてすっきりするような奴はいないと思うが。

 でも、同意したくはないけど少し晴れたような気分ではある。

 

「よし、じゃあ入るぞ」

 

 三階の窓は――開いた。

 ここから、より一層気を付けて進まなければならない。

 

 

 

 

 

 

「えへへ、王様と思いっきりやり合えるなんて、この世界じゃもうないと思ってたよ!」

「ふん」

 

 海鳴市上空で斬撃や光線が飛び交う合間にも、お互いは言葉を交わす。

 全力といっても本人達にとってはお遊びみたいなものだ。この世界で学んだ非殺傷設定にしているおかげで、仮に攻撃が直撃したとしても酷い怪我を負うことはない。

 とはいえ、非殺傷設定は一応のもの。二人共お互いの攻撃で倒れるなんて思ってもいない。

 

 今回の戦いには制限時間がある。その制限時間の時に本気になり過ぎてしまわないよう、ストッパーとしての大きな役割で設定しているに過ぎない。

 いくら非殺傷設定でも、負けず嫌いの二人が本気にならないはずが無いのだが……それについては二人共気付く様子はない。

 

「でも意外だよね、王様ってあんまり他の人に優しくしないのに」

「は? 我が? 他人に? 優しく? レヴィ、その妄言は貴様の脳内からでたものか」

「ほら、そうやって動揺してる」

「ぐっ……」

 

 自分で分かっていたのか、歯噛みするディアーチェ。その間にも飛ばしてくるレヴィを簡単にいなしていく。

 

「ちぇっ、ロングレンジじゃ王様に攻撃が当たらないよ」

「油断を誘おうとしても甘いわ!」

「だったら、近づくだけだから!」

 

 さすが、というべきか。その言葉と同時にレヴィはぐんぐんとディアーチェとの間合いを詰めていく。

 そのままクロスレンジに持っていかれれば不利になるのはディアーチェ。すぐさま暗黒の魔弾をレヴィの壁になるよう弾幕を張っていく。

 

「で、どうして協力したの?」

「気分だ」

 

 張られた弾幕をかいくぐり、時に切り払うなどして打消していくことにより移動していくレヴィ。

 しかし、これ以上距離を縮められないように、その方向を誘導しようとするディアーチェ。

 レヴィが自分の得意レンジで戦えない以上劣勢ではあるが、逆にその弾幕を抜けてしまえば状況は逆転する。

 

「でも、なんだか優しくなっているような……」

「ゆさぶりなど効かんぞ!」

 

 一進一退の攻防だが、まるで余裕があるかのように会話も続ける二人。二人にとって戦闘と会話に違いはないのかもしれない。

 そのまま言葉を重ねながら、戦いはより一層苛酷さを増していっている。

 

 刃が煌き、打ち消された魔弾は再び途切れなく生み出されていく。

 さすがにキリが無いと感じたのか、レヴィはすぐさま反転し、幾分距離を開けながらディアーチェと再び相対した。

 

「うーん、でもいつものディアーチェっぽくないんだよね」

「仮にそうであるならば……」

 

 ディアーチェは思考に沈む間も、特大の魔力波を生み出しながら次の攻撃へ転じようとしている。

 レヴィとて片手間の会話に気を止められることも無く、相対したディアーチェの一挙一動を見逃さないように見据えた。

 

 手を空に掲げ、その先から巨大な魔弾を生み出す。それは弾幕としていたような魔力量では無く、相手によっては最後の一撃とも感じ取れるほどの強大な魔力を内包していた。

 

「盟友や、仲間が認めたものであるならば、我とて無下に扱わない、ということだな」

「素直じゃないんだから」

 

 まだ時間はある。

 二人は、その時間をめいっぱい楽しむように、心を躍らせていくのだった。

 


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