リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第九十一話 作戦会議

 太陽が半分以上隠れようとしている夕暮れ時、俺達は廃ビルの近くの公園でジャングルジムをベンチ代わりにして集まっていた。

 

「あそこが隠れ家なのか?」

「あの時の車もありますし、窓から不必要な監視も見られます。おそらく、間違いないかと……」

 

 ユーリが廃ビルの様子をうかがいながら答える。

 窓からの監視など見えるはずもないので少し訝しげになっていたところ、王様が気に障ったかのように鼻を鳴らした。

 

「はっ、我の盟友が嘘を吐く訳が無いだろう」

 

 犯人の居場所自体は、さほど時間をかけることなく突き止める事が出来た。

 その理由もひとえにシュテルが誘拐に利用されていた車を記録していたから。

 それだけでなく、ユーリが遠見することができたため、移動しながら探すと言った余計な時間をかける事が無かったことも理由の一つだろう。

 

「いや、ユーリの言葉に疑うことなんて何もない。ごめん」

「い、いえっ! 龍一さんは見えないので、疑ってもおかしくないですよ!」

 

 フォローしてくれるなんて、ユーリは優しいなぁ。

 

 さて、外で騒がしくしていても仕方がない状況。

 敵の拠点が掴めたのなら、これからどうするか、それを考えなければならない。

 

「シュテル、どうすれば良いと思う」

「バーンといって! ドカーンと助ければいいんじゃないの?」

 

 レヴィが横から口を出すが、擬音語ばかりで意味が伝わり難い。言いたいことは分かるが。

 

「レヴィ、ここで派手な魔法は禁止の筈です」

「ちぇっ、そうだっけ」

「ふん、ちまちまと攻略するなど、我には合わんがな」

 

 本気を出せるなら、そりゃあ四人の内一人だけでもなんとかなるだろう。相手は普通の人間だ。魔法を使えばそうそうやられることはない。

 しかし、問題はその魔法が使えない事。そうなると、せいぜいバリアジャケットしか使えなく、直接戦闘は非現実的だと言わざるを得ない。

 殴り合いでも勝てるかもしれないが……敵の内情が見えない以上、止めておいた方が良い。

 

「えっと、助けを求めるというのはどうですか? 他の大人の人達に……」

「それは……厳しいですね」

「どうしてですか?」

「証拠が不十分な上に、人質を取られているようなものだからか。すずかとアリサの家は率直に言って金持ちだ。そんな家の子供が行方不明になって何もしていないはずが無い。すでに取れる手は打っているはず」

 

 ただの不良程度であれば警察を呼ぶ手もあるのだが……そう考えて廃ビルの様子をうかがう。

 ユーリの話によればずっと監視の目を光らせているらしいが、よくわからない。しかし、話が本当であれば、そのよくわからない状況というのがあまりにも出来過ぎている。

 ただの不良にしてはあまりにも動きが綺麗すぎるのだ。

 

「計画的な犯行であれば、仮に警察が動いた場合も考えているかもしれない。やっぱり、二人は無事に助け出したい」

 

 警察に言っても子供五人だと本気になってくれない可能性だって高い。悪戯だと思われるのが関の山だ。

 それにもし警察と繋がっていた場合……いや、そこまではいいだろう。お嬢様二人がいなくなったにしては不穏なのは間違いないが、それは考え過ぎだ。

 なによりも時間をかけたくない。二人の状態が分からない以上、一刻も早く無事な様子を見届けたいのだ。

 

「ならばどうする? 消極的な意見など、議論に値せんぞ」

「うん……」

 

 王様は急かすが、これといった意見は思い浮かばない。

 そうして行き詰っていた時、いままでずっと無言だったアリシアが話し掛けてきた。

 

『潜入はどうかな』

 

 潜入。とはまた現実的じゃない。

 助けも求められず、時間もかけられないとなると、そうなることは必然。

 しかし内部構造が分からない上に敵もまだ未知数。あまりにも危険な案ではないだろうか。

 

『あの廃ビルは前にお兄ちゃんが入ったことがあるよね』

「えっ? あのビルに……」

 

 アリシアの言葉に対して記憶を巡らせる。

 

 ……そうだ、確かに行ったことがある。闇の書に巻き込まれた事件、祝福の風と始めて邂逅した場所。

 

「でも、詳細な構造は記憶にないよ。行ったことがあるからって……」

『私を誰だと思ってるの? 内部構造なんて、解析済みだよ』

「アリシアが……あ、そうか、あの時にアリシアも連れて来たんだっけ」

 

 だとすれば内部に関しては問題ないのかもしれない。そこはアリシアを信用するとしてだ。

 しかし、相手の内情に関しては未だに分からない。それに関してはやはりどうしようもないのかもしれない。

 

「あの、少し危険かもしれませんけど……」

 

 行き詰りそうになった空気に、おずおずとユーリが手を挙げる。

 一斉に集まる視線に少しびくりとしたものの、そこで言葉を止めることなく口を開く。

 

「廊下は窓に面しているみたいですから、ここから私が監視して、会わないようにする、というのは……」

 

 自分でちょっと無茶な案だと思い直したのか、そこで言葉を止めるユーリ。

 しかし、それは危険ではあるが、無茶ではない案なのではないか。

 

「……いや、意外といけるんじゃないか」

「そう、ですね。視覚的に有利を取れるのは強みですね。あとは音でしょうか」

 

 シュテルがその線で真面目に考察を続けてくれる。

 音か……魔法で戦うときは爆音だらけで頼りにならない感覚だが、今回のケースではむしろなによりも重要視するべき事柄だろう。

 音を出さずに、といえば飛行しながら動くべきか。しかし、アースラの魔力感知がどれほどかわからないが、微量な魔力が検知されるかもしれない。

 

「なるほど、考えていることが分かるぞ丸太棒」

「王様、何か妙案が?」

「我の方で管理局の目を反らしておけばいいのだな」

「……は?」

 

 考えていることが分かる、というのは間違いない。何に対して困っているのか理解はしてくれている。

 しかし、王様の言っている意味が解らない。

 

「ふん、考えが浅いぞ。魔力の感知を恐れているのだろう。だったら、それ以上の魔力を発生させればいい」

「えっと、つまりおとりになってくれると」

「この世界で言うなれば、木を隠すなら森の中、といったところか」

 

 無茶苦茶ではあるが、取れる手立てとしては悪くない。

 ……いやしかし、派手な魔法は禁止だとシュテルが言っていなかっただろうか。

 

「あくまでこの世界に被害を及ぼすものに限りだ。レヴィと特訓してたとでも言えば、なんとでもなる」

「えっ、暴れても良いの!?」

「それでも怒られるのは変わらないと思いますが」

 

 つまらなそうにしていたレヴィが、ぱっと笑顔を咲かせて反応する。シュテルが少々苦言を申しているが、そんな事は気にならないらしい。

 そもそも、王様は出来もしないことを口に出さない性格。予想通りと言って良いのか、反論が無いのを確認した後、レヴィを連れて王様は手を振って公園から退出していった。

 

「ディアーチェはレヴィの様子も気にしていましたから」

 

 ユーリのフォローも分からないでもない。レヴィはとにかく暇をしていた様子だったので、それのストレス発散も兼ねているのだろう。

 今回に至っては、デコイともなってくれるのでありがたい。

 

「とれる時間としては長くない、か」

「そうですね、ディアーチェが止められるまで……長くても二十分ほどでしょう」

「侵入は飛んで二階から入ってほしい。一階の入り口は見張りがあるだろうから」

「はい」

 

 王様が位置に着いたら念話をしてくれる。それが作戦開始の合図。

 静かに時間が過ぎていく中、アリシアが思いもよらないことを言った。

 

『ねえ、突入はお兄ちゃんもするんだよね』

「……え?」

『いや、えって……まさか、シュテルに任せるつもりだったの』

 

 そういえば自然とシュテルとアリシアが突入することになっている。

 俺といえば、特に役割も得られないままここにいるだけ。

 個人的にはそっちの方が良い。シュテルだって、分かりにくいけどほんの少し心配げな視線を送っているようにも見える。

 

 ……でも、助けて貰っている身としては、それだけでいいはずが無い事も分かっている。

 

「ももも、もち、もちろん……いひゅぜ!」

 

 アリシアはほっと息をつき、ユーリは心配そうにして、シュテルは目を閉じた。

 なんとも、締まらないが、こうしてところどころ駄目なのが自分なのだろう。自虐でも無く。

 今は二人の無事を祈ろう。ただそれだけを思って、見えない監視のある廃ビルを見上げた。

 


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