リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
今日はシュテルとユーリの三人で買い物に出かけていた。
夕食を考えながら買い物は順調に進み、特に問題がないまま帰り道。
「お野菜が安くて良かったですね」
ユーリが荷物を持ち直しながらそう笑いかけてくる。
最近のユーリは俺に対して遠慮をしなくなってきた。もちろん、それが悪い筈もなくいい傾向だと言える。
「でも、わざわざ来てもらったのはごめん。荷物が多くなりそうだったから」
「そんな、私も好きなものかってもらったので、こちらこそお礼を言わなきゃなりません」
「いやいやいや」
「いえいえいえ」
そこまでお互いに遠慮し合って軽く噴き出す。
慣れてきているのは変わりないが、謙遜を続けるのは変わらないらしい。
シュテルもなんだか穏やかな目で見つめて来て、今こうしている事が自然になっているんだと感じる。
「さて、ここを進むと後もうちょっとで家だぞ。そこまでもうひと踏ん張りだ」
「はい!」
と、そこまで二人で話していた時、後ろから猛スピードで進んでくる車が目に入った。
少し危険な気がしたので、ユーリを背中に庇うようにしてその車が通り過ぎるのを待つことにする。
車が横切る瞬間、なんとなく、見慣れたものが映った気がした。
「あ、危ないですね。何か急いでいたんでしょうか?」
ユーリの疑問に対して閉口する。
答えを持ち合わせていないというのもあるが、今見えたものがなんなのか自分で良く分かっていなかったからだ。
ただの気の所為だろうか。
「龍一さん?」
「あ、そ、そうかも。ここらであんなスピードで走る奴なんて見た事無いしな」
ユーリにそう返しておいて、俺も隣のシュテルをちらりと見る。
何かに引っかかっているようであるが、よくわからないという様子。シュテルが分からないならば、こちらで考えても答えなんて出ないだろう。
「……帰ろうか」
「はい、そうですね」
とりあえず今はその車に対して考えないことにした。
しかし、次の日のことだった。
「え、すずかとアリサが来てない?」
魔王たち三人組から聞いたのは二人が来ていないという話。
ただの風邪らしいと先生から聞いて、放課後お見舞いに行こうと誘ってきてくれた。
それだけのことに、なぜか心の中がざわつく事を覚える。
「どうかしたの?」
「あ、ごめん。うん、いくよ」
心配そうに聞いて来るのを打ち消すように、手を振って否定をする。
大丈夫、気のせい、気のせいだ。
そう心の中で自分に言い聞かせるだけ。
「じゃあ、学校が終わったらそのまま行く?」
「私の家で、お見舞いのお菓子を持って行こうよ」
「それはええ考え……自分のお店をさりげなくアピールとはやるなぁ」
「そ、そういうつもりじゃないよ!」
三人は談笑している様子で、すずかとアリサは本当に病気だと思っているらしい。
本当にじゃない、病気で休んでいる。
きっと、彼女らは家で寝込んでいるだけだ。そうでなければ、いったいなんだというのだ。
だが、放課後の月村邸の前でその淡い期待は大きく裏切られることになる。
「すずかお嬢様は病気を患いまして……今はお会いできる状況ではありません」
メイドの人だろうか。その人は冷静を装ってはいるものの、語気を強めて有無を言わせないような口調でそう伝えてきた。
魔王たちもその様子が尋常じゃ無い事は伝わっているだろう。
しかし、それがなんなのかは分からない。もしかしたらそれほど重い病気なのかもしれないと、そう考えているのかもしれない。
しかし、俺は見てしまっていた。
車が通り過ぎるときに見てしまったものを。
違う! 何も見なかった! あくまでもあれは一瞬で何なのかわからなかった!
そうだ、それにもう一つの者はどうなる。アリサは家でちょっとした風邪で寝込んでいるのかもしれない。
そう、そうだ……
気が付けば、魔王たちはお見舞いの品を預け、次にどうするか相談し合っているところだった。
「次はアリサちゃんの家かな」
「やな。でも、月村さんも心配やなぁ」
「そうだね。風邪でも流行っているのかな」
あくまでも普通の会話だった。
普通? では普通では無い会話とは何なのか。ともかく、こうして三人の判断を任せよう。
それだけならば、俺も一瞬でも安心することが出来る。
そう、月村家のメイドの表情を見るまでは。
「……」
それは悲しそうな顔だったのだろうか。
自分でも、その一瞬の記憶は定かじゃない。
ただ、それは風邪にお見舞いに行く、知り合いの友人達を見る目じゃ無かったのは確かなことだった。
ドアを開ける音がけたたましく家に響く。靴を脱ぐのももどかしい。抛り出すように脱いだ後、リビングの扉を開けた。
行動は一緒ではないにせよ、四人共ソファに座っていた。
驚いた顔を見せるユーリに、こちらを一瞥しただけの王様、寝ぼけ眼をこするレヴィ、そして頷くシュテル。
そんなシュテルに少しの驚きを覚えるものの、考えてみればおかしなことではないと思い直す。
「気づいていたんだな」
「映像を撮っていましたから」
魔法によるものだろう。もしかしたらあの後帰宅した時にはすでにわかっていたのかもしれない。
いや、いつわかっていたのかなどどうでもいい。
シュテルは俺の性格をきちんと理解している。仮にもっと早くに気付いていたとしても、伝えなかっただろう。
「どうしますか」
シュテルは何時もの無表情を向けて、選択権を委ねてきた。
その問いに、あわてていた自分を落ち着かせるように自分の中で今回の出来事を纏める。
あの後、アリサの家でも同じように門前払いをくらった。それは自分の中での疑惑を確信に変えるには十分なものだった。
居ても経ってもいられず、三人とはすぐに別れた。でも、自分の中で決着がついている考えとは言えない。
いつも通りなら彼女らは魔王たちに助けられる。はずである。
この物語はそうして進んできたし、結果としてそうなるように仕向けられていた。
しかし、彼女らは唯の友人だったはずだ。それはシュテル達が出てもずっと変わらない事実。
だからこそ、思う。
彼女達は、魔法少女リリカルなのはにおいてそんなに重要な役割だったか?
それに記憶が正しければ魔王たちは管理世界へと行くはず。あの二人の友人はこの先出てくることが無かったはずだ。
だとすれば、ここで退場しても何も問題無いキャラでは……。
「悩んでおるみたいだが、一つだけ、アドバイスをしておいてやろう」
珍しく王様が口を挟んできた。
「この事件、魔法の管理局は動かん」
そう、断言した。
どうして知っているのかと、そんなことが頭によぎったが、シュテルの相談相手として王様は申し分なかったはず。
おそらく、内々で話を通していたのだろう。
「どうしてそう言い切れるんだ?」
『相手は普通の人間だからだよ』
何時から聞いていたのか、アリシアも会話に混ざる。
アリシアまでも、そう思うが、今はそこに考えを及ばせる意味は無い。
そして、アリシアの言うこともまた理解出来た。考えてみれば当然ではある。この時空は管理外と言われていたはずだった。むしろ、こうして駐留していることの方がおかしいのだ。
結論を先延ばしにしてきた、いつも通りの自分。
今はそんな事で悩みはしない。
こんな自分を肯定してくれる人たちがいるのだから。
「皆の力を、借りても良い?」
「ええ」
シュテルだけでなく、普段は素っ気ない態度を取っている王様も腰を上げる。
一人で行く勇気は今も持ち合わせているとは言えない。
でも、今は皆がいる。
だったら、動くしかないのだろう。