リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
「図書館という物に行ってみたいです」
ぼんやりと昼の陽気に身を任せていると、テレビを見ていたはずのユーリが目の前にいた。
真剣な様子に、とりあえず佇まいを直す。
「どうしてまた突然?」
「テレビでやっていたんです。図書館にはいろいろな本があるって」
「はあ……」
なんとなく興奮しているようにも見受けられる。
そういえばユーリも本が好きで、家にある本の感想をシュテルや王様と語りあったりしていたこともあったか。
本を読むという事に関しては、レヴィ以外はみんな好きな気がする。あ、いや、漫画は読むか。
「そうだな。どうせならシュテルや王様とも一緒に行くか」
「はい!」
ユーリは眩しい笑顔で元気良く頷いた。
なんだかんだで一緒にお出かけというのをあまりしていなかったし、こういう機会もたまにはいいだろう。
ちなみに、レヴィは案の定興味が無さそうだったので、フェイトのところに遊びに行く事を勧めておいた。
そんなこんなで久しぶりに訪れた図書館。
一見したところ、前に来たときと変わってはいない。これなら三人が何か探したい本がある時も力になれるだろう。
それでも最近あまり来ていなかったので、この光景も久しぶりに感じる。
「すごいですねー……」
「ふん……」
シュテルとは来たことがあるので反応は無いが、初めてのユーリと王様はそれぞれ興味深そうな様子。
すごいといっても、これ以上の図書館なんて世界中に五万とあるので苦笑するのだが。
早速興奮した様子でユーリがこちらを向いた。
「あ、あのっ、見て回っても良いですか?」
「うん。ここにある物は好きに見ても良いから」
「はいっ!」
そうしてユーリは慌てたように本棚の奥に入っていった。
そんなに焦らなくても本は逃げないというのに。
ふと見れば、その後ろについていく王様の姿もあった。なんだかんだで王様もはやる気持ちを抑えられないらしい。
「じゃあ、俺はこの辺りで新刊を読んでいるけど、シュテルはどうする」
隣でじっとしているシュテル。
少し考える間があった後、二人が行った方角を指差した。
「わかった。何かあったら呼んで」
「はい」
「もしかして、龍一?」
「!?」
じっと本を読んでいると、突然誰かに肩を叩かれて飛び跳ねるように驚く。
振り返ってみると、そこにはレヴィと遊んでいるはずのフェイト。
「フェイト? あれ、どうしてここに」
「レヴィから、龍一とシュテル達がここにいるって聞いたから」
「そのレヴィは?」
「アルフが遊びに連れて行ってくれたの。たしか、ゲートボールに行くって言ってたかな」
そういえば、この時間帯はおじいちゃんたちがゲートボールに興じていた時間だったか。
もしかして、前に連れて行ったときのことを覚えていて、少しでも興味がわいたのかもしれない。
何か楽しいと思える事を作ってくれるのは、個人的に嬉しい。
「そっか。フェイトは……」
「他の皆が図書館に行ってるって聞いて、私も本を読んでみたいなって思ったの」
「本か……」
フェイトならはやてに聞いてもよかったはず。実際に前にはやての家であったときははやてから本を教えて貰っていた。すずかに聞くでもいいはず。
いや、俺達が来ているならと思って、ついでにおすすめの本でも教えに貰ったのかもしれない。
確かに言われてみればついでだ。どうせなら、フェイトにも本の世界にもどっぷりつかって欲しい。
「うん、いいよ。個人的にだけど、面白いと思った本を勧めてみるよ」
「ホント? ありがとう」
フェイトは嬉しそうにはにかんでくれる。
そういえば、こういう表情をあんまり見た事が無い。いや、見ようとしなかったのかもしれない。
短い間。でも、今度からは皆との親交を深めるのも悪くないかもしれない。そう、思った。
気づけば外はもう夕暮れの時間。
思ったよりも図書館に長居してしまっていたらしい。さすがにそろそろ帰らなければ夕食も遅れてしまう。
そう考え、フェイトにはそろそろ帰る趣旨を告げる。
「そうなの? 今日はありがと。面白そうな本をいっぱい教えてくれて」
本当にうれしそうな顔で言ってくるので、こちらも少々照れつつ「楽しかった」と返す。
フェイトはその後気に入った本を借りるためにカウンターの方へと向かっていった。
初めてとのことで少し心配だが、今よりコミュ障だった自分でも優しく教えてくれた司書さんもいる。それとなく確認だけしておけば大丈夫だろう。
さて、こちらはこちらでシュテルたちを探さなければならない。
あれから特に何も連絡がないので、あてはないに等しい。しょうがないので、最初に向かっていった方向へと向かうことにする。
そちらの方へ抜けると、いくつかの机。
こっちにも机があったのかと考え、そしてそこで顔をつつき合わせている三人に対して苦笑する。
「気持ちよさそうに寝て……しょうがない」
もうちょっとだけ寝かせておこう。
手近に空いている椅子にかける。本は返してしまったので手持ち無沙汰ではある。それでもこの状況をすぐに壊すのは少し野暮にも感じられた。
短い時間の間は、その寝顔を見ながら夕ご飯の内容でも考えることにしよう。
短くも平穏な時間はそうして流れていった……