リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
「それでどういうことなの」
「あー、うーん」
授業参観から次の日。
なぜか誘拐されるようにはやての家に連れて来られ、すでにいたシュテルと共に魔王たちから詰問されている状況である。
たちとは言っても実際のところ魔王とはやての二人だが。フェイトとすずかはこちらに気に留めることなく本の談義をしていて、アリサはシュテルのこと自体をよく知らないせいか遠巻きに眺めているだけである。
「そうだね、もしかして紹介したときから?」
「えとえと、そのその」
正直何も考えていなかった。
というより、住んでる所をばらすとか、まじあのリンディとかいう女狐は敵なんだということを実感してしまう。
そんな逆恨みのようなことをしてもしょうがない。今は何とかしてこの追及を如何にかしなければならない。
それは頭で分かっているのだが、まったく妙案なんて思い浮かばず、時計が進む音だけが周囲に流れる。
「私から説明しましょうか」
そこで何か思いついたのか、シュテルが手を小さく上げた。
「私達はこの事件の前にもこの街に現れました」
「うん。あの時はどうしようもなくて……」
「いえ、それは良いのです。その後の話です」
「その後の話?」
「ナノハ達に倒された後、完全に消える事が出来なかったようで、再び生成されていたようなのです」
なるほど、ここまでのシュテルの説明から、どういう筋書きかうっすらと理解することが出来た。
「そう、そうだった。山にいた時はビックリしたよ」
「ええっ、山にいたの?」
「はい、そうです」
シュテルは多分、半分事実と嘘を入り交えて話すつもりだ。
最初に現れた後の空白期。そこを出会いとして、伝えるつもりだろう。
「何にも覚えていなくて、なんやかんやで一緒に暮らすことになったんだ」
「そうだったんだ……」
魔王は納得したのか、それ以上を追及することはなかった。
ほっと一息をつくも、今度は別の方から視線を感じる事に気が付いた。
「で、魔法については認めたんか」
はやての言葉に、そういえばそんな設定もあったなと他人事のように思う。
「……どうして、魔法が関係あるの?」
こんな状況でありながらすっとぼける自分も大概である。
案の定訝しむような視線を向けてくるも、はやてはひとつ溜息を吐いて「まあええか」と呟く。
陰でこっそりとこちらをみるヴィータは、得心がいったかのように頷いていた。
あの後、それ以上の追及もなく、普通に遊び、解散という流れになった。
俺とシュテルはそんな夕暮れの帰り道を一緒に歩いていた。
「助かった、シュテル」
「何がでしょうか?」
「ほら、色々と話さないでいてくれたじゃないか」
「そうですね……」
ふと、シュテルが足を止める。
何かを考え込むようにじっとその場に佇み、そのまま少しの時間が過ぎた。
「……龍一は、このままでよろしいのですか」
「このまま、とは?」
シュテルが何を伝えたいのかよく分からない。このままと言っても、今に不安はあっても不満はなかった。
シュテルの意図を探ろうとした時、不意に目線があった。
「シュテル?」
「龍一、ナノハ達は時空管理局に入ろうとしています」
「そうなのか?」
もう結構なことここに住んでいるせいで、原作がどうだったかなんて忘れてしまった。
でも確かに、そういう展開だったような気はする。
「龍一は、このままでいいのですか?」
……もしかしたら、シュテルは心配してくれているのかもしれない。
魔法の力があって、それを黙ったままで良いのか。もし時空管理局に入るというのなら、魔王、確かフェイトとはやても入るんだっけか。あの三人とも会えなくなる。
でも、それは本当の所願ったりかなったりだった。
何度命にかかわったか分からない。それに、アイツらがいなくなればこの街も平和になる事が確約されている。
「いいよ」
それは本心から出た言葉だった。
「なんとなく言いたいことは分かるけど、どうせ魔王……なのは達とは男女の違いもある。いつまでも友情は続かない」
「でも、もしあちらに行けば、同郷となります」
「それでも、同じ事」
おぼろげながら魔王たちの行く末は知っている。
イレギュラーが混ざったとしても、なんだかんだで事件は収束していくことをここ数年で知った。
だから、あの輪の中に入ってもなんら問題無いのかもしれない。
でも……
「どの道全てを話したら犯罪者になる。アリシアの事もフェイトには言えない。それに、やっぱり才能の差は大きい」
やっぱり、自分自身とあの輪には距離がある。劣等感などは一切関係ない、確かな距離が。
シュテルもそのことをよく分かっているのか、反論は無い。
「だから、シュテルが何を心配しているのかは知らないけど、今のままで問題無いよ」
「……そう、かもしれませんね。でも、龍一」
シュテルの先に続く言葉は、何となく予想できていた。
だからこそ、その言葉に無理矢理かぶせるように、こちらの意思を伝える。
「私達も」
「今は、シュテル達もいるからな」
それを聞いたシュテルは一瞬表情が変わったように見えたが、やっぱりいつもの無表情だった。
何か言いたげな気配。しかし、最終的にシュテルは何も言わず帰路を歩き出した。
少し歩いた辺りで、シュテルは未だに立ち止まる俺に振り返り言った。
「帰りましょう」
「うん」
選択を誤ったとは思っていない。心配してくれたシュテルにも悪い事をしたと思う。
でも、なんだかんだで元の世界に戻れる見込みが無いのであれば、この世界で平和に生きていくしかないのだ。
今はただ、この時間が少しでも長く続くことを祈るだけだった。