リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第八十七話 参観の乱

「参観日という物に行ってみようと思うのですが」

「ぶーっ!!」

 

 平和に日々を過ごしていたところで、突然のシュテルの告白に呑んでいたお茶を吹き出す。

 なんとかコップに向けて出して被害は抑えたものの、シュテルの真意が読めず困惑する。いや、今までシュテルの真意が読めたことは少ないのだが。この子ポーカーフェイスだし。

 とにかく、シュテルがなぜ突然その行動に行き当たったのか、対話を試みる事にする。

 

「な、何でそう思ったの? ていうか、どうして参観日がある事を知っているの?」

 

 親に渡す系統の物は、重要な物ならば保護者代わりの親戚に渡しているが、それ以外のお知らせなどは自分で見て勝手に捨てている。

 ゴミ箱を漁らない限り、そう言う情報を仕入れてくるのは難しい筈。

 

「ナノハたちから情報を頂いてきました」

「だよねぇ……」

 

 ……普通に考えたら、そうだろう。

 いや、決して友人伝手とかされたことないから、発想として思い浮かばなかったわけじゃないぞ。

 とりあえず今は頭を切り替えて、今度はどうしてそう考えたのか問いただすことにする。

 

「で、どうして参観しようと思ったの」

「あ、その、それは私が行きたいって言ったんです!」

「ユーリが?」

「はい……龍一達が行っているガッコウというものが、楽しそうだなって」

 

 そう言って顔を伏せるユーリ。そんな反応をされると、まるでこっちが悪い事をしたかのように感じてしまう。

 しかし、実質ずっと缶詰状態にするつもりは無い。何時別れると知れない身、なるべくなら、望むことはなるべくかなえさせてあげたい。

 

「……参観日、来ても良いぞ」

「本当ですか?」

「ただし、条件がある――」

 

 自分の希望と向こうの希望。その両方が叶えられるような案を、俺はユーリに伝える事にする。

 きっと、それは叶うだろうという確信もあって。

 

 

 

 

 

 参観日の日になった。

 クラスメイトの親が狭い教室に集まっているのを見る。うちの親がもしいたら、こんな中でも目立つことをするかもしれない可能性を考えたら少しばかり身震いがした。

 さて、本題であるシュテルだが、まだ来ていないようだ。

 それは高町たちも同じなのか、心なしかそわそわしているように見える。

 

「なあ龍一、龍一は親が来るんか?」

「は、ひっ!?」

 

 突然声を掛けられて変な声が出る。

 声を掛けてきた張本人でもあるはやては、いつものことかと納得をしたのち、再び口を開いた。

 

「龍一、親は?」

「今回も来ないよ。なかなか帰ってこられる仕事じゃないみたいだし……」

 

 そういえば、二人が何の仕事をしているのか詳しくは知らない。なんでも、貿易会社とかなんとか聞いてはいるが、あんまり関係ないと記憶に入れてはいなかった。

 まあ、この町に住んでいる限りは遠い出来事よりも周辺の出来事に目を向けていた方が良いと思うが。

 

「私の方はなぁ、シャマル達が来てくれるんや」

 

 笑顔を浮かべてそんなことを言うはやて。

 ……もしかしてそれを伝えたかっただけなのか。特別嫉妬のようなものはわかないが、なんとなく癪に触ったことは認める。

 

「そういえば、他の四人はどうなの?」

「んー? フェイトちゃんはお母さんが来るって言うてたな。三人は都合がつかんて言うて、来ないらしいで」

「へー、フェイトの母ね」

「嬉しそうに言っとったで」

 

 そういえば、なんかアースラの艦長が母親だとか聞いたっけ。あんまり会いたくはないなぁ……

 

「あと、実はな……」

「はやて、そろそろ時間だぞ」

「ん? ほんまや、ま、後のお楽しみやな」

 

 ちょっと口に含みに持たせながら着席するはやて。

 あの様子なら、心配はなさそうだ。

 

 そう、実はあの三人にだした条件は、許可をとるならこの三人にしてほしいということである。

 当たり前だが、自分とのラインはつなげておかないに過ぎないのだ。

 

 さて、そうこう言っている内に授業が始まる一分前くらいになった。

 お嬢様学校だからなのか、参観日だからなのか、この時間にはもう殆どの人が席について待機している。

 そんな静かになっていくなか、廊下の方から聞いた事のある声が聞こえて来た。

 

 がらっ、扉を開ける音が教室に広がる。

 

「へー、ここが学校なんだね」

「無知を晒すな。馬鹿者」

 

 レヴィと王様の声、少しだけ内心を喜色に染め、ちらりと後ろを振り返る。

 

「……」

「あっ」

 

 目があったシュテルとユーリが、ぺこりと頭を下げる。

 ……いや、そうじゃない。なんかシュテル達、正確にはユーリ以外いつもと違う。

 いつもと違う、ではない。

 何故か身体が大人になっていた。

 

「ぇっ」

 

 と、理解が追い付いてきた段階で驚愕の声が喉から出そうになる。

 それと同時、予鈴が鳴った。

 これですぐに問い詰めるということは出来なくなり、ちらちらと視線を送るだけにとどまることになってしまった。

 

「はい、今日はお母さんやお父さんが来ています。だから、今日は皆で楽しめるようなことをしたいと思います」

 

 そんな先生の発言から、教室内が歓喜の声が上がる。

 いつもなら小さく文句を言う俺も、今回ばかりはありがたい申し出だった。

 班で机を固め、そこに親たちが固まってくる。

 ちなみに班は何故か同じになってしまったいつもの五人がいる。本来なら男子が混ざるところだが、クラスは女子の方が多く、くじでこの面子が窓際の後ろに固まっているという奇跡が起こっていた。

 

「みなさん、今日はありがとうございます」

 

 いつのまにか傍に立っていたシュテルがそう言って頭を下げる。

 こうして考えてみると、あの姿格好ではどことなく三人に似ているしまずいと思って、姿を変えず魔法でも使ったのかもしれない。

 魔王たちが何にも反応をしていないということは、おそらくは三人の要請なのだろう。

 

 事情を詳しく知らないであろうアリサとすずかはシュテルの言葉に首を傾げていたが、魔王とフェイトとはやては笑顔を向ける事で答えていた。

 

「あ、えっと、この子はシュテル。それで、そっちの二人がレヴィとディアーチェだよ。今はちょっと姿が違う子もいるけどね」

 

 分かってない二人に対して魔王が気をきかせて紹介をする。……ん、いや、これは俺にも向けているのか。

 姿が違うのは、今考えてみれば魔王たちに似ているからか。そう考えればユーリ以外が変化をしている理由もわかる。

 

「よろしくね」

「よろしく」

 

 すずかはにこやかに、アリサは少しぶっきらぼうな感じであいさつをする。

 この場面であいさつをしないというのも、角が立ってしまうかもしれない。追従するように俺も挨拶をする。

 

「三人ともよろしく」

 

 普通に挨拶をすることができた。……にも関わらず、なぜか不思議そうな顔で視線を集めていた。

 

「今日の龍一君、なんだかフランクだね」

 

 !?

 魔王の一言で、自分のあいさつの仕方が初対面のあいて向けでないことに気付いた。

 事前に会っていた、という設定にしてあるはず。しかしそれは今の大人状態では通用しにくい。姿が少し違う状態でシュテルたちだと断言できるほどはみんなの前で会っていることになっていないのだ。

 どうしようかとあたふたしていると、王様がどうでもいいかのようにため息をついた。その行動に視線を集めるが、王様はそれに動じずあっけらかんと言った。

 

「事前に会っていた、それだけのことに何を動じておる」

 

 それは爆弾発言です王様!

 

 口に出してそう言いたかったが、それを言ったが最後ということは自分にもわかっていた。

 すると、フェイトが思い出したかのようにパンと手を打った。

 

「そういえば、私からレヴィを紹介したんだっけ」

「そうだったっけ?」

「そうだよ、もう」

 

 レヴィはそんな設定をすっかり忘れていたようだ。

 相変わらずだな、と思うと同時に一つ作戦を思い付く。これは今の状況を打破できる数少ないチャンスだ。

 

「あ、あー、確かに、なんだか数年来の友人のように親しく感じるからな、俺も紹介の事はすっかり忘れていたよ」

「うんうん、ボクもそう思うよー」

 

 レヴィは頷きながら分かっていない風に同意する。

 まさかレヴィに空気をよむ能力があったなんて……。と感心するも、シュテルがなんかレヴィに向けて念話を送ってるっぽい姿を見て考えを改める。

 

「確かゲートボール? ってのでよくあってたよね」

 

 これ間違いなくシュテルが念話を送ってる。

 でも、今はそれがありがたかった。五人の空気も納得しているものになりつつある。

 ちなみに一緒にゲートボールをしているのは本当だ。前は正体を隠していたが、今はそんな事をする必要も無いので大々的に遊んでいる。

 

 と、空気が徐々に緩んで言った中、それは発せられた。

 

「あれ、でもそれってこの姿じゃ無かったよね。なんでレヴィだって信じたの? 確か魔法とか信じて無かったよね」

 

 !

 あ、ああああああああ! その設定すっかり忘れてた!

 フェイトのその一言は、緩んでいた空気を再び張りつめたものにするには十分な物だった。

 

(ま、まずい……そういえばそんなこと言って昔逃げたっけ。いや、寧ろそこは暗黙の了解にしてくれよ……!)

 

 そういえばあの時フェイトはあんまり話に参加していなかったか。

 今になって魔法の存在を認めるのは良いかもしれないが、正直シュテルの事で更に掘り返されるのはかなり辛い物がある。

 それにいまだにアリシアの存在とかリスクを背負っている事もある。あれやこれやで巻き込まれなんてしたらたまった物ではない。

 そんな、俺が深い思考の海に嵌まりかけていた時だった。

 

「彼がこの子たちを知っている事も、魔法の事について知っていてもおかしなことではないわよ。なにせ、彼女たちの家主なんだから」

 

 ……!

 この声、間違いない。この世界で生きる上で一番注意していると言っても過言ではない女性、リンディ・ハオラウン。

 そいつは俺の背後を取るようにして、薄い笑みを浮かばせて立っていた。

 

「龍一君の家に三人とも住んでたの!?」

 

 衝撃の事実に魔王が驚きの声を上げる。親参加の授業のおかげか、周りのざわめきでその声はかき消されたが、この班の中ではそれが一気に広まってしまった。

 なんとか言い訳を考えようともするが、アースラの艦長リンディがどこまで知っているのか読めない。適当なことを言えば言うほど追い込まれるのは確かだろう。

 

 しかし、なぜこの状況でシュテルは黙っているのだろうか。念話で援護することくらいたやすいことは明らかだろうに……

 

「ええと、黙っていたけど実はそうなんだ」

 

 あのアースラの艦長が知っている以上、黙っていることは無理だろう。俺は正直にその事実をさらすことにした。

 

「アースラにいないからどこにいるかと思ったら、そうだったんだ」

「すみません、黙っていて」

「あ、ううん! 全然いいよ!」

 

 魔王の呟きに謝罪を向けるシュテル。

 魔王はああいったが、驚いているのは間違いない。

 というより、認めても良いのか? 俺まさか重罪人って事で捕まったりしないよな。

 

 なんてビクビク怯えてたら、あの艦長が笑い始めた。

 

「アハハ、別にそう警戒心を抱かなくて良いわよ。あなたの家に居る事を知っていながら放置していたの。その意味わかるでしょ」

 

 黙認、ということだろうか。

 しかし小学生相手に大人気無い。まあ、実際にはいい年した大人なわけだが。

 だが不満を伝える為、艦長をジト目でみつめる……のは怖いので、娘のフェイトに視線を向ける事にした。

 

「??」

「こらこら、八つ当たりしないの」

 

 フェイトには分からなかったみたいだが、意図は伝わったみたいだ。

 

 なんにしても、シュテル達のことについては安心、と言ったところだろう。

 

「ねえ、それじゃあ、ずっと魔法の事は信じていたの?」

「え」

「どっちなの、なの?」

 

 いや、それ以外については全然安心ではない。

 さっそく魔王からの追及が始める。

 このまま黙っていてはことが進まないこともわかっている。

 しかし、何を言えばいいか思いつかない。シュテル達とそこまで親交を深めていて知らないというのが通るのだろうか。いや、さすがに認めるくらいはいいのかもしれない。

 

 そう考えていると、予想外の人物からの援護が入った。

 

「彼はそういうことは気にしないことにしているみたいよ」

 

 リンディ・ハラオウン。ここからの援護が入ると思っていなかった俺はその意外さに口を開けるだけだった。

 魔王もさすがにこの人からそう言われてしまえばこれ以上追及することはできず、不承不承といった風に頷いただけだった

 

 

 

 

 そんなピンチを抜けてつつがなく授業は終わった、

 なんだかんだ誰もさっきの話を気にしている感じではなく、せいぜい後に同居について詳しくつつかれるだけだろうとも思う。

 

 そこで油断していた時だった。

 いつの間にか後ろに回っていたリンディ・ハラオウンが耳元に口を近づけていた。

 

「貴方が魔法に関わりたくない気持ちはわかるわ。でも、それでも彼女たちと仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてあげてね」

 

 心臓が口から飛び出る感覚すらあった。

 当の本人は何も気にしていないのか、手を振って教室から出ていく。

 

 しばらく固まっていると、今度はシュテルが念話で語りかけてきた。

 

(突然のことですみません。ですが、心配事が多そうな龍一に、少しでも肩の荷を下ろしてほしいと思いまして)

(な、なんだ、もしかして全て計画だったのか……? 今度からは相談してくれよ……)

(たぶん拒否されていたと思いましたので)

 

 よくわかっている、と言いたいが、今回のことは寿命が縮まった気分だ。もう二度とやめてほしい。

 

 

 龍一はすっかり忘れていたが、リンディがああ言ったのには理由がある。

 プレシア・テスタロッサ事件。あの時見捨てた現地人。それが龍一と一致したからこそリンディはあのような対応をとった。

 本来ならば詳しく彼を調べたうえで謝罪も含めるべきだったのかもしれない。しかし、それに関してはシュテルがこういったため、先ほどの言葉だけで終わったのである。

 

「彼は前に巻き込まれてから平穏を望んでいます」

 

 そういわれてしまえば、どのような理由であろうとリンディとて負い目がある以上追及することはできない。

 結果、せめてあの少女たちにここでの友人を失わせないために、あのように告げたのだった。

 


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