リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
人が一人増えたことにより、予定していた食材の量じゃ足りなくなった。なので、買い足しにスーパーに行ったときのことだった。
「あ」
「龍一?」
スーパーで総菜コーナーを眺めていた時、フェイトとばったり会ってしまった。そして、その横には……
「あれ?」
レヴィの姿があった。
買い物を終え、フェイトの少し話をしないかという提案に断ることが出来ず、公園へ来た。
理由としては、レヴィが余計なことを言わないかの監視だったりする。けっして、逃げようとしたら後ろから全力で追ってきた姿が怖かったからではない。
……あれ、凄い速かっただけで全力じゃなかったような気もする。
「龍一、どうしたの?」
「な、なんでもない」
考え事をしていたら、フェイトに顔を覗き込まれるように心配された。
手を振って否定すると、フェイトは何に気付いたのかレヴィを前に出してきた。
「あ、もしかして、この子のこと?」
「え? ちが……ううん、そうだね、フェイトにそっくりだなぁ」
一瞬否定の言葉が出たが、この場面では知らないふりをするのが得策だと気付き、口をつぐむ。
レヴィもそこは分かっているのか、特に口に出してこない。
「ん? ボクの事?」
よく見ればアイス舐めてる。あいつ、わかってるんじゃなくてアイスに夢中なだけじゃなかろうか。
「この子はレヴィって言って、私たちの新しい友達」
「へー、私たちって、ま……高町とかもか?」
「うん」
見た目そっくりだから、兄弟姉妹と勘違いされないようにだろうか。なんだか、友達というワードを強調されたような感じがあった。
フェイトの家事情も複雑らしいから、無理はない。かもしれない。
「それで、何で俺に紹介を?」
「え? うーん……龍一にも、仲よくしてほしかったからかな」
なぜ俺が、と思ったが、フェイトの表情はどこか寂しそうなもの。口を出すのもはばかられ、顔を公園の木々の方に向けた。
フェイトにも色々あった。アリシアからの又聞きだが、いわゆる一人だったからこそ、そう言う気をまわしてしまうのだろう。
「ねえ、仲よくしてくれる?」
俺とレヴィの関係をフェイトは知らない。だが、いまここで仲良くなっておけば、今後レヴィと話していても怪しまれることは無い。
なんて、打算的な思考をするも、首を縦に振ろうとしている理由は自分でもわかっていた。
「そうだな、一人は寂しいもんな」
自分は変われたのかもしれない。孤独でしかいられなかった大人から、孤独を捨てた少年へと。
「そうですか。それはよかったですね」
シュテルは一連の話を聞いて、ほんのわずか口元をほころばせる。
最近は誰にでもわかるような笑顔も見せるようになって来た。それは喜ぶべきことであり、彼女たちと会ったことに対し、良い影響を受けている証でもある。
「こうやってみんな紹介して貰えば、外でも普通に接することが出来るかも」
「そうですね。では、レヴィから聞いた事にして、関係を作っておきましょうか」
冗談で言った言葉だったが、思いのほかシュテルは本気で考えてくれているようだ。
玄関の方で音もする。王様とあの少女が帰って来たのだろう。
彼女らはあまり「ただいま」を言わないのでわかりやすい。あの少女は声が小さいだけだけども。
リビングに顔を出してきた王様とあの少女を確認して、シュテルが声を掛ける。
「タイミングがいいですね。先ほど龍一と話していたのですが……」
「個別に接点を持っておきたい、ということか」
「流石、我が王」
「え? ディアーチェ、聞き耳立てていましたよね」
「言うでないユーリ!」
どうやら、先ほどの玄関の音はあの少女、ユーリと呼ばれた子だけだったらしい。
ここで、この間から居候となった少女の事を全く知らないことを思い出した。そもそも、直接会話したことがまだなかった。
そう思い、俺は勇気を出して少女に声を掛けよう……と逡巡するだけ。それに気づいたのか、少女も口を開こうかどうか迷うようなそぶりを見せる。
「ぁ……の……」「え、あ、その……」
少女の声と俺の声が重なるようにして絞り出される。この時点で気付いたが、お互い人見知りらしい。こういう場面でなければ、一生話すことのなかった人種なのかもしれない。
その様子を見ていた他二人は、一人は気を利かせるように、もう一人は面倒そうに部屋を出て行った。
あの二人は気も利けば頭もまわる。出て行くついでに、さっきの話の事をまとめてくるのだろう。
「りゅ……龍一、さん、ですよね」
「あ、はい。えと、龍一です」
「そ、そうですか……」
残された二人。
まだるっこしい会話が出る。しかし、何と話していいかわからないので、口を開くことも難しい。
おかしいなぁ、あの夜はお互い饒舌に話せてたのに……いや、のっていただけだからか。
そんな時、アリシアからの念話が入って来た。
『ねえ、戦う直前のことを聞かなくていいの?』
そういえば、部屋にずっと立てかけて置いている。この状況に助け舟を出してくれたアリシアに感謝しつつ、そのことを話題に出すことにした。
「あ、あの時の」「あ、あの時のっ」
綺麗に言葉が被ってしまった。
再び場は沈黙に包まれる。……ことはなく、口を開きかけていた少女の声が、絞り出したような音量でようやく発せられた。
「ぁの……」
「な、なに?」
「名前……ユーリって、いいます……」
「ユーリ……あ、うんありがとう」
もはや何にお礼を言っているのかわからない状況。だが、頑張ってつなげてくれた少女の手前、こちらもこれ以上無様なところは見せられない。
こっちも、勇気をもって声をかけてみることにする。
「そそ、それで……あの夜、確か、転生に巻き込まれたって、言ってたよね?」
「そ、そうです……」
申し訳なさそうな顔を浮かべる少女、ユーリ。
この顔から察するに、やはりこの世界に流れ着いてしまったのは、何かしらの要因があってのことだと窺わさせる。
暗い影を纏わせながら、ユーリはポツリポツリと言葉を紡いでいく。
「今から十一年前……闇の書は一度世界から消滅しました。だけど、闇の書は転生機能と無限再生機能を持っていました」
「それがはやての家に転生した、ってことか?」
「その際に、イレギュラーが起こりました」
「イレギュラー?」
「闇の書が次の転生先を探すときに、全く同じタイミング、あなたの情報が紛れ込んだんです」
「情報……?」
ピンとこない説明。
疑問符を浮かべると、ユーリは少しだけ言葉を止めて、再び説明を続ける。
「魂、といえばいいんでしょうか。それが、闇の書が時空を超えるうえで入ってきてしまったんです」
「た、魂!?」
ユーリの説明したことは、荒唐無稽なもので、にわかには信じがたい事だ。
だが、事実俺はこの世界に生まれ落ちたし、闇の書の情報の一部が記憶にあった説明にもなる。
元の世界のなのはという存在が曖昧だったのに、サブであるヴォルケンリッターを覚えていたのも、もしかすれば……
「なぜそうなったのかは分かりません。闇の書のシステムの一部、エグザミアの無限回復機能の発動中になんらかの齟齬が生じたのか……結果として、あなたは別の世界の記憶を持ったままこの世界に生まれました」
「元の記憶って……!」
「それがどのようなものかは知る事は叶いませんでした。ですが、流れ込む情報にあなたの存在があったのは確か」
「もしかして、その時に闇の書の情報も俺に少しだけ流れた……?」
「おそらく、そのせいでシュテルもあなたの近くに生れ落ち、私達もこうして貴方の傍が一番安心するのかもしれません。ですが……」
其処まで言ったのち、間を置くように口を閉ざす。そして、目の前でユーリは――深く頭を下げた。
「すみません! 私たちのせいで、貴方は元の世界での輪廻から離れてしまいました! それは、私達が償っても償いきれない事です!」
其処まで聞いて、やっぱりすんなりと自分の中で納得することは出来なかった。
知らない単語とか出て来たのもあるし、まだ謎は完全に解けてないのもある。輪廻転生なんて信じてすらいない。
だけど、彼女に必死に謝る姿は、何時までも見ていたいものじゃなかった。
「……いいよ、俺は、許す」
「いいのですか……?」
「もう高町とかも言ったかもしれないけど、ユーリ達の意思でやった事じゃないんだろ。なら、許さない、なんておかしいじゃないか」
ユーリはぽかんとした表情でこちらを見つめている。
自分も闇の書の情報が混ざっているかもしれない。つまり、もしかしたら彼女たちとも一種の家族といえるのではないか。
同じ血、ではなく同じ魔力を分けた家族として。
先ほどユーリも俺のそばで安心するといっていた。
もしかすると、俺自身も彼女たちに対して警戒を抱かなかったのはそれが理由なのかもしれない。
家族、だから。
「聞きたいことは聞けた。エグザミアとか、紫天の書とか、そういう事はもう終わった。だから、すべて終わりで良いだろ?」
「……ありがとう、ございます」
嫌な気分はしなかった。危険な目にあったというのに、晴れ晴れとしているくらいだった。
湿っぽい空気を払拭するように、立ち上がりながら声を張り上げる。
多分、こんなことも今の気分以外ではできそうにないけど。
「さーて、今日の夜ご飯を決めるぞ! シュテル、レヴィ、王様、ユーリ!」
目の前のユーリは驚きの表情もそこそこに、目を細めて笑みを浮かべたのだった。