リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第八十三話 予感

 さて、そんな自己嫌悪に襲われて数日後、今までゆっくり療養していた俺は寝耳に水ともいえる言葉を聞く羽目になる。

 

「明日から学校……?」

「うん」

 

 時間の感覚が忘却の彼方にいっていたので、今がゴールデンウィークだという事をすっかり忘れていた。

 とはいえ、今まで療養していたおかげもあり怪我自体はもうほとんど問題ない。そもそも、どちらかといえば魔力ダメージが問題だったので、急に明日学校と言われて行動するのに支障はない。

 支障はないが、ゴールデンウィークを楽しむことなく学校に入るという事実が俺の疲労感を高めるのは間違いなかった。

 

「というか、すずかは自由に遊べたよね。なんでわざわざ俺に付き合ってくれたの?」

「怪我人を放っておけないでしょ」

 

 さも当たり前のように言ってくるその口ぶりは、まるで聖母のように見えてくる始末だ。

 嬉しさのあまり感動に打ち震えるが、逆に考えれば俺が負担になっているという事でもある。

 しかし、それに思い当たることもすぐに勘付いたのか、笑顔を浮かべ、それを否定してくれる。

 

「元々、図書館に行く以外で外に出る用事もなかったからね。なのはちゃんは忙しそうだし、アリサちゃんもこの休日家族と過ごすみたいだから」

「そう? うん、ありがとうすずか」

 

 なのはが忙しい理由はあの事件の後始末だろう。

 そういえばシステムU-Dがどうなったか知らないな。後でアリシアに教えてもらおう。

 

 

 

 

 すずかにお礼を言って家に帰る。もちろん、言葉だけのお礼でいいわけないので、去り際に今度何かプレゼントすることを約束した。たぶん得意な料理辺りになるが。

 もちろん少しした後に、なんでそんな恥ずかしい約束をしてしまったのかと後悔したが。

 閑話休題。

 咄嗟にキーホルダーサイズに変えたらしいアリシアをもって、俺は自分の家の前に立っている。

 前こうしてずっと帰れなかった時は、家で二人の親が念仏を唱えていた。今回はそんなことないだろうと頭で思いつつも、目の前に広がる扉に何らかの予感を感じさせずにはいられない。

 つばを飲み込み、意を決して開かれざる扉を開ける。

 

(魔力反応がある)

 

 アリシアの念話が届いたのは、何の手ごたえもなくドアが開いたときと同時だった。

 鍵はかけていたはず。泥棒や強盗と言う線もあるが、アリシアの念話から魔術師がいるのは確定していいだろう。

 想像していなかった事態に焦燥に駆られるも、一つ深呼吸して落ち着こうとする。

 

(一体誰の……)

(ん……きちんと発してるわけじゃないからわかりづらい。けど、一人は間違いなく初めて感じる)

 

 初めての人物、その言葉に落ち着こうとしていた俺の鼓動は再び乱れる。

 逃げに足は向かうが、家の場所がばれてしまっている以上、足がつくのは時間の問題だろう。

 だがせめて、家に侵入している人物は確かめなければならない。

 気持ちを固め、話し声が聞こえてくるリビングのドアにそっと耳を近づけた。

 

「じゃあ、遺体でもいいから探そうよ!」

 

 レヴィの声だ。恐ろしい内容に思わず力が入りそうになるが、何とか音を鳴らすのだけは押さえることに成功する。

 

「遺体……」

「その状態であるのならば生きてはおるまい。だが、確認しないことにはそれも確実ではあるまい」

「はい……そうですね。もし生きているのであれば……」

 

 話の内容がイマイチ伝わらない。

 とりあえず、俺を探している様子なのは分かる。だが、遺体がどうとか、なんかついこの前聞いたような女の子の声が、纏まらない思考を加速させる。

 

「ばらさないと……」

 

 ば、解体(バラ)す!?

 いやいやいや! ばらすって何!? 今の漢字が間違っていたとしても、管理局にジュエルシード使っていたのをバラすとか!?

 どの道ろくなことにならない内容だ。

 俺はこっそりと、物音を立てないように気をつかいながらリビングの扉をそっと離れた。

 玄関までゆっくり歩き、ドアを開き全速力で駆け抜ける

 

 ――ところで、玄関の前に立っていたシュテルとぶつかった。

 

「あ……」

 

 どちらが漏らした声かわからない。

 お互いがその存在を視認したとき、その瞬間がすべてを決めた。

 当たった衝撃で倒れそうになる俺を、どういう態勢でなのか謎だが、腕を掴み投げ入れるように家へと戻される。

 そして無情にも外へ通じる扉はシュテルの手によって閉ざされてしまった。

 

「あの……シュテルさん……?」

「……」

 

 シュテルは感情を移さない瞳で射抜くように見るだけで何も答えない。

 そのうち、異変に気付いたのかリビングの方で慌ただしく移動する音が聞こえた。

 そう、そして完成されるのだ。檻の中の鳥のような俺が。

 

「……生きて、いたんですね」

 

 背後をとっている、見知らぬ少女がつぶやく。

 聞いたことのある声。振り向いてみれば、見知らぬと言っても、どこか見たことのある風貌。自分自身はじめて会った気がしなかった。

 

「龍一、帰りの挨拶がまだですよ」

 

 今度はシュテルの声。

 目の前の女の子に聞きたいことはあった。でも、シュテルのどこか抑え込んでいるような感じを放っておくことは出来ない。

 俺は振り向くことなく、言葉だけを口にした。

 

「……ただいま」

 

 

 

 

 

 何時ものようにゆったりとソファーに腰を据えて話し始める。もちろん、お茶の準備も忘れていない。

 お茶をすすっていると、四人も準備したお茶に手を付けてくれている。

 それを確認し、落ち着きが出てきたところを見計らい口を開く。

 

「正直、みんなと関わって生きた心地がする日はあんまりなかった」

「貴様が脆弱なのが悪い」

 

 俺がもの一番に話した言葉は、この四人にとって驚くべきことではないようだ。

 

「王様ならそう言うと思ってた」

 

 から笑いを浮かべる。これが今まで短いながら送ってきた生活だと思いだす。

 この前起こった出来事は、この生活との決別だったのだろうか。だとすれば、こうして再会したのは酷だったのかもしれない。

 

「あ、あのっ」

 

 見知らぬ少女の声。視線を向けると、今にも泣きだしそうな表情でこっちを見ている姿がある。

 

「な、何ですか?」

 

 少女の存在に既視感を覚えるものの身に覚えがなく、少しばかり身構えてしまうのもおかしくは無いはず。

 

「ごめんなさいっ!」

「へ?」

 

 突然の謝罪に、呆ける。謝られる覚えなんてない。

 切羽詰まったような雰囲気に、逆にこっちが委縮してしまう。

 視線をシュテル達に向ける。おそらく事情を知っていると踏んだからだ。

 

「龍一、彼女は謝罪をしようとしているのです」

「あ、うん。それは分かっているんだけど」

「龍一にも心当たりはあるのではないですか」

 

 心当たり。そのことで思い出すのは数日前の戦闘。俺にとっては死闘といっても過言ではなかったあの戦い。

 今思えば、あの少女の面影があるようにも感じる。

 もしそうだというのであれば、俺はあの時聞きそびれたことを再び聞いてみたい。すべてのルーツを知りたかった。

 

「あの――」

「そして、私にも龍一に謝りたいことが、一つあります」

 

 途中で遮られた。

 だが、真剣な表情のシュテルに口を出すこともできず、押される形で俺は口をつぐむことになった。

 

 しかし、シュテルの口が再び開くことはなかった。

 

「……無理はしなくてよい。どうせ、時が来る」

「時?」

 

 王様の言葉の意味は分からなかったが、シュテルが表情を隠すことになるのを見て、詮索をするのはやめた。

 そのことは、なぜか深く心に突き刺さった。

 


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