リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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7/12 1:15
すみません一話抜けていました。
八十一話の更新は今日の七時に行います。


第八十二話 無意味ではないと

 起きた時はなぜか豪華な部屋だった。高級そうなふかふかのベット。

 こういうのが家にある人に俺は心当たりがあった。

 

「……なんぞや」

「あ、起きた?」

 

 予想通り視界の端から出てきたのは、紫色の髪を揺らして微笑みを浮かべている少女、すずかだった。

 見知っている人物だったことでほっとするも、すぐに今の状況が分からないことに気付き、高級そうな布団をはねのける。

 

「あ、え、えっと!?」

「だめだよ龍一君。すごい怪我してたんだよ、ゆっくり療養しなきゃ」

「け、怪我?」

 

 少し前の自分の状況を思い返す。

 あ、そういえば砕けえぬ闇の攻撃によって腹に風穴が……

 

「ど、どうしたの急に。自分のお腹なんて見て」

「あ、いや、なんでもないよ」

 

 もしかしてと思い服をまくり上げてみたが、一応それらしい傷は無かった。

 まあ、あれが殺傷設定だったら俺はたぶんこの世にいないだろう。

 

「それにしても怪我……かぁ」

 

 昨夜あれほど激しい戦闘をして多くの傷をつけたのにあんまり痛みを感じないのは、いまだに感覚がマヒしているからか。かといって五体満足な感じもない。というより、下半身に感覚が無いような……

 

「えっと、麻酔が効いてるだけだから、そこまで怪我を気にしなくてもいいと思うよ」

「麻酔? 病院にいるわけでもないのに、どうやって麻酔なんて……」

「大丈夫、心配ないから」

 

 すずかはにっこりと安心を与える笑みを浮かべる。すずかがそういうのであれば、俺はそれ以上言うことは無い。

 麻酔が効いているらしい身体は休養を求めているのも事実。再び訪れる睡魔に身をゆだねるように、俺は眠りについた。

 

 

 

 

 戦艦アースラ。そこではまたしても起きた事件の解決に、久しぶりの大忙しとなっていた。

 その当事者であるマテリアル達とその盟主であるシステムU-D――名をユーリといい――四人は忙しそうに走り回る

 局員を思い思いの瞳で見つめていた。

 

「まったく、いつの時代も人間は忙しそうに走り回っておるな」

「そうだね。ボクのように心にゆとりを持たなくちゃね」

「レヴィ、貴様はゆとりではなく暇人だ」

 

 レヴィとディアーチェは暇そうに掛け合う。

 なんやかんだ合った騒動も丸く収まったからだろうか、今までとげのある喋り方も少し丸くなっているようだった。

 そんななかで冷静に見つめているシュテルは何か考え事をしており、ユーリは周りの空気に似合わないほどの暗さをまとっている。

 

「それにしても、いいのでしょうか、当事者の私たちがこうしてのんびりしているのは……」

 

 良心がとがめたのか、ユーリは呟くように口にする。

 自分のしたことを考えれば、こうして自由になっているのはあり得なく、無事でいられると思っていない。

 なによりも、ユーリはいまの罪悪感を大きく占めるものの中に、昨夜戦闘をした少年の事が気にかかっていた。

 

「あ、王様ー」

 

 そんな悩みに支配されるユーリに、自分の盟主を呼ぶ朗らかな声が聞こえてきた。

 

「王様ー、無視せんといてーな」

「ええい子鴉! 我は貴様と会話を交わすほど仲よくなった覚えはないぞ!」

 

 ディアーチェと言い合っている少女、そしてその傍らについている少女たち。ユーリはその姿に見覚えがあった。

 少年のすぐ後に現れ、瞬く間に暴走していたユーリを止めた三人。ユーリはそれに気づくとすぐに立ち上がり、頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 その言葉に動揺したのは向けられた三人だけでなく、マテリアルの三人も同じように面をくらったような表情をした。

 その中でもいち早く平静を取り戻すディアーチェ。すぐに事態の欠片を理解すると、ユーリの下げていた頭を戻すように姿勢を変えさせる。

 

「ば、馬鹿者が! 我の盟主がそう易々と頭を下げられては、我の面子も落ちてしまうではないか!」

「ディアーチェ、ダメです。私は悪いことをしてしまったんです。本来なら、こうして謝るだけでは済まないほどの事をしてしまったんです」

「ふん、あんなこと悪い事のうちに入らんわ。それに、あれは貴様が望んでしたことではあるまい」

「だとしても、薄弱の意思で導かれるように暴走してしまった……それは、許されることではありません」

 

 ディアーチェの眼光を押し返すように、語句を強める。まるで、全ての罪を受け入れるかのように。

 その一歩も引かないユーリの態度に、ディアーチェが一瞬ばかりたじろいでしまうのもおかしな話ではなかった。

 

「……やめましょう、ユーリ、ディアーチェ。ナノハ達も驚いています」

 

 今まで口を開こうとしなかったシュテルが、二人が言い争う場面を見て嘆息しながら間に入る。二人はシュテルの言い分も尤もだと考え、諌められるままに距離を離した。

 空気が和らいだのを感じ、ここでようやくなのはが会話に混ざるように口を開いた。

 

「えーっと、みんな大丈夫だったの?」

「問題ありません。再修復も終わっただけでなく、今ここに私たちは集結しました。私たちの事で、もはや憂いはありません」

「そうなの? だったらよかった」

 

 なのはは胸に手を当てて安堵の息をつく。

 だからこそ、なのはは気がつかなかった。シュテルの心配事が自分たちと範囲を狭めていることについて。

 

「すみませんがナノハ、ここから出られるのはいつになるか聞いてきていただいてもよろしいですか」

「うん、いいよ。シュテルはここから出たらやりたいことがあるの?」

「はい。行かなくてはなりません、あの人の元に」

「あの人?」

 

 なのははシュテルの言うあの人に対して首を傾げる。そんな様子のなのはに、シュテルは答えを開示するつもりはないかのように、薄く笑った。

 なのはとしてはその疑問が解けることは無かったが、シュテルの笑みを見て心から安心することが出来た。ならば、これ以上追及する理由は無い。なのはもその場は笑みを浮かべるだけにとどめておくことにしたのだった。

 だからこそ、そんな様子の後ろでひとり呟くようにでた言葉が、二人に届かなかったのは当然の話であった。

 

「……でも、あの人は……」

 

 あるいはシュテルには届いたのかもしれない。しかし、表面上、何かが変わることは無かった。

 

 

 

 

 さてさて、現在すずかの家でお世話になっている俺だが、一つ気がかりなことがあった。

 

「アリシア、どこだろう……」

 

 墜落する場面ではしっかりと持っていたはずだった。だが、起きてみればどこにもない。

 まあ、鎌を握って離さない小学四年生とか居たら怖いなんてものではないが。

 なんて考えるよりも先に行動。たまたま様子を見に来たすずかに、それっぽいものを見なかったかと聞いてみる。

 

「龍一君が持っていたもの? うーん……あ、そういえばキーホルダーみたいなものを手にしっかりと持っていたみたい」

「みたい?」

「容態の確認はお姉ちゃんたちに見てもらってたから……お姉ちゃんに聞けば多分分かるかな」

「分かった。そ、その、ありがとう」

「うん、どういたしまして」

 

 ついでにお礼も自然な流れで言えるかと思ったが、存外照れくさくなってしまう物だった。

 

「そういえば、どうして私の庭で倒れていたの?」

「ぎくっ」

 

 当然の疑問に混乱する。

 それを聞かれることは考えていたものの、実際の出来事を説明するわけにもいかないからまだ纏まっていない。

 なんとか、言い逃れようと、視線を右往左往させながら絞り出すように答える。

 

「な、なんか突然? 意識を失ったっていうか? ええと、自分でもよく分かんないんだけど、なんでここにいるのとか全然謎だし?」

 

 グダグダな説明だという事は自分で一番よく分かる。

 いや、寧ろこれで納得すると思っている自分の考えが浅すぎる。

 ちらりと、反応を確認する。もしかすると、通じるかもという淡い期待を持って。

 

「……そっか。うん、深く思い出さなくて良いから、ゆっくり休んでね」

 

 通じた!?

 これは気を遣わせてしまったのか、相変わらずとても優しい。

 その後、剥いてもらったリンゴを口に頬張りながら、おそらく周辺にいるであろうアリシアに念話をかけてみる。

 

(おーい、アリシアー)

(……お兄ちゃん? あ、起きたんだ)

(起きたんだって……軽すぎない?)

(最後非殺傷だって分かっていたからね。魔力ダメージはすごく大きいけど、後に残るような怪我はしてないって思っていたし)

 

 そうだとしても、自分のマスターが大怪我したというのだから少しくらい心配してほしいものだ。

 

(心配もなにも、お兄ちゃんが普段するはずのないことをしたからでしょ)

 

 心でも読んだかのような正確な反論。

 確かに、昨夜の戦闘は無意味な戦いといっても過言ではないように自分でも思う。おそらく、すぐ後に魔王たちはやってきていた。そんな中、まるで前菜かのように相手する必要はなかっただろう。

 それでもああして戦ってしまったのは……多分、システムU-Dを放っておけなかったから。

 

「結局は、生死をかけた戦いを自己満足でやってしまったって事かぁ……」

 

 いくら考えても結果は変わらない。少なくとも、それだけは事実なのだと。

 


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