リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第八十一話 定められた決戦

「なあアリシア、この状況の元凶は誰だ」

『待って、管理局のデータを探ってみる』

 

 家の前から家の中に戻る。

 もはや逃げることなんて頭になかった。あの闇の欠片は俺の闇の一部。

 何故ピンポイントで俺が俺に会いに来たのか。そして、あいつは攻撃を仕掛けることなく、俺に言葉をかけたのか。

 

(考えてみればおかしいことだらけだ)

 

 俺がこうしてこの世界に来たこと、そして昨日の念話。更に前世の俺の闇の欠片。全部俺がどういう人物か知ってなければおかしいことだ。

 シュテル達は砕けえぬ闇を復活させると言った。そして、その目的は使命だと。

 それとは別に、俺もこの件に関わってしまっているのかもしれない。転生を繰り返す、闇の書の呪縛に。

 

『……システムU-D』

「システム……?」

『砕けえぬ闇と呼ばれていたシステムの実態。幼い少女の外見をしており、その力はあのナハトヴァールすらも超えるという』

 

 あのナハトヴァールを超える……ピンとこない比べ方に少しの困惑を見せる。

 

『フェイト達が束になってかかってもつらい苦戦を強いられる……いや、それでも厳しいかもしれない相手だよ』

「そんなに強いのか?」

『うん。冗談なんて言ってないよ。出現した直後に近くにいたマテリアルを停止状態に追い込み、八神はやてとリインフォース、二人の力をもってしても傷すらもつけられなかったらしい』

「……」

 

 いつもなら、そんな相手に会おうなんて思わない。だけど、今回の相手は今まで以上に覚悟を決めるだけだった。

 それほどの力を持っているのなら、もしかしてという思いがよぎる。

 

「システムU-Dはどうしてる」

『海鳴市上空にて力の出力を上げてるらしい。行動開始はいまから夜明けの数時間前』

「……勝算は」

『私たちじゃ多分無理。きっとジュエルシードを使っても押し切ることは難しいと思う。だけど、今アースラでは専用のカードリッジを開発しているらしい。開発完了の目途は三時間後』

「そっか……動くぞアリシア」

『うん!』

 

 何故か力が漲る。すぐさま表に出て空に向かって旅立つ。空戦は初めてだが、飛ぶことは存分に練習したはずだった。

 スピードも上々。数分と経たずに俺はそのシステムU-Dと呼ばれる相手の前に立った。

 

「システムU-Dか」

「……誰」

「その声……やっぱり。忠告をかけてきたのはお前だったのか」

 

 一つ目の予想が当たる。

 俺がこの世界でたびたび聞いた、聞いたことが無い声。誰の念話でもなかったし、俺も特に気に留めるようなことはしなかった。

 

「来ちゃったんですか……逃げてくださいと、言ったはずでしたのに」

「お前には聞きたいことがある。俺がこの世界に来てしまったこと、何か知ってるよな」

「……貴方は、闇の書の転生に巻き込まれし者」

「闇の書の転生に巻き込まれし者?」

「それは……うあっ!」

 

 意味深な言葉と同時、頭を押さえて俯く。

 システムU-Dは暴走していると聞いた。もしかすると、今こうして話していられるのは奇跡なのかもしれない。

 

「うぐっ、逃げるなら今のうちです。いえ、逃げてください」

 

 親切にもU-Dは理性を保った声で注意を促してくる。

 もちろん、それは脅しでもなんでもないのだろう。証拠に、彼女からあふれ出る魔力は俺を確実に殺そうと漂い始めているから。

 それでも俺は、首を横に振った。

 

「これ以上逃げるわけにはいかない」

「……なぜ」

「なぜって、そりゃ……」

 

 ふと、後ろに広がる景色を一望する。

 この高度だと自分の家も小さく見えるし、学校や、友達の家も見える。

 守りたい、いや、守らなければいけないものが後ろにたくさんある。

 

「みんなの帰る場所はきちんと守ってやらなきゃ」

 

 それは言い訳。何か理由が無ければ動かないのはいつもの俺と同じだった。

 自分の存在価値。本来ここにいるはずのない俺と言う存在。

 こんな世界に入りたくは無かった。だけど、入ったからこそ得られたものも多かった。

 

「最後の警告をします……逃げてください」

「くどい」

 

 結界は張った。アリシアもやる気がみなぎっている。そして、目の前の強大な力に対しても足が震えてない。

 いまだけの覚悟かもしれない。だけど、それでもしっかりと俺は敵の目を逸らすことなく見据えている。

 その覚悟が相手に伝わったのか、楽になるようにふっと相手の気配が変わった。

 

「戦闘モード移行――排除します」

「アリシア! 全力で行くぞ!」

『うん! ジュエルシードシステム起動!』

 

 魔力が膨れ上がるが、目の前の奴だって相当の魔力量である。勝つどころか引き分けに持っていくのもつらいだろう。

 いや、それどころか――

 

(ありがとうございました。そして――さようなら)

 

 ふと、先ほどの念話が脳裏をよぎった。

 

(そうだ、シュテルだってこうして自分の力が及ばない敵を相手にしたんだ)

 

 気を引きしめる。あくまでも魔力量そのものは負けていない。むしろ勝っていると言ってもいいだろう。

 俺たちの役目は足止め、そして少しでも相手に被害を負わせること。しっかりと心に刻みつけ、俺は相手に向かって飛び出した。

 

「アリシア! どう攻める!?」

『まずは様子を見よう。急いて攻めてもいいことは無いよ』

「分かった!」

 

 生憎、ブーストや避けることに関しては自信がある。時間をかけて悪いことは何一つとしてない。アリシアの作戦には反対する余地は無い。

 思考は無駄だ。固まった作戦を遂行しようとそのまま突撃する体制に入る。

 

「ヴェスパーリング」

 

 円状の炎を発射してくる。

 素早さは高い。だが、直線で動くそれを避けることは容易い。

 態勢を崩すことなく避けた。だが、注意勧告はすぐにやってきた。

 

『油断しないで!』

 

 一つ二つ……いや、かなりの量を放ち続けてくる。単体を避けることは簡単でも、何十個と発射されては避けることもままならない。

 耐え切れずプロテクションを張るが、接触した瞬間、まずいと思いやはりすぐにブーストをかける。

 すれすれのところで避け、過ぎ去っていく魔法を見てつぶやく。

 

「……おい、今の見たか」

『削り方がすごかった……どうやら、あれは貫通能力が非常に高いみたい』

 

 まともに受ければただでは済まない。言外にアリシアはそう語っていた。

 シュテル達はこんな奴と戦っていたのか。そう考え、アリシアの柄を強く握る。

 

『攻撃に転じる?』

「守勢だと間違いなく押し切られる」

『でも、お兄ちゃんの攻撃魔法でどうにかなると思ってるの?』

「まさか、気付いてないと思ってるのか」

 

 戦闘が始まる直前、アリシアに入っている魔法を再確認してみた。

 そこにあったのはシュテルが使っていた魔法が入っていた。シュテルだけじゃない。レヴィや、王様が使っていたと思われる魔法まで入っていたのだ。

 

『ちゃんと許可は得たよ』

「まったく……だが、この状況に置いてはすごくありがたい」

 

 目の前で再び同じ技が放たれる。

 こういう状況に応じた技だって、いまなら存在する。

 

「跪けぇ!」

『術式としては存在するけど、効果は薄いから気を付けてね!』

「分かってる!」

 

 王様のであろう、カウンター式の魔法。吸収に難はあったが、流石王様の魔法というべきか、問題なく発生してくれる。

 反撃弾となって飛んでいくバインド。効果は薄いと言ったのはおそらく相殺能力についてだろう。

 だが、それ以外の面では自分にとって得意な分野。

 そう、バインドの強度だけは。

 

「くっ……」

「アリシア、攻めるぞ!」

『うん!』

 

 アリシアをバインドで捕まっているU-Dに向ける。

 形状から発射に難ありと言ったところだが、魔力量で全てを補い無理矢理に威力を上乗せする。

 

「ディザスター・ヒート!」

 

 三連射で発射される砲撃魔法。おそらくシュテルの物だろう。これに関しては、俺に合うように少しチューニングされているように感じる。

 撃ち終わりの硬直を無視できるよう、アリシアがブーストをかける。

 接近を許すU-D。この追い討ちのチャンスを逃すほど俺も間抜けではない。

 

「電刃爆光破!」

 

 雷を爆発に変え、相手を吹き飛ばす。

 レヴィの魔法はそもそも属性があっているので非常に使いやすい。クロスレンジが多いのがたまにきずではあるが。

 煙に巻かれている相手を見る。姿はきちんと見えないが、すぐに体勢を立て直した影がどういう状況か物語っている。

 

『……やっぱりだめだね』

「そんなこと、分かっていたことだろ」

 

 こんな攻撃無駄なのかもしれないが、それでも少しだけでも傷を負わせることに意味がある。

 元々俺はこの世界に登場しえなかった人物。イレギュラーだとしても、俺は俺なりに出来ることをしたかった。

 

 それがたとえ、意味のない事であったとしても。

 

 ――なぜ? 意味がないのならやめればいいではないですか。

 

 突然の念話。

 たまにしか聞こえない、いつも俺を案じてくれたその声。

 俺は戦闘を止めることなく、その声に反応する。

 

 ――そんなことをすれば、きっと俺は今度こそ存在する意味がなくなってしまう。

 

 ――それはわたしも同じ。ずっと闇にとらわれ、今は破壊せずにはいられない。そんな衝動が我慢できずにいます。

 

 ――…………

 

 ――それは孤独を生み出してしまう。こうして何かを壊して孤独を生み出すなら、最初から孤独のままで良かった。

 

 ――俺だって、ずっと孤独だった。

 

 ――孤独? あなたはいつも光の世界にいました。それが孤独だというのですか。

 

 ――みんなが差し伸べる手に気がつかなかった。誰もが俺を認めようとしてくれていた。

 

 ――だから、今は孤独ではないと。

 

 ――ああ、そうだ。

 

 ――なら、なおさら構わないでください。私には破壊することしか残されていないのですから。

 

 ――嫌だ。俺はまだ、しなくちゃいけないことがある。

 

 ――しなくちゃいけないこと……ですか。

 

 ――俺を孤独から救ってくれた、その恩人を今度は代わりに救うっていう事が。

 

 ――――――

 

 

 攻撃が止んだ。相手の魔力が切れたわけじゃない。だけど、確実なチャンス。

 

『お兄ちゃん!』

 

 アリシアの声も遠く聞こえる。念話をしながら戦闘行動を続けていたせいか頭が痛い。気がつけば幾らか被弾をしていたりもした。時間だって、自分の知らぬ何時の間にか過ぎ去っているのだろう。そんな世界が身体に追いついていないような感覚。

 そんな状態の中だとしても、身体の動きは止まりそうにない。もはや自分で自分を制御できそうにない。

 だが、それでいい。戦闘の泥酔に任せなければ、相手の懐に潜り込む捨て身の攻撃などできはしないだろう。

 

「――エンシェント・マトリクス」

 

 そして、なぜか頭に思い浮かんだ魔法を放つ。

 いや、何故かとは違う。きっとこれは、ずっと前から覚えていた魔法。この世界に来るとき、知識となって流れてきていた。

 相手の体から槍を取出し、投げつける。その威力は申し分ないようにも見えた。

 

「孤独は、自分の中の闇。それを克服できるかは、自分次第だった」

「――この世界に生れ落ち、良かったと思いましたか」

「当たり前だろ。お前も、そう思えるようになる」

「そうですか……ありがとう……」

 

 やっぱり、初めての技は使うもんじゃない。

 槍を抜き取り、投げつけてもすぐに破壊された。それだけじゃなく、U-Dも同じように返してきた。

 

「ゆっくり休んでください」

 

 その言葉と共に、吸い込まれるようにU-Dの槍は俺の体を貫いた。

 だけど、そこに感じるのは痛みなんかではなかった。

 

「はは、なんだ……壊さずにすることもできるじゃないか」

 

 目の前がぼやけ、ひどい眠気が襲い掛かる。しかし、痛みを覚えることはない。

 遠くに見える様々な種類の魔力光を眩しく見ながら、俺は海鳴市に落ちて行った。

 


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