リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第八話 なぜ今まで出合わなかった

 なんだかんだと十二月。

 あれから学校は特に何もなく過ごしている。

 ただ一つ違うことは、たまにだが隣の魔王からも話しかけてくれるようになったこと。

 正直嬉しくもない事柄だが、ある程度受け答えをしていると噂も自然になくなった。

 影じゃあるかもしれないけど、堂々としてくれなきゃこっちとしては別にかまわない

 そんなわけで、割と学校ではましなひと時を送っている。

 そんなことより、今はこっちの事だ。

 

「はやてー、ケーキどうする?」

「翠屋で注文しといたから、取ってきてくれへん?」

「わかった」

 

 今はクリスマスパーティの準備。

 小学生二人が準備しているクリスマスパーティというのも、なんだかおかしなことだ。

 今はそのパーティのための料理を作ってる最中。

 はやての料理の腕は高く、作れる種類は俺の方が多いが(転生前の記憶があるため)上手に作れるはやてという図式上、俺が教えてはやてが作るという感じになっている。

 あらかた教え終わったためケーキを聞いたのだが、受け取りに行くのは自分になるというあくまでも自然なこととなった。

 ……大丈夫、パシリではない。

 

 

 

 

 翠屋。

 ここにあるシュークリームはお世話になっている。もちろん自腹で払っている。

 親の仕送りは親戚宛になっているためあまり使えないが、それでもいくらかおこづかいはもらっていた。

 最近でこそ、親戚の来訪が一か月に一度の割合になり、ついに食事代混みでほとんどもらえることになっているが。

 

「いらっしゃい、今日は何の用かな?」

 

 この店の店主の士郎さん。

 かなりかっこよくて、ケーキ屋さんをやっているのが不思議なくらいだ。

 

「八神はやてという名前で予約を入れているはずなんですが」

「クリスマスケーキだね。ちょっと待ってて」

 

 二人で来ることも多いため、名前を出してもいつものように笑顔で返してくれる。

 どうせならと思い、シュークリームも見てみる。

 ケーキ自体の大きさはあまりないものを買ったため、おそらくシュークリームを買っても余ることはないだろう。

 そう考えながら、ショーウインドウを見ているときだった。

 

「あれ?倉本君?」

 

 再び、魔王様と会いまみえた。

 俺は一番に逃走という選択肢が思い浮かぶが、ケーキというものがあるせいでそれを選ぶことは出来ない。

 しかし、無視をしてしまえばまた陰口が復活するかもしれない。

 初めて逃げられない魔王の恐ろしさを知った。

 

「な、なにかな?」

 

 なるべく平常心を保ちつつ答える。

 さも当然のように真後ろにいたことに、泣き崩れ落ちそうな俺の心はその方向へ向かおうとしてくれる。

 

「倉本君もケーキを買いに来たの?」

「ああ、うん。そうだよ」

 

 ちらちらと何か聞きたそうにしてこちらを見てくる魔王。

 どうしたのだろうかという心配よりも、一刻も早く逃げたいという気持ちの方が強い。

 と、そこで、俺の気持ちが変わるような質問が投げつけられた。

 

「なんで、そうやって避けようとするの?」

 

 思えば、おかしな事だった。

 今の俺だって、だいぶ不自然に視線を動かしていたはず。

 それを自分でも自然だと思っていた。

 だが、その質問をされてようやく自分のしていたことに違和感が出てきた。

 

 俺は何から逃げようとしているんだ?

 

 魔王だって原作知識からだし、高町なのはというのが原作の主人公というのも当然知っている。

 だけど、それ以上何を知っているのだろうか。

 魔王という肩書きはしょせんどこからか伝え聞いたものだし、原作キャラと関わればどこまで事件にかかわるのか分からない。

 もしかしたら、全く関わらなくても何処かで巻き込まれてしまうのかもしれない。

 そもそも、俺はどこまで原作キャラを覚えている?

 

 そこまで考えて、俺は少し気分が軽くなった。

 被害妄想。

 もしかしたら考え過ぎていたのかもしれない。

 

「……ごめん。そんなつもりはなくて」

「あ、ううん。ちょっと気になっただけだから」

「ほら、あのカチューシャの子……月村さんとのことがあったから、話しかけづらくて」

「すずかちゃんとのこと?でも、だいぶ前に和解したって聞いたけど」

「それでも、なんだかね……」

 

 とりあえず、言い訳を並べる。

 月村さんの事は、今はこっちだって気にしてない。

 ……まあ、前に謝ったときは、それをいいことにいじめられるとは思っていたけど。

 

「あ、それじゃあさ――」

「おまたせ」

 

 魔王に士郎さんの声が被った。

 

「ありがとうございます。それと、このシュークリームを四つお願いできますか」

「わかった。なのは帰っていたのか、おかえり」

「ただいま、お父さん」

 

 ばつが悪そうに魔王は士郎さんにあいさつをする。

 声が被ったことが嫌だったのだろうか。

 ……って、お父さん?

 

「ねえ、もしかして士郎さんって……」

「なのはのお父さんだよ?」

 

 この翠屋、とんでもない化け物が潜んでいたようだ。

 

 

 

 

 クリスマスパーティが終わって、はやての部屋。

 前々から同じ部屋で寝たりしていて、今日も例にもれず同じ部屋で寝ることになっていた。

 

「なんや?夜更かしは良くないで」

「ああ、ちょっと手紙を」

「そうなんか。まあ、あまり遅くならんようにな~」

 

 はやては早々に寝てくれて、さっそくまとめることが出来る。

 手紙を書くといったのはもちろん嘘。

 本当は原作の知識をさらっとまとめたかったからだ。

 

 さて、どこまでこの世界の事を知っているのか。

 


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