リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
「中間テストよ、準備はいい!?」
「はい?」
休み時間中、はやてとフェイトでババ抜きをしていたら、アリサがいきなり指をつきつけてきた。
「お、わたしが一番にあがりや」
「強いねはやて」
「うむ、俺が育てただけはある」
「龍一に教わったことは何一つ無いけどな」
「って、人の話聞きなさいよ!」
はやての上りに目を釣られていると、声を大きくしてアリサに存在感を示される。再び見てみると、少し怒ったような表情。
というより、トランプしているツッコミは無いのだろうか。
「それで、テストって?」
「前の時に言ったでしょ、次のテストで勝負って」
そういえば言われたような気がする。だが、あれは三年の期末テストだったはず。学年変わった今無かったことになるのではないのだろうか。
そんな風に思うも、強く発言するアリサに立場的にも力的にも勝てるはずはなく、渋々と勝負を受けることになってしまうのだった。
勝負ごとになって放課後。
実はテストは二日後に迫っていた。あんまり気にしていなかったせいで、聞いたときには驚いたものだった。主に驚いたのは一緒に遊んでた二人だが。
「じゃあみんなで勉強会しよーや」
テストだからという焦りからではなく、やってみたかったという楽しみからの声。はやての今までの状況から考えると、その考えもおかしなものではない。
全員それに異存はないのか、鶴の一声のようにそれ一つで放課後の予定は決まってしまった。
問題は行き先である。
「甘いもの食べながらわたしの家でする?」
「静かに図書館でいいんじゃないの」
「教えあうなら、わたしの家がええよ。リインフォースにシャマル、意外とザフィーラも物知りやで」
あれやこれやと教室で場所について話し合うが、一向に決まる気配はない。お互いに譲れないところがあるのかもしれない。
そろそろ休憩も終わる。早く決めなければ、また次の休みに持ち越しとなってしまう。
何かいい案はないものかと、言い合う三人をじっと見ているフェイトにアイコンタクトをおくる。すずかでもよかったのだが、三人を止めるには少しばかりか力不足だろうと思ったのだ。
「……うん」
何を頷いたのか分からないけど、俺の目を見た瞬間何かに気付いた模様。普通に伝わってくれていればいいのだが、このパターンはあまり良い事であるためしがない。
その予想は外れることなく、フェイトの爆弾発言となって現実となった。
「龍一の料理を食べながらは?」
「フェイトぉ!?」
あまりの驚きについつい両肩を掴んでしまう。フェイトはこちらを振り向くと、まるでいいことをしたから褒めて欲しいというような顔をしている。
悲しみと絶望と可愛らしさが心を満たし、哀愁を漂わせながら撫でてあげた。
「龍一の家……」
「龍一君の家かぁ……」
「龍一の家なぁ……」
アリサ、なのは、はやてが同じように思いをはせている。そして、三人とも何が決定打となったのか分からないが、「そうしよう」と何故か決定となってしまった。
うわ、今回は何てアリシアとシュテル達に言えばいいんだろう。家に帰るまでの時間、ずっとそれを考えることになってしまった。
「丸太棒、貴様はバカか。愚者か!」
「はいすみませんでした大馬鹿者です!」
必死に土下座を繰り返す家の主の俺と、それに向けて罵倒を繰り返す居候の王様。
立場がおかしいと言えばおかしいが、それがどうしたと言わんばかりの必死さである。
「デバイスを持て! ここにおいて貴様を塵芥へと変えてやる!」
「ひいぃぃぃ! すみませんすみません! 全部秘書が行ったことです!」
「貴様に秘書など居ないではないか!」
王様の本型デバイスを構えられながら脅しをかけられる。心なしか、近くにいるシュテルの目も冷たいような気がし、非常にいたたまれなくなっている。ちなみにレヴィはゲームに夢中になって、こちらを見向きもしていない。
しかし、このままではまずい事態になるというのは紛れもない事実。何とかならないものかと、アリシアの方に目を向ける。
『はぁ……変化魔法を使うか、部屋に隠れてもらうしかないんじゃない?』
視線に気づいたのかは分からないが、アリシアはやれやれと言った風に提案をしてくれる。
ちらりと王様に視線を向けると、怒りともとれる表情で見据えて来ていた。
「ええと、それでどうかなーって思うのですが」
「ほほう、我に隠れろと、そう申すのか」
「ゆ、許してください! お願いします!」
頭を擦り付けて許しを請う。そうしていると、ついにインターフォンが鳴る。もはやプライドがどうとか言ってられない状態である。
請うような視線で王様を見つめると、観念したように王様はため息をついて、リビングの出口へと向かって行った。
「えっと、王様どこへ?」
「フン。貴様が上へ行けと言ったのだろう。シュテル、レヴィ、丸太棒のデバイスと共に双六と興じるぞ」
「はい、ディアーチェ」
「あ、待ってよー」
シュテルがアリシアを運び、レヴィは携帯ゲーム機を持って、王様を追うように階段を上って行った。
なんだかんだでお願いを聞いてくれる辺り、王様も悪い人じゃないのだと思う。
「ま、ゆっくりしていって」
五人が入ってきて、適当に飲み物の準備をしながらそう告げる。
物珍しさかきょろきょろと見回している気がするが、なるべくそれを気にしないようにする。
靴や他の人がいることを邪推されそうなものは回収した。シュテル達の生活の跡はあまりないはず。焦ることは無いはずだと自分に言い聞かせる。大体焦ることによって、自分の首を絞めるのだから。
「ふーん、思ったより普通ね」
「アリサちゃん、失礼だよ」
「き、気にはしないけどできるだけやめてほしいかなー。ほ、ほら、そこの机でやろう」
物珍しそうにあたりを見回すアリサ達に指示をしつつ、もてなす準備をするため台所へと向かう。
冷蔵庫を開いたときレヴィと書かれてあったプリンをすぐさま牛乳の裏に隠した。
そんな内心で焦りながらリビングで座って話をしている彼女たちの声に耳を傾ける。
「来るの久しぶり」
「フェイトちゃんは来たことあるんか?」
「そういえば、来る時もフェイトちゃんが先導してたよね」
「うん、だってお世話になったことがあるからね」
「え、フェイトちゃん……?」
なんだか話の風向きが悪い。
そしてそこに油を注ぐかのような発言が聞こえた。
「え、みんな私より龍一と居たのに家の場所も知らなかったの?」
空気が少し凍り付いたような気がした。
このままではこちらに矛先が向くのはわかっている。ことが起こる前に俺は慌てて飲み物を準備しつつ台所を飛び出した。
「いやそれは――あっ」
あまりに慌てすぎたせいで飛び出す際に躓き、頭から準備したジュースを頭にかぶってしまう。
キョトンとする彼女たちの視線が集まる。
その後の反応としては、笑われたり、心配されたり、慌てられたりと大変だった。
穴があったら入りたい……。
そうしていろいろとお世話になりつつ(主に拭き掃除)、先ほどの会話は水に流された空気になったことに安堵の息をついた。
そうしてなんやかんやと始まる勉強会。
女五人そろえば姦しさアップと言うか、なんというか。つか、普段の生活でも女三人が今いるんだよな。あ、アリシアもか。
アリシアとシュテルはともかく、この五人ほど仲がいい間柄と言うわけでもないから、こういうのに慣れないのはしょうがないかもしれないけど。
「何遠くから見てんのよ」
「龍一君も一緒にしようよ」
そう言われてすずかに腕を引っ張られる。
少しだけ戸惑うが、なんてことはない。
今は俺もその仲間入りしているというだけの事。
数日後。
「テスト返却かー、これが終わればゴールデンウィークだぞっと」
結論から言えば、先日の勉強会はそれなりに捗った。基本的に頭のいい奴が揃っているのだから当たり前と言えば当たり前かもしれないが。
そんなわけで、今回のテストは少々高くてもおかしくないかと思い、割と全力を出した。一応アリサとの勝負がある手前、あまり手を抜きすぎるのもどうかと思ったのもある。
「さあ龍一、勝負よ!」
全部のテストが返ってきて休み時間になった途端、ずいっとアリサが近寄ってきた。
それに応えるように、俺もアリサが持ってきたテスト用紙に被せる。それに目を落とし、驚愕の表情を浮かべるアリサ。
「あ、あんた……」
「まあ、これが俺の実力だ」
アリサの状態が珍しかったのか、少し遠巻きに見ていた四人も集まってくる。
そして、集まってきた彼女らも同じように驚きに固まった。
そこに書いてある数字。それは零。他に数字は書いてなかった。
「笑えよ、名前書いて無くて零点だった俺を」
「いや……笑えないわよ」
本気で気まずそうにしているアリサ。その他の面々も程度に差はあれ、あまりにもな点を見せられて微妙な思いだそうだ。
居心地が悪く、本気で用事があるので、この場は外そうと席を立つ。
「まあ、そんなわけで先生に御呼ばれしてるわけなんですよ」
「そりゃこんな結果なわけだし、そうなるわよ」
「勝負は勝負だし、今回はアリサの勝ちでいいよ。それじゃ、またゴールデンウィークが明けたら」
プリントを持ち去り、手を軽く振って別れの挨拶をする。アリサの表情は最初から最後まで気の毒そうで、勝負の事はあまり気にしていないようで安心する。
そのまま振り返ることなくその場を去ったのだった。
「はぁ、あいつ……」
「あはは……龍一君だもんね」
残されたアリサは深くため息をつく。
なんとなくそんなオチではないかと予測していただけあり、なかなかなため息具合である。
そんな姿に苦笑いのすずか。すずかとて龍一の付き合いは長いので、アリサと同じような気持ちであることは言うまでもない。
「でも龍一、全問正解だったよ」
そんな中で一人、あっけらかんと言い放つフェイト。
目の前で見た事実と相反する言葉に、アリサは驚きのまま固まる。その代りに、なのはが迫るように聞き返した。
「そ、それ本当!?」
「わたしもフェイトちゃんとみとったけど、確かに間違いはなかったはずや」
自分のテストを見返しながら答えるはやて。見ているテストは理系のもので、はやてが得意としている教科である。
間違えようのない事実に、アリサは声を押し殺すように笑みを浮かべる。
「ふ……ふふ……」
「あ、アリサちゃん?」
「やってくれるじゃない龍一……次の時こそ化けの皮を剥がしてやるんだから!」
すずかが心配するのをよそに、アリサは次のテストに意気込むのであった。