リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
「結局、なんでアリシア母は花見の時にいたんだよ」
『殊勝な態度が称賛されて厳重監視兼無給奉仕活動みたいなことになったらしいよ』
「称賛されんなよ! ちゃんと裁いてくれた方が俺としては嬉しかったよ!」
花見の日の夜、晩御飯を作りながら立てかけているアリシアに相談してみれば、そんな返答が返ってくる。
即答してくるあたり、このことはきっちり調べていたらしい。知っていたなら教えてくれよ。聞いてなかった自分も自分だが。
なんて思いつつも、なんとなくアリシアの声ははずんでいる気がする。自分の母が悪く扱われていないのに対して喜びの気持ちが抑えられないのだろう。
「どうでもいいわ丸太棒。さっさと料理を作らんか」
「はいっ、ただいま!」
相変わらずわが家では主導権は握られている。もう反射と言っても差し支えないだろう。
いやまあ、一応親がいない現状家主だし、このままでいいとは思っていないが。
「手伝いますよ、龍一」
「おお、すまんなシュテル。助かる」
「いえ、これくらい当然です」
『夫婦か何か?』
「いえ、家族です」
夫婦も家族だぞー、なんていうツッコミを思いついたが、間違いなく自分が不利になるだけなので何も言わないことにしておく。
昼食を食べ終わり、シュテルと並んでまったりと食器洗いを続けていると、料理を作ってる時と同じく立てかけていたアリシアから思い出したように声をかけられた。
内容は先ほど聞いたことからそう遠くないものだった。
「え? 魔導師と関わらないようにしているとは見えない?」
『うん。今日だってフェイトたちがいるお花見に行ったし、実はもうそこまで気にしてないのかなって』
うーん、そういわれてみれば何の言い訳もない。最近はシュテルを家に入れたり、魔王たちから逃げることが少なくなっているのも事実。
間違いなく彼女たちとは友人と言えるくらいに親交だってある。
いや、しかしだ。
「確かに友人として彼女たちと付き合おうと考えは改めた」
『じゃあ、もしかして』
「だが魔導師として関わる気は一切ない!」
あっちの方面で関わると命がいくつあっても足りない。そのことは今までの巻き込まれた事件からも推測できる。
あくまでも日常を謳歌したいだけの俺にとって、事件さえ関わらなければ魔王たちと仲よくするのは願ったりかなったりである。
『結局は仲良くすることにしたんだ』
「まあそういうことだ」
『じゃあ私がフェイトとお話しできるのはそう遠くないかな』
「おま……管理局に捕まれって!?」
『黙っててもらえばいいでしょ?』
よほど妹と会話したいのかそう言ってくる。しかし、アリシアにはジュエルシードが入っているうえに、フェイトも口が堅い方ではない。万が一ばれたら俺は犯罪者だ。
どう考えても、会話させるという行為は危険であることには変わりはない。
「それは得策ではないかと思います」
なんて返そうかと考えていると、すすぎを終えたシュテルが蛇口を締め、手をタオルで拭きながら代わりのように答えてくれた。
「概要は詳しく把握していませんが、危険な賭けになることは明らかです」
「それに、どこで話をするつもりだ。仮にでも我らの家で鉢合わせるようなことになるのはまずいのではないか」
「いや、ここ俺の家……」
王様が付け加えるように混ざり、まともな返答をしてくれているが、訂正したい一か所だけは訂正させてもらうことにする。
二人の言葉に、アリシアは元々理解していたのか特に気に病めるようなこともなく、分かった。と一言告げるだけだった。
「え、なんかまずいの?」
「レヴィ、貴様は何を言っておる」
レヴィのその一言は場を呆れさせるには十分な一言だった。
シュテルとの皿洗いが終わるころ、レヴィの説明が済んで王様はソファーでゆっくりしていたところだった。
レヴィが理解したのを確認すると、自分用に缶コーヒーを置きながら王様にいたわりの声をかける。
「お疲れ様王様」
「ふん」
自分のために用意した缶コーヒーはゴミ箱へ投げ捨てられた。
「いやいや、これ俺のだから! 王様に用意したわけじゃないから!」
「我の前に安物を置くとは良い度胸だな」
「すみません、端っこの方で細々と飲みます」
立場が弱くなるのは力で勝てないからしょうがないね!
投げ捨てられた缶コーヒーを拾い、部屋の端っこの方で膝を抱えて飲む。後ろのソファーではシュテルとアリシアが話し合っていた。
『なんにしても、変わらないままではいられないんだよね』
「そう、でしょうね」
『お兄ちゃんを見てたら実感する。逃げることしか頭になかったお兄ちゃんが、今はこうしてシュテル達を家族だって言ってるんだから』
「……はい」
二人の会話を聞いて、自分は変わったのかと自問する。
アリシアに対して出した答えは本心から出た言葉。一年前なら絶対に言わなかったであろう言葉。
彼女たちと関わる関わらない関係なしに事件には巻き込まれた。闇の書に関しては自分が蒔いた種だ。もはや巻き込まれるからと言って彼女たちを避けるのは理由として無理もある。
……そうは思っても、なんだかんだで変わってはいないのだと確信する。
所詮、友人関係をいつまでも続けようとしているのは、自分が一人となるのが嫌だから。
その言葉に収束される。
孤独は前世で一番強く思ったことだ。おそらく、この自分の心は一生変えることは出来ないのだろう。
「事件と言えば、今は自分で危ないものを囲ってるんだよな……」
ソファーに集まっている三人と一機を見て思う。そのうち三人は魔王たちに似た容姿であるし、アリシアも魔導師関連ではかなり危険なものだ。
「はぁ、まだ平穏とまではならないな」
口で出す言葉と裏腹に口元は笑みを浮かべている。
明るい我が家をみていると、自分の決断が間違ったものだとは思えないのだから。