リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第七十六話 花見はあまり関係ない

「今日は無礼講よー!」

「はぁ……なるべく抑えるようにしてください」

 

 盛り上がっているあちらの方には、緑の髪の女性と苦労の多そうな男の子がいる。

 また、その近くには見たことない人もちらほらと見受けられる。人見知りにはつらい状況だ。

 恐る恐ると言った風に桜並木を通っていると、俺を見つけた魔王が傍まで駆けてきた。

 

「龍一君、お花見へようこそ」

 

 にっこりとした表情で正面から笑いかけてくる高町なのは(職業:魔王)。

 俺はそれにこたえるように笑顔で返す。

 

「帰っていい?」

 

 と言うわけで終末土曜日のお花見。終末は誤字とも言いにくいものである。

 ちなみに現在ゲートボールの後であり、もう昼と言う時間帯だ。

 

「まあまあ、ここまで来たんだし楽しもうよ」

 

 昔は大げさに追っかけてきたのに、魔王も慣れてきたものである。俺の腕を痛いくらいに握っていて離さないといった風にしている。

 ……いや、本当に痛いんで離してくれないですかね。

 

「そのまま捕まえておいてよなのは!」

 

 そして後ろから聞こえてくるのはアリサの声。

 何か嫌な予感がするも、しっかりと腕を握られていて避けることもままならないっていうか痛い痛い本当に。

 

 そうして気づけば、俺はそこまで大きくないシートの上に簀巻きにされて転がされていた。

 

「えっ、一体どういうことでこの状況に」

「簀巻きはやり過ぎやと思おたんやけどなぁ」

 

 近くにはのんきにおにぎりを食べているはやての姿。美味しそうにしているところを見てたら、何を勘違いしたのかたくあんを箸で差し出してきた。

 意味は分からないが、とりあえず逃げられないという事は把握した。

 

「というかケチいなたくあんって!」

「はい、あーん」

「誤魔化すように押し付けむぐぅっ」

 

 無理矢理口の中に詰め込まれるたくあん。あ、おいしい。

 

「まあ少し待ちぃや。今は皆それぞれ家族のもとで楽しんできてるんやで」

「あれ、ヴォルケンリッターは?」

「大人組のつまみの消費がはよぉてな」

「なんとなくわかった」

 

 しかし簀巻きにされたままだと、本当に花を見るだけになってしまうな……つーかシュテル達は今何してるんだろう。

 というかなんで俺ここにいるんだろう。

 

「で、なんで俺ははやてのところに?」

「りゅうの居場所はどこにするかとかは案外迷わなかったんで」

「迷わなかったって?」

「一時期とはいえ、一つ屋根の下で暮らしとったやないか」

 

 家族で集まっていて迷わなかったというのはそういう事か。

 しかしその言い方はやばい。一つ屋根の下は意味深な言葉になってしまう。間違ってはいないけど。

 簀巻き状態とはいえ、ゆっくりできている現状。最近こういう風にゆっくり出来てないなとか、舞い落ちてくる桜の花を顔に受けながら思った。

 

 

 

 

 ついうとうとして、気付けば隣に新しいシートが引かれ、その上にははやてを含んだなのはたち五人がいた。

 

「あ、龍一くん起きたみたい」

 

 視線に気づいたのかは分からないが、すずかがこちらの方を見てそう言った。

 何か返事をしたいところだが、こちらは未だに簀巻きにされていて口しか出せない。

 それに気づいていて、行った張本人であろうアリサはあろうことにこっちをみて悪そうな笑みを浮かべるだけだ。

 

「いや助けてよ! なんでほくそえんでるのさ!」

「あ、ご、ごめん」

 

 フェイトがツッコミに対してすぐさま動き拘束を解いてくれる。簀巻きから解放され、一気に自由が広がった気がする。

 それにしても、まさかフェイトが反応してくれるとは思わなかった。フェイトが非情だとかそういう事ではなく、ただこういう場面だと多くが受け身だからだ。

 

「そういえば、今日はお母さんが来てるんだよ」

「……お母さん?」

 

 なんとなくだが違和感があった。いや、養女となったフェイトがその言葉を発することはおかしくはない。だが、その言葉にはなんだか違う意味が込められているような気がした。

 

「あれ、でも確か今は……」

「少しだけどね、お花見に参加できるよう時間が与えられたの」

 

 なのはが疑問をぶつけるも、それを笑顔で受け止めるフェイト。

 俺はほぼ確信するとともに、簀巻きにされる前にほっぽり投げられた靴を目線だけで探す。

 

「そうなんだ……よかった、というわけじゃないけど、楽しんでくれたらいいね、プレシアさん」

「うん」

 

 そして名前を聞いた瞬間、逃げる間もなくその人は現れた。……多数の局員と思われる人を連れて。

 その人、アリシア母はフェイトを一番に見つけ、次に俺の姿を見つけるとまるで母親のように慈愛にあふれた笑みを見せた。

 その笑顔を見て、背中に何か嫌なものが駆け巡る。

 

「お母さん……!」

「みんなで楽しんでいるところ、ごめんなさいね」

 

 誰だこいつ! こんな笑みを浮かべる人が約一年前に狂気にまみれていた人物とは思えない。同一人物かを疑うが、それもフェイトの向ける視線を見れば一目瞭然だ。

 いやまて、もしかすると変化魔法使った誰かの可能性も……それに、俺の事がばれてない可能性もある。

 そう、まだ終わりではない。

 

「あなた……田中――」

「ああああああああイエエエエエエエエエエ!!!」

 

 やっぱりばれてたやっぱりばれてた!!

 いきなり奇声なんてあげて五人娘は戸惑っているものの、あんなことを今ここで暴露されたら大変なことになってしまう。ただでさえアリシア母の周辺には局員もいるというのに。

 突然のことに固まったアリシア母だが、その行動に何らかの確信を得たのかふっと軽く笑い、そして踵を返した。

 

「わたしが戻るまで、娘を頼むわね」

「あ、は、はい」

 

 つい間の抜けたような声を出してしまう。

 いやだって、絶対すごい勢いで問い詰められたりすると思ったし。それを考えると拍子抜けしてもおかしくなんてないだろう。

 

 アリシア母がそのまま去っていって数秒。なぜか五人娘達は誰一人として喋り出さない。

 気になって後ろを振り向けば、なぜか目を光らせたはやてが問い詰めてくる。

 

「な、なんや、もしかして親公認ちゅーやつか!?」

「は、はぁ!?」

 

 突然変なことを聞いてくるはやて。

 何をどうなったらそんな風に解釈できるのか……って、うん? 娘を任せる……

 

「ええと、フェイト嬢はアリ……えっと、あの人の事は……」

「もちろん、お母さんだと思ってるよ。前とか今とか関係なく、母親だって」

 

 いいことを言っているのだろうが、今はそんな時ではない。

 アリシア母がフェイトの事をどう思ってるのか知らないが、話の流れ的に娘と言うのはフェイトの事としか思えなくなっている。

 それはつまり……

 

「えっと、皆さん。もしかしてと思いますが」

「まさか二人がそんな関係だったなんて……」

 

 なんだかショックを受けてる様子の魔王。

 

「しゅ、祝福するよ!」

「ま、せいぜい頑張んなさいよ」

 

 多分分かってる二人。すずかのは可愛い冗談と思えるが、アリサは悪意しか感じない。

 結局地雷を落としていくことに変わりなかったアリシア母に、俺は悔しさの声を上げることとなった。

 

「ちくしょおおおおおおお!!」

 

 とはいえ、冷静に考えればこれくらいで済んだのは僥倖といえるのかもしれない。

 ……そう思いたい。

 


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