リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第七十五話 ゲートボールの乱 後編

 さて、ゲートボールは簡単に説明すると、五人一チームとなりゲートと言うゴールにボールを通過させるスポーツだ。老人の競技人口は多いが、男女ともにプレイが出来るという長所もあり、決してつまらないスポーツではない。やってみれば意外と面白いし、子供がしてみてもハマれるものだと俺は思っている。

 

 さて、話はそのゲートボールの事になる。

 

 チーム決めに二人の女の子が編成されて俺は少しばかりか困ったことになっている。

 もちろん女の子がわがままとか、すぐに飽きるとかそういう事じゃない。

 

「そそ、それでこの、ね?」

「もー、ちゃんと喋ってよー」

 

 何ともひどいことに俺の人見知りは治ってはいなかった。いや、それは分かりきっていたことであるが、こういう平和な状態でこうして何かを教えるという状況がいままで一度たりとも無かったため、非情に酷い言語障害を起こしているのである。ついでに心配のあまりチラチラとレヴィのことを気にしているのもある。

 頼りになるヴィータはレヴィに興味津々であるらしく、こちらに目を向けることは一切ない。

 まあ、元々誰かと仲よくするという事が少ない子であるし、それが特別おかしいことではないのだが。

 

「ル、ルールは、えっと、その、お覚えてるのかにゃ……な?」

「わかんなーい」

 

 そして説明しなければいけない項目は少なくは無いようである。

 とても困った。

 

『そろそろ試合ですぞー』

 

 まごまごしているうちに試合なるものが始まるようだ。

 所詮は老人会なので、試合と言ってもそれほど本気ではない。が、これまたあまりにいい加減なプレイをしていると、大きな差をつけられてしまうことも少なくない。

 何が言いたいかと言えば、このルールも知らない少女二人を連れて勝てる気がしないという事だ。

 

「……まあ、勝利にこだわってないしいいか」

「何言ってんだ?」

「え? ヴィータ?」

「あたしたちが掴むのは勝利だけだ、そうだろ雷刃?」

「もちろん!」

 

 途中でヴィータが割り入ってきたかと思いきや、なんかレヴィと意気統合していた。

 だが、勝つと言っても初心者二人連れて勝てるほど老人会は甘くない。勝負の行方はまったく見えないのだ。

 

 

 

 

 と言っていたのは、始まってから十分くらいで止まることになった。

 

「ほいっと、上がりだね」

 

 三つ目のゲートを通ってレヴィのあがり。ついでにいえばヴィータはとっくにあがっていたりする。スコアは二人あがりの俺は2点。初心者二人は1点である。

 相手方の老人チームは三人2点の残り1点。3点であがりを考えると、かなり有利だというのが一般見解だろう。

 

 しかし、ゲートボールは上がることを早めるだけが勝負だけじゃない。

 

「タッチだ、坊主」

 

 コート内にある俺のボールに当て、にやりとした表情で告げてくるニヒルな爺さん。元老(仮名)さんは相手チームのリーダーで、今回ヴィータとレヴィが早く上がれたのもこの爺さんのせいだという事はあたりをつけていた。

 

「ほれ!」

 

 甲高い音を響かせ、俺のボールを何の遠慮もなくコートの端まで打ち出す。

 ちなみにこれはタッチと言われるもので、自分のボールを他の人のボールに当てた時に起こる。タッチが起これば、自分のボールが動かないように踏みながら打ち、その衝撃で相手のボールを飛ばさなければいけない。

 俺はこの方法ですでに十回以上弾き飛ばされていた。正直、2ポイント目がとれたのは運が良かったと言っても差し支えないだろう。

 

「つーか、なんで俺ばかり狙うんですかね……」

「そりゃ坊主がベテランだからじゃ」

 

 当たり前だがベテランと言われるほどゲートボールをした記憶はない。爺の勝手な妄想である。

 それにベテランだというのならばヴィータを狙うことをしなかったのはなぜなのか。

 

「しっかりしろよりゅう」

「そうだよ。このままじゃ龍一のせいで負けるよ」

 

 言いたいこと言いやがる。というか、言葉には出さないが一番足を引っ張っているのは少女二人だ。あちらは邪魔が来ないのに、まだ1点しか取れていない。

 一応このままタイムアップしていれば勝てる。だが、一人で妨害には限界があるし、三点入れられると負けである。

 明らかに不利な状況、俺はこの勝負に勝つ方法をなんとか編み出そうと頭を悩ませる。

 

「次は小僧の番じゃ。はよせい」

 

 なかなかむかつくことをおっしゃってくれる。

 とりあえずこのままじっとしても反則を取られるだけ。考えることを一時止め、三点目のゲートをめがけて打ち込む。

 もちろん一発で行けるはずもなく、あえなくボールは非常に位置が微妙な場所に止まることになってしまった。

 

「ふん、その程度で我らがヴィータちゃんと共にいるとは……」

「我らがって……」

 

 なんか勝手にアイドル化してる。

 と、そんなことはさておき、この元老さんは言う事はアレだが、実力はかなりのものである。

 実際に、今も俺の打ったボールをまたしてもはじき出している。狙いも完璧で、まずゲートをくぐることは不可能だろうという位置に俺のボールはあった。

 

「くっ、いやらしい場所に……」

「ほっほっほ」

 

 いや、本当にこの勝ち誇った顔はウザい。なんとしても勝ちたくなってくる。

 しかしこのままでは負けは必須。勝負の行方はマークをつけられていない少女二人にかかっていると言っても過言じゃない状況。

 

「元老さん、二つ目のゴールを通りましたよ」

「そうかそうか、これで坊主の絶望への道がまた一つ……」

 

 ……元老さん、俺の事絶対目の敵にしているだろ。

 

「おいおいりゅう、まさか負けんのか?」

「よくそんなのでゲートボール出来るね」

 

 発破をかけているというよりも馬鹿にしているようにしか聞こえない二人の声。

 

「ったく、ゲートボールはチームプレイだろ?」

「だよね、一人で頑張ってもどうにもならないのにさ」

「おい! それを言うならそもそも……そうか!」

「「ん?」」

 

 二人が先にゴールをしたのが原因、そういおうとした瞬間にとある事に気が付く。

 そう、なぜ二人は先にゴールできたのかという事に……

 

「坊主、出番じゃぞ」

 

 元老さんのニヤケ顔。だが、俺はそれに自信を持って笑みで返した。

 一瞬だけ元老さんは驚いた顔をするが、すぐに余裕を持った笑みに再び変わった。

 ――まるで、やってみろと言わんばかりに。

 

 

 

 

 なんてかっこつけてみたものの、勝利は非常にあっさりとしたものだった。

 俺がタッチを使って少女二人を援護するという方針に変える。元老さんはそれに気づくのに時間がかかったし、気付いた後も妨害は弱まった。

 それもこれも……

 

「坊主……いつから儂に彼女たちと歳が近い孫がいると気付いておった」

 

 いや、それには気が付かなかったですけど。

 

「二人が先にゴールできたのがおかしかったですからね」

「ほう? 儂の見立てではヴィータちゃんは実力者じゃぞ?」

「レヴィ……雷刃の方ですよ。あの子はまだ初心者、狙いは付けれても邪魔されることには慣れていなかったはず。ヴィータと共に抜けれることなんてありえない」

「……そうか、儂が狙えなかったと気付くには十分な材料じゃな」

 

 このじいさんはどう考えても初心者だからと手加減するような爺じゃないしな……まさかその理由が孫がいるからという理由だとは思わなかったけど。

 少女の妨害が出来ないなら、その子を援護すればいいだけ。たったそれだけだった。

 

 そして、一つ問題があるとすれば――

 

「あのお兄ちゃん私にいっぱいぶつけてきたのー!」

「あんだと? おいりゅう、ちょっとトイレの裏にこいよ」

「あはは、じゃあボクは先に帰るね!」

「じゃあな、またできたらやろうぜ!」

「うん!」

「あ、じゃあ俺も……」

 

 こっそりとレヴィについて行くように……したところで肩を掴まれた。

 

「女の子泣かせる様なやつにはおしおきだよな?」

「ヒイッ!」

 

 泣いてないと思うのに、女の子の言い方が悪くてヴィータに絞られたことが確定したこの日、トイレの裏の木に後々にいろいろな噂を呼ぶ大きな傷跡ができた。

 


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