リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第七十四話 ゲートボールの乱 前編

「おいレヴィ」

「何、龍一」

「お前、どこに行くつもりだ?」

 

 休日の早朝、レヴィが家の玄関を通り抜けようとしていたところをひっつかまえた。

 元々レヴィが外へ出て行っているのは知っていた。それを放置していたのは単に問題がなさそうだったから。

 しかしこの間、買い物に行っているときヴィータとシャマル先生に出会い、まるで近所の付き合いをしているおばちゃんたちのように談笑を始めてしまった。

 そしてその時に聞き逃せない言葉を聞いたのだ。

 

『なんでも、最近よく見かけるようになった水色の髪の女の子がゲートボールをしているみたいだってさ』

 

 そのあとに『龍一も行ってみようぜ』というお誘いがあったものの、論点はそこではないので省かせてもらう。

 とにかく、それがレヴィだと感づいた俺はすぐさま二人と別れ、こうしてレヴィを捕まえたわけだ。

 

「どこに行くって、そりゃ……」

 

 そしてレヴィは考えるそぶりをする。

 もしかすると言っていい事なのかわからないのかもしれない。だがこの辺りに水色の髪の女の子などこいつしかいない以上、ほぼレヴィがゲートボールをやっていると言っても間違いない。

 

「棒で球を打つゲームだよ」

「名前が分からなかっただけかい!」

 

 人の期待をある意味裏切らないやつである。裏切ってほしい状況の方が多いのに。

 俺はため息をつきつつ、なんていえばレヴィに言い聞かせられるのか考える。

 あまり彼女らを家に縛り付けたくはない。服装さえ変えていれば、レヴィなんかは特に性格からして本物と違うので滅多にばれることは無いはずだ。魔法さえ使わなければ。

 それでもあまり町の人と邂逅してしまえば、それはいつしか疑惑に変わり、捜査という形になって表れてもおかしくない。

 

「ねえ」

 

 悩み続けて無言の状況が耐えられなくなったのか、レヴィが声を出す。

 あんまり考え過ぎても埒が明かないので、とりあえずはその声に耳を傾けることにする。

 

「だったら龍一も来る?」

「は?」

「だって、龍一は心配なんでしょ?」

 

 心配と言えば心配だ。というか、まさかレヴィが俺の心の機微に気付いたことの方が驚いた。

 だが、心配とかそういう事を論点としているのではなく、あまり人と深く知りあって欲しくないという事を知ってほしいだけなのだ。

 

「いや、だから――」

「じゃあ行こう! ほらほらっ」

 

 手を摑まえられ、無理やりに連れ出される。

 いつものように流されるままに状況が進んでいることに、心の底からのため息が出た。

 

 

 

 

「おはよう、おばあちゃん!」

「おはよう。あらあら、りゅうちゃんも来たのね」

「お、お久しぶりです」

 

 結局ここまで連れてこられてしまった。一応ここに来るまでに髪は解かせておいたし、知り合いにあったときの応対も教え込ませた。覚えていて実践できるかは怪しいけど。

 自分としてもレヴィがどのようにしているのかは気になる。言いたいことはたくさんあったが、ひとまずそれを飲み込んで今日はレヴィに付き合うことにした。

 

「お、りゅうじゃねーか」

 

 声のした方を見てみると、そこにはヴィータがいた。そういえば、一緒にいこーぜとか誘われていたことを思い出した。

 

「ヴィータ、結局来たんだ」

「新入りがどのくらいの実力なのか気になってな。もしかして、そっちにいるのがそうか?」

 

 ヴィータは応対していた俺の後ろにいたレヴィを指さして聞く。一応他人のふりをしておくことにし、曖昧にそうじゃないかと返した。

 

「へへっ、そうか、じゃあ挨拶くらいしておくか」

(どうか、レヴィが変なことを言いませんように……)

 

 俺から離れてレヴィの元へ向かうヴィータ。俺は内心ドキドキが止まらなかった。もちろん心配的な意味で。

 

「よお、あたしはヴィータっていうんだ。お前は?」

「ボクは雷刃!」

「らいじん……? なんか、すげぇ名前だな」

 

 雷刃と言うのは俺が考えたわけではなく、レヴィが思いついた名前からとった。もう一度言うが、俺が考えたのではない。

 ヴィータは名前に少し戸惑いはしたものの、持ち前のコミュニケーション能力で話を続ける。

 その姿にひとまず安心したところで、おじいさんの一人が俺に話しかけてきた。

 

「りゅうちゃん、今日は小さい子もそろっているし、小さい子同士でやってみようか?」

「あ、はい、そうします」

 

 結構見知っている仲なので、人見知りがあまり起こらず返答する。

 って、ゲートボールはたしか五人競技のスポーツだったはず。小さい子同士でできるのだろうか?

 そんな風に思っていると、見たことが無い女の子二人がとあるおばあさんに背中を押されて出てきた。一人は青い短髪で一人はオレンジ色の短いツインテール、姉妹ではなく友達の間柄らしい。

 

「えっと、よ、よろすぃ……よろち……く」

「あはは、変なのー」

 

 まさか小さい子女の子相手に噛むとは思わなかった。

 しょうがなしに視線でヴィータに助けを請う。しかし、レヴィと話すことに夢中になっているヴィータは気づいてくれない。

 俺は世間の冷たさに涙しながら、女の子に笑われながらゲートボールをする準備をするのだった。

 


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