リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第七十三話 勝手に思っていただけ

「絶対行かない」

「来なさい」

 

 すずかの家にて言い合いをする二人。俺事倉本龍一とアリサ……なんちゃらである。

 もちろん他の四人も同じようにいる。もっとも、彼女らは四人でおやつお食べながら談笑しているが。

 

「バニングスよ」

「心の中読んできた!?」

「口に出てたわよ」

 

 呆れたように口にする。

 しかし相変わらず掴んでいる手を離してくれない。というより、部屋の出口にメイド配置していたりと、逃がす気が全くないように見える。

 そもそもこうなってしまったのはなぜだろうか。

 

 それは少し前にさかのぼる。

 

 

 

 

 放課後に入るチャイムが鳴り、何人かの同級生は一斉に扉へ向かう。巻き込まれたくない俺と他数名は、いつもそれを眺めてから帰るのがいつものことだった。

 しかしこの日に関しては、早めに帰っておけばよかったと後悔することになった。

 

「誰がなんだって?」

「だから、最近龍一があまり遊んでくれてないってなのはが」

「あ、アリサちゃんも同じこと言ってたの!」

 

 アリサと魔王の言い合いが始まるが、それよりもこの四人がこうして放課後にも囲んできたのは意外だった。

 間抜けにもそれが読めずにこうして話に入れられたこの日。いつもはこんなことが無いため、普段より困惑を強くする。

 二人が言い合いに夢中になっているのを見かね、すずかが横から口を出してきた。

 

「えっと、だからね、今度の休みにみんなでなにかしようって話をしていたの」

「行かない」

 

 そんな怪しい事についていくはずもなく、俺はすぐさま拒否する。

 流石に予想していたのか、すずかはその場では苦笑いするだけで退いた。

 

 それをもう少し怪しむべきだったのかもしれない。

 

 逃げ道が出来たと勇んで空いた場所から逃げ出す俺。誰も捕まえに来ないという事を怪しむことなく廊下へと駆けだした。

 飛び込むように廊下から出た先は、メイドさんの胸の中だった。

 

 その後なぜか気を失い、気がつけばすずかの家だった。

 

 周りには五人が談笑しながらお菓子を食べている状況。無理やり連れてこられたのは明らかだ。

 そうしてこちらに気が付くアリサ。寄ってくるときの顔は悪鬼羅刹のように見えた。

 

 

 

 

 というのが前日談だ。なんでここにいるのかはいまだにわかっていない。

 ただひとつわかるのは、また面倒くさいことに巻き込まれたということだけだ。

 

「そもそも何をしようというんだ」

「みんなでお花見でもしないかって話よ。聞いてなかったの?」

 

 いつの間にか花見に決まっていた。正直話についていけてない俺がいる。

 

「そういうわけよ。拒否権はないと思いなさい」

「ないとか言われましても……」

 

 実際、関わり合いになりたくないという心とは別に、一日中シュテルたちをほっといてもいいものかという理由もある。

 外に出ない限りは大丈夫だろうが、必ず大丈夫と言えないのが何とも辛いところだ。

 

「……どーせ暇なんでしょ」

「ギクゥ」

 

 何故かわかりやすく口に出してしまう。

 アリサはそんな俺に勝ち誇った笑みで接してきた。

 

「ほらみなさい」

「うぐぐ……お、俺にだってな、遊べない理由の一つや二つある」

「へぇ、言ってみなさいよ」

 

 といったところで、大まかな理由は地雷であることに気が付いた。

 シュテル達の事は言えないし……な、なんとか言い訳をしなくては……そうだ!

 

「ほ、ほら、流石にこの年になって異性と遊ぶのも恥ずかしくなっていたというか、からかわれるのが嫌というか」

「あんた、あたしたち以外に友人居ないくせに、誰にからかわれるのよ」

 

 グサァ

 アリサの鋭いツッコミが俺の心を抉ってきた。その力は俺が落ち込むには十分なものだった。

 

「アリサちゃん、そんな本当のことを言わなくても……!」

「わたしも仲がいい子はこの五人以外で見たことないわ。それ以外で龍一が仲がええのはわたしのところのヴィータくらいやな」

 

 何気にアリサよりすずかとはやての言う事の方がひどかった。まあ、はやての言う事には自分でも頷かざるを得ないけど。

 しかしまあ、散々行きたくないなどといったものの、最近はこの集団に混ざるのも悪くないと思っている俺もいる。もちろんぼっちでいるのが辛くなったわけではない。辛いが断じて違う。

 ただ単純に、逃げていると思ったのに巻き込まれている徒労感が後を押すのである。

 

「……はぁ」

 

 考えをまとめる溜息。

 一つ息を吐いてみれば、なんとも鮮明になっていく答え。

 

(混ざるのも悪くないかな……)

 

 事件に巻き込まれるのは嫌だが、こうしてみんなで集まって何かするというのも悪くないのかもしれない。

 そういう風に考え直していたところで、俺の表情から何を読み取ったのか、魔王が一人アリサの横をすり抜けて俺の目の前に立った。

 

「どうしても嫌なの?」

 

 悲しそうに見つめてくる瞳。

 そんな顔をされてしまえば、いくら魔王とてただの女の子に見えないではないか。

 それが後押ししたのか、俺の心は決まった。しょうがなく、しぶしぶ、心底どうでもよさそうに、俺は顔をそむけながら言った。

 

「……行ってもいい」

 

 この言葉を口にした瞬間、俺はもう戻れないことを悟った。そう、この五人に連れまわされるという現実から。

 

「よくやったわ、なのは」

「えへへ……」

「結構な大所帯になりそうやなー」

 

 ……ん? 今はやてが何か聞き捨てならない事を言ったぞ。

 俺は嫌な予感がしながらも、その理由をはやてに向けて聞く。

 

「はやて……まさか、この五人以外にも?」

「当たり前やろ。わたしら小学四年生やないか」

「えっ」

「来るのはわたしの家族と……」

「また家ぐるみの付き合いだよね」

 

 眩しそうな表情をしてフェイトがはやての言葉につなげた。

 家ぐるみの付き合いという言葉に、前体験した温泉の事を思い出した。あの時はまだ自分の親という物がいたが、今度は俺一人、ぼっちだ。敢えて言うのならばそのあたりの監視者も薄いため、シグナムやリインフォースにフルボッコされる確率もないとは言えない。

 これは断った方がいいのか、数秒悩んだところで二人を見る。

 

「あ、ちょ――」

 

 口を開こうとしたところで、二人は踵を返してしまいタイミングを逃してしまう。

 

 俺は軽い足取りで他三人のところに戻るアリサと魔王の背中を見て、愕然とするのだった。

 


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