リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
今更だが、家に住み込むことになった三人の説明をしよう。
レヴィからは砕けえぬ闇を生み出すとか聞いたが、シュテルから聞いた話だと、実際には闇の書の残骸が砕けえぬ闇として復活するというのが正解らしい。
そして三人はマテリアルという、闇の欠片と違い自我を持つ構成素体。そして、彼女らは前述した砕けえぬ闇を生み出すために作られたのだとか。
……なんて言われても、意味が分からないが。とりあえず、闇の書みたいなものが復活しようとしていた事は分かった。
しかし、シュテルはともかく、王のマテリアルであるディアーチェが復活を諦めたのかは定かではない。今こうして生活しているのが楽しいから、考えないようにするけど。
「クソゲーだ! 作った奴でてこい!」
そんなことを考えながら階段を下りていると、荒っぽい声が聞こえ、リビングを見てみる。
そこでは王様が声を張り上げてプレイ中のゲームに暴言を叩きつけていた。
「ちょっと静かにしてよ」
「黙っておれ。我をこれ以上バカにすると許さんぞ……」
何かに集中することは悪くないことではあるけど、ゲームで独り言を言い始めるのは明らかにいいことではない。代表例は俺だ。
それはボッチへの始まりのひと時……なんて言いたいが、王様なら何故か大丈夫だろうと確信があった。何故かはわからないが。
(はやてに似ているのが関係あるのかもしれない)
そこで俺は天啓を思いつく。
「似ているのは姿かたちだけなのか……そうだ、調べてみよう」
『それって単純に暇つぶしだよね』
真実を語ることなくともアリシアは分かってくれる。
これが視線だけで言っていることがわかる仲か。
『わたし目はないけど』
さっきからアリシアは無粋である。
さて、まずはやての趣味で第一に思いついたのは読書だ。
王様が読書している姿はあまり見たことが無い。というのも、リビングにてみんなが集まるときは、シュテル達と楽しそうに話しているからだ。本人はそんなつもりはないらしいが。
その右手には、書室に置いている本が携えていることは無くもないが、それは趣味といえるほどという物なのだろうか。
「というわけで、本人に聞いてみる方が早いよな。そこのところどうぞ」
「なぜ丸太棒などに言わねばならん」
態度がそっけない。いつものこととはいえ、ずっとこの態度のままでいられるというのも少々やりづらい。
王様は俺の心を読み透かすかのように、目を細めて視線を突き刺してきた。
「そもそも、それを答えたところで我に利はあるのか」
「え? ええっと……面白い本を教えてあげるくらいのことはしようかなと」
「ふむ……」
王様は考え込むよう俯き、少しの間が開く。
その後何を思ったのか、急に立ち上がって階段の方へと向かっていった。
ボーっとその姿を見ていると、王様は俺に向けて手招きをしてきた。
「何をしておる。早く来い」
「あ、はい」
俺は従者のようにすごすごと後ろをついて行った。
ついて行った先は王様の部屋の前。
ちなみに同じ階層にはシュテルとレヴィに割り当てた部屋もある。どうでもいいだろうけど俺の部屋は一階だ。
「ちょっと待っておれ」
そう言って部屋の中に入っていく。
ちらりと扉の隙間から見えた部屋は、過度なレイアウトはされていない質素なものだった。
(そういえば、模様替えとかあんまりさせてなかったな)
そんな風に思い返す。
勝手に模様替えをさせすぎると親の言い訳が大変なので、目の届く範囲でのみ可にしてみてもいいかもしれない。
そうなるとやはり通信販売が一番安全かと考えていたところ、何冊か本を持ってきた王様が扉から出てきた。
「丸太棒が言う趣味という物ではないが、我も何冊か読んでおるぞ」
恐らく家の書庫からとってきたものだろう。少し古めの、俺も前に読んだことのある本が何冊か出てきた。
「へえ、でも結構読んでるんだな」
「これでもほんの一部だ」
気をよくしたのか自慢げに胸を張る。
存在しないその部分から目を逸らして、王様が持ってきた本を手に取ってみてみる。ジャンルの好みなどははやてと同じくノンジャンル。なんでも読むタイプらしい。
まだ本を読み始めて間もないことを考えれば、こうした何でも読むというのは当然なのかもしれない。
「……うん、じゃあ今度俺が気に入った物でも借りてくることにする」
「そうか、そうしろ」
相変わらず態度が尊大だ。
そして夕方。
俺は考えていたもう一つのはやての特徴をここで調べることにした。
「王様」
「何用だ、どうでもいいことだったらその命ないと思え」
いきなりプレッシャーを与えてくる王様。
これは王様にとってどうでもいい事。だが、自分の探求欲のためにも、さしてはこの後の生活のためにも知っておきたいことだ。
少しの緊張をまとい、恐る恐る王様に対して意見を述べた。
「料理の腕はいかほどのものなのかなぁーって」
「あ゛あ゛?」
「ひいっ!」
どこぞのヤのつく人のようにガラの悪そうに聞こえたのは、たぶん過剰な妄想だろう。それ抜きにしてもこちらを見る目は現在も怖い。
つい、しなくてもいい言い訳が口先から飛び出してしまう。
「いえいえこのことを聞いたわけはですね、私がいなくても大丈夫なのかなと思ったわけでしてね、決して王様を侮っているわけではなくてですね、あくまでもこれは人生において大切なことなわけなのですはい」
自分でも何を言っているのか分からなかった。
だが王様相手にいくら言葉を重ねたところで、俺の言葉に突き動かされるとは思えない。
口を滑らせるのもまずいので、この辺りで言い訳のように出る言葉を終わらせておく。
「あー、まあ、ともかく……今日はシュテルと作るよ。シュテルも料理上手だし」
というより凝り性といった方が正しいのかもしれない。プリンも今や出来栄えは俺より上手だし。
料理も始めた当初はともかく、今は手伝いを満足にしてくれるくらいの手際の良さがあった。
「だから王様は今日もソファでくつろいでいて……ってどうした?」
みてみれば、王様はどこを真面目に受けたのかは分からないが、何かを考え込むようなそぶりをみせる。
しばらく返事を待つが何も言ってこない。ご飯の事もありこうして待ち続けるわけにもいかないので、俺は考え始めた王様を放っておき、今日使う予定のフライパンを用意する。――前に、誰かに腕を掴まれた。
「待て」
その手を止めたのは王様。
まさかさっきの言葉で心動かされたわけでもないであろうが、こちらに向ける瞳は明らかにやる気に満ちていた。
「ええっと……王様?」
「くく……我を軽視しおって。よいだろう、我の腕を見せてやる時が来たようだ」
なんだかんだで作ってくれるらしい。
眼の闘志を見る限り、自分から進んでやってくれているようだ。
しかし、そんなやってもらえるような要素なんてあったか……?
「王様、今日は王様が料理を作るのですか?」
「ふん、たまには王として臣下を敬ってやらんとな」
なるほど、王様なりのねぎらいだったわけだ。
まさかそんなことをしてくれるとは思ってなかったので、不覚にも少し感動してしまう。
「丸太棒は自分で作れよ」
「そう来ると思ってましたよ!」
なんとなくオチは読めていた。
……べ、別に悲しくなんてないんだから!
俺と王様の初めての共同作業が終わり、二人そろって席に着く。
「……」
「す、すいません、余計なこと考えませんから、そのナイフを下してください」
こちらに鋭い視線を送ってくるものの、その手に持っていた凶器はおとなしくその場に置いてくれた。
ちなみに今日のごはんはハンバーグである。だからフライパンを用意しようとしたわけだが。
「今日は王様が作ったの?」
ついさっき家に帰ってきたレヴィが驚き半分に聞いてくる。
料理は俺の想像以上に完成度が高く、今まで家の事をほとんどしていなかった人が作ったものだと思えないほどのものだった。ここははやてと似ているだけはあるのかもしれない。
「ふ、ふん、まあたまには部下を労ってやらんとな」
照れているのだろう。王様は顔を少し赤くして、視線を逸らした。
シュテルはそれを微笑みながら見つめ、俺もまたそんな温かい雰囲気にのまれる。この家族のような温かさを生み出すところは、やはりはやてと同じなのだと思った。
「あれ、俺が作った奴は……」
「レヴィが食ってたぞ」
「え、これ龍一のだったの? ごめーん」
口にケチャップをつけて二つ目をかじりついているレヴィ。
明らかに食べていたのに気付いていたような口調で語る王様に、俺は悲しみ半分で叫ぶ。
「気付いてたのなら止めろよぉ!」
「知らぬ」
血も涙もない。
今までの事は撤回しよう。こいつははやてと違って優しくない。
俺はため息をつきつつ、再びキッチンへと向かうのだった。こうしているうちは、変なことは起こらないだろうと心中に留めながら。