リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第七十一話 驚きと平凡

 結局三日も休んでしまった。というわけで学校始まってから四日目、ようやく俺は登校というところまでこぎつけたのだった。

 シュテル達には家を出ることは厳禁としてある。一番不安なのは不用意に魔法を使う事だが……まあアリシアもいるし、今までも特に問題は起こさなかったので大丈夫だろう。

 

 そして、今俺は教室の前に立っていた。

 

「さすがに三日休みは目立つか……だけど、こうしてもいてもしょうがない」

 

 その運命の扉を俺は意を決し開け放った。

 扉の先は徐々にその姿を現し、そこには信じられないものが姿を現したのだった。

 

「あれ、上級生の方ですか? ここは三年の教室ですよ」

 

 ……いきなり間違えた。というより、最近の子って目上の人にもこんなにはきはき喋れるんだね。俺には無理だよ。

 もちろん俺はその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 と、言うわけで仕切り直し。

 今度は休みの子宛に来た先生の手紙も見てちゃんと調べてきたし、間違えていないはず。

 その運命の扉を俺は意を決し開け放った。

 扉の先は徐々にその姿を現し、そこには信じられないものが姿を現したのだった。

 

「あ、龍一やないか」

「うわあああああああああああああ!!?」

 

 なぜか、そうなぜか新学期の教室にはやてがいた。

 驚き、本能からその場からの逃走を謀る。

 もう後ろは振り向かない。目指すのはこの場からの脱却。

 

「あれ、龍一?」

 

 走っているとアリサが見えたがそんなことは知らない。

 俺は後ろに感じる恐ろしき気配から逃げるために必死になっている。

 

「龍一くん、一体どこに――」

 

 そして今度見えたのはすずか。悪いが、今の俺を捕まえられるものはいない!

 

「――行くのかな?」

 

 ぐっと、襟をつかまれ、俺は宙に舞った。

 一瞬何が起きたのか分からなかった。痛みの後分かったのは俺は天井を見つめているということ。

 

「ね、龍一くん」

「えぇ……? いったい何がどうなって……」

 

 すずかの顔が映るもいまだに理解が出来ない。とりあえずは見えてしまいそうなものが見える前に立ち上がることにする。

 ちょっと気を取り直していると、アリサがこちらへ近づいてくるのが見えた。

 ちょうどいい、アリサに何が起こったのか聞いてみよう。

 

「なあアリサ、俺ってなんで天を眺めてたの」

「天!? 知らないわよ!」

 

 結構いきりたって返された。多分無視されたことに対して不満だったのだろう。

 しかし、本屋で会うまで春休み会うことが無かったのにそんな気がしない。春休みは春休みで一日が濃かったというのもあるのだろうが。

 ふと走ってきた方向を振り向いてみれば、そこには見覚えのある三人がこちらへ向かってくるのが見えた。

 

「龍一くーん」

「龍一ー」

 

 魔王とはやてだ! ついでに後ろにフェイトもついている。

 しかしチャイムもそろそろ鳴る以上、逃げる時間もない。遅れて教室に入ることは今まで避けてきた。今までそれを守ってきたし、ここで崩したくもなかった。

 休みが多いのは何も言い返せないけどな。

 

「お、おはよう」

 

 ぎこちない笑みを浮かべる。

 なんだかんだでこうして三人と話すのは久しぶりだ。

 ん、あれ……そう考えるとなんだか緊張してきたような……

 

「おはよう龍一」

「なんで逃げたん龍一」

 

 フェイトがにこやかにあいさつを返してくれて、はやてが少し頬を膨らませて文句を言ってくる。

 そしてなんかそんなどころじゃなくなってくる俺。動機も激しくなってなんて言っていいのか分からなくなる。

 ……ハッ、コミュ障が再発した!

 

「チャ、チャイムが鳴るころだし、しゅわろ……座ろう」

 

 何とか言葉を紡いでこの後の事を指し示す。

 一度席に座れば逃げられないことを知って。

 

 

 

 

 休憩時間、見事な動きにより俺の逃げ場は封鎖されてしまった。

 四人のしたたかさは変わっていないらしい。そしてそんな動きに置いてかれているはやて。少し不思議そうな表情を浮かべている。

 

「あ、はやてちゃん、こっちどうぞ」

 

 より一層場所を狭めるよう位置を指定してくれた。

 前回と変わらない席は相変わらずの後ろ窓際。そして一年経って完全に学んだのか、クラスメイトの子たちはあまりここの近くに寄らなくなった。

 

「なんなんだろうな、俺」

「龍一くん?」

「なんでもないよ、気にしないで」

 

 珍しく魔王が気にかけてくる。

 そういえばこうなってしまった元の原因は魔王にあるんじゃないだろうか。

 まあさらに元を辿れば仲良くなってしまったのが悪いんだけど。だけど一度は険悪になってたような気もする。

 ……あれ、いつ仲良くなったんだっけ。

 

「あのー」

「ん? やっぱり何か用なの?」

 

 やっぱり魔王が答える。

 もうこのさい魔王でもいいと思い、話を続けることにした。

 

「みんなと仲良くなったのって、いつからだっけ」

 

 すると、魔王はきょとんとした顔でこちらをじっと見てきた。

 

「えっと……?」

「……そういえば、私が小さいときに友達になった子が龍一君に似ていたような」

「え……」

 

 やっべぇええええええええええ! そんなことがあったの忘れてたぁああああああああああ!

 そういや思い出されたら面倒だから逃げてたんだっけ、すっかり記憶から抜け落ちてたよ!

 ……でも、今なら別にいいんじゃないだろうか。もう魔王だって自立している。友達だっていっぱいできた。昔の友達だからって重要視することは無いだろう。

 だったら別に――

 

「龍一と私の出会いは買い物帰りだったよね」

 

 と、そこで俺と魔王の間を遮るようにしてフェイトが会話に入ってきた。

 それに便乗するように、はやてもこっちに身を乗り出してくる。

 

「わたしは図書館やったなぁ」

「そして本当の料理って……」

「確か、取る本間違えまくっとった」

 

 なんで黒歴史のところだけピンポイントなんですかねぇ。もうちょっといいエピソードあっただろうに。

 そこでアリサとすずかが苦笑いをしているのに気付く。

 ああ、そういえば二人の出会いはあんまり良くなかったっけ。

 

「あんなことがなかったら、あたしたち友達になってなかったかもしれないわね」

「だね」

 

 ねーよ! 絶対ねーよ! 主人公が絡む時点で仲良しになってるよ!

 なんて、あまりの過大評価に驚きとともに心の中でツッコミをする。

 だけど俺が仲良くなれたのはあの事があったから。それは間違いないと思う。……黒歴史という事には変わらないけど。

 

「って、高町さんどうかした?」

「……ううん、なんでもないの」

 

 その後に何か言ってるようだけど、小さくて聞き取れなかった。都合よく聞こえないとかどこのラノベの主人公だよ。

 

 そうして、今日はこれ以上特に何事もなく平凡に終わった。

 


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