リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第七話 なぜに逃げるのか

 季節はすぎて二学期の登校日。

 あいかわらずのぼっちで、あいかわらずはやての勧めてくれた本を読みふける毎日。

 だいぶ前のお泊りから、実に三日に二日という割合で泊まるはやて家。

 流石にそれくらいはやてと仲よくなれば会話で失敗することもなくなり、実に学校以外では素晴らしい生活を送っていた。

 ……学校以外では。

 

「ほら、ずっと本を読んでる」

「暗いよね」

 

 新学期に入った途端広まりだした根暗という噂。

 今までこういうのがなかっただけ、俺はとてつもなくダメージを受けている。

 転生前ではよくあったことも、時間をおかれたこともあり辛さは一層増していた。

 

 それと変わったことは席替えがあったことだった。

 だけど、それも全く幸せな席ではなく前回の魔王の前に仲良し三人組の残りの二人が来るという最悪な状況。もちろん、俺の席と魔王の席は変わっていない。

 二ついいと思えることは、前の席の人は休み時間常に校庭に行ってる子で、あまり俺のことを気にかけてないこと。

 そして隣の魔王、その前の二人は俺に対して何も言ってこないこと。

 たまに、こっちをみてくるけど。

 

「ちょっと、なにかしてみない?」

「えー、でもー」

 

 さすがに一年のころから陰口を叩かれるとは思ってなかったな……。

 さすがにお嬢様学校なだけあって、思考は一般よりも成熟しているらしい。

 このままだと、いじめに発展する日も近いかもしれない。

 

 ああ、だめだ、思考を切り替えなきゃ。

 

 そういえば、八神というのに引っかかった原因が分かった。

 それに思い立ったとき、それは当然だと思った。

 なぜなら、某漫画のあの死神の本を持っていたあの男の苗字と一緒だったからだ。

 そりゃそうだ、俺好きだったもん。

 リリカルの原作キャラでないことが分かった俺は、今や安心して寝食ともにできる。

 今一番幸せなことはそれだな。

 今持っている本を丁度読み終わり、カバンの中に入っている別の本と取り換えようとする。

 そこで、手元を遮るように影が出来た。

 

「あの、ちょっといいかな」

 

 その瞬間、俺は思った。

 最近の小学生は行動するのが早いなって。

 観念した心持で、声をかけてきた相手を見た。

 

 そして、逃げだした。

 

 

 

 

「すずかちゃん、逃げられたよ?」

 

 なのはちゃんが、さっき行動した結果を言ってきた。

 私も見ていたからそれはわかっている。

 ただ、それで気になったのは倉本君の行動、視線。

 なのはちゃんを見た瞬間、あきらめきっていた顔つきが急に恐怖のものに変わった。

 その視線はまるで私たち……夜の一族に向けられる感じの、何者かわからない者に恐怖する視線にそっくりだった。

 

「すずかちゃん?」

「あ、うん、なのはちゃん何?」

「このあとどうするのかなって」

 

 なのはちゃんに声をかけてきてもらったのは、最近倉本君に対しての陰口が表立ってきたからだった。

 四月のあの事件のあと、なのはちゃんとアリサちゃんと私は仲良くなった。

 でも、それにかかわった倉本君は、今も一人ぼっちだということ。

 それはいつも休憩時間に本ばかり読んでいて、誰とも会話しようとしてないところから読み取れる。

 私も一人でいるときは良く本を読んでいた。

 だからこそ、少し同情してしまった。

 確かに、あの時倉本君のした行動は私にとってショックだけど、あそこで入ってくれなかったら、私たちは仲良くなれなかったかもしれない。そんな風にも思えて。

 

「そうだね……うん。私が話しに行ってみるよ」

「あんなことされたのに、すずかはよく気にかけるわね」

 

 一緒になのはちゃんを見ていたアリサちゃんがそういってきた。

 その言葉の中には、どちらかというと心配していることが多く読み取れて、その心遣いにはうれしく思える。

 アリサちゃんとしては、四月の事があるから私と倉本君が話すことについてはあまり喜ばしいことではないようだ。

 なのはちゃんも、そのあたりについては同じ気持ちのようでもあるし。

 

「それをいうなら、アリサちゃんもでしょ」

「う、痛いところついてくるわね……」

「ふふ、大丈夫、気にしてないよ」

 

 あの時の事はもう大丈夫。

 それは、あの男の子も同じ。

 

 

 

 

 倉本君は階段の隅の方にいた。

 

「倉本君」

 

 私が声をかけると、倉本君はびくりとして顔をこっちに向けた。

 反応に困った私は、とりあえず笑顔を向ける。

 倉本君は土下座をした。

 

「あ、あ、あ、あの時の事は、どうもすみみゃせんでした!!」

 

 最初は意味が分からなかった私だけど、少したって何のことかわかった。

 四月の時の事、倉本君もずっと考えていたんだ。

 もしかしたら、それを気に病んでいたから誰とも話さなかったのかもしれない。

 そう思うと、私は倉本君を悪い人に扱うことは出来そうもない。

 むしろ、そこまで考えてくれていたことに、逆にこっちが恐縮してしまう。

 

「あのね倉本君、あのことはもういいの」

「いえしかし、あの時はまっこと申しあけにゃいことを!」

「お、落ち着こうよ」

 

 言葉を噛みながらも謝ってくる倉本君に、こっちが悪いことをしている気分になってくる。

 倉本君は少し息を落ち着かせ、不安そうな顔でこちらを見てきた。

 

「ほ、本当に許してくれるんですか?」

「うん」

 

 そこまでいったところで、ようやく倉本君は安心した顔になる。

 私、そんなに怒っていたように見えたかな?

 

「そ、それで、何の御用で?」

「倉本君、一緒に遊ぼう」

 

 一瞬きょとんとされた後、すごく驚いた顔になる。

 小さく声も「えっ」って漏れてたような気もする。

 聞き間違いっていうわけじゃないことを証明するために、私はもう一度同じことを言う。

 

「一緒に遊ぼう」

 

 言った後で、普段の自分がいいそうじゃない言葉だと思った。

 行動も、いつもの自分らしくない。

 それに気づくと、私は今していることが恥ずかしく思えてきて、徐々に顔が熱くなってくる。

 

 結局、倉本君が反応する前に私はそこから逃げ出した。

 


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