リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第六十八話 意外と死角にある

「王様ー、皿洗い手伝え」

「なぜ我がそのようなことをせねばならん。たわけたことをぬかすようなら、その頭かち割ってくれるぞ」

「ひえぇ……」

 

 レヴィと王様――ディアーチェ――がこの家に住むようになってから一週間ほど過ぎた。

 我が家の立場の順位をうまく覆した王様は家で本当の王のようにごろごろし、レヴィは何故か格ゲーにはまったりしていた。

 

「はぁ……」

『なにを溜息ついているの?』

「なんか苦労が増えたなって」

『あはは、お兄ちゃんに振り回される私ほどじゃないよ』

 

 地味に自画自賛しやがった。

 とはいえ、言いたいことが分からないわけでもないけど。まあ、気にしないようにするか。

 そんなこんなで気を取り直して皿洗いを続けていると、シュテルが新聞の広告をもって近くまで寄ってきた。

 

「龍一、これはなんですか?」

 

 広告の内容は服の安売りだった。

 

(そういや、こいつらいつも同じ服だな)

 

 前にシュテルにそれとなく聞いてみた時は『わたしにはそういうものは必要ないので』と答えられたこともある。

 ファッションに興味ないかららしいが、やはりこうして過ごす以上何着かは必要なんじゃないだろうかと思う。

 そもそも、こうして聞いてきた以上、シュテル自身服が欲しくなってきた証拠ではないのか。

 

(アリシアはどう思う?)

(服の事? うーん……何か買うのは反対しないけど、外に連れ出すのは……)

 

 アリシアに言われて気付く。

 シュテルは、魔王と似ているとはいえ髪が短かったりといろいろ差異はある。

 だが、レヴィとか王様は髪の色はともかくとして、全体的に似ている、おそらく、この町で出歩こうとするものならば、誰かにそのことを聞かれることは請け合いだろう。

 前にシュテルを連れ出した時に知り合いと会わなかったのは運が良かっただけだろうし。

 

「……よし」

 

 皿洗いを途中で止め、早速外へ出る準備をする。

 

「龍一、どこか出かけるのですか?」

「本を買いに行ってくる。シュテルはゆっくりしてていいよ」

 

 アリシアをシュテルに持たせ、いつも買い物の時に持っていくバッグの中身を確認し、玄関へと向かう。

 

「丸太棒、ちょっとよいか」

 

 ソファでくつろいでいた王様が、玄関へと向かう俺の足を止めてきた。

 これはいってらっしゃいの言葉が聞け――

 

「冷蔵庫にあるプリン、食べても良いか?」

「勝手にしろっ!」

 

 ですよねー。分かってたことだよねー。

 

 

 

 

 というわけで本屋についた。

 今日ここに来たのはファッション雑誌を買うため。別に店頭に行かなくても通販で買えばいいもんだしね。

 本屋に来て早々、用事を終わらせようとファッション雑誌が売っているコーナーにすぐに向かった――

 

「あら、龍一じゃない」

 

 ――ところで、会いたくもないやつにあってしまった。

 

「あ、アリサ? なんでここに……」

「すずかの付き添いよ。龍一こそ、なんでこんなところにいるのよ」

「ちょっと必要な本がありまして」

 

 あえて言葉を濁す。

 まさかファッション雑誌だなんてことは、口が裂けても言えるわけがない。

 だって、買うものは完全に女性向けの物。そんなものを買うなんて知れたら、変態扱いもいいところだ。

 

「必要な本? へえ、何を買うつもりなの」

「え? ええっと……」

 

 しかし俺の思いなんて全く届かず、アリサはさらにこのことを追及してくる。

 いつもなら逃げれば済むこと。

 だが、俺はシュテルのためにもこのミッションを無事に遂行しなくてはならない。

 そのためにはアリサの興味を別に移さねば……

 

「あ、そういえば春休みっていつだっけ」

「誤魔化さずに何を買おうとしてるのか教えなさいよ。春休みは終業式の後だから三週間後よ」

 

 流石にアリサには通用しない。

 というか、もうそんなに時間がたってたんだ……

 

「テストもそろそろだよね、準備は済んだの?」

「心配無用よ。準備するものは何もなし。気にしなくてもいいわ」

 

 くっ、どうやらアリサの興味は他へ向かないようだ。

 こうなったら適当なこと言って誤魔化すしかない。

 

「いいから、どんな本を探してるのか教えなさい」

「……六法全書」

「それで騙される人がいると思ってるの」

 

 多分魔王とフェイトには効くと思う。というか本当に六法全書を買う気だったらどうするのだろう。

 しかし、いよいよ方法が無くなってきた。これはいったん撤退してまた再度来ることにするか……?

 

「あれ、アリサちゃん、誰と話してるの?」

 

 いつの間にか俺の背後にすずかが立っていた。

 

「すずか、龍一もここにきてるわよ」

「えっ? 龍一くんも?」

 

 俺の背後から近づいてきたすずかが隣に並び顔を覗き込む。

 それにより縮まった距離に、一瞬俺の心は鼓動を上げた。

 

「ってアウトー!!」

「ひゃっ!」

 

 突然の俺の奇声に驚いて距離を置くすずか。

 しかし、あのままでいたら俺はロリコンだという事を自覚しなくちゃいけなくなってしまう。

 気分を落ち着かせるため、俺は深呼吸を数回繰り返した。

 

「……ふぅ、すずか、世界平和というのはいつになったら実現するんだろうね」

「えっ」

 

 しまった、冷静になり過ぎてへんなこと口にしてしまった。

 コホンと一つ咳払いを行い、再び気を取り戻す――

 

「というより、いますずかって……」

 

 ――前に自分がしてしまった爆弾発言が自分に返ってきた。

 

「あ、いや、今のはまちあえ……がえて! ご、ごめん!」

「う、うん。別に気にし……あ、やっぱり許さない」

「ええっ!?」

 

 まさかの返答。

 名前だけで許さないとは考えられず……もしや、気付かぬうちにすずかを怒らせるようなことを言ってしまったのか!?

 そんな風に考えたのがすずかにもすぐわかったのか、くすりと楽しそうに笑った。

 

「でも、龍一くんがそう呼んでくれるのなら許してあげる」

 

 少し小悪魔な表情がうかがえるその返答。

 この時初めて謀られたのだということを実感した。

 

「えっと……」

「ね、龍一くん?」

 

 目には否定の言葉を与えさせないかのような力強さがあった。

 そもそも、ここまで言われてお断りが出来るほど俺の心も強いわけがない。

 早々に呼ばない選択肢を選ぶことをあきらめ、俺は渋々ながらすずかの名前を呼んだ。

 

「す、すずか」

「……」

 

 言った瞬間、すずかの体がびくりと震え、どこか所在なさ気にそわそわし始めた。

 

「え、ど、どうかしたの?」

「え!? あ、ううん、なんでもないよ!」

 

 そうは口で言うものの、顔も赤く染まっておりどこか調子が悪そうにも見える。

 どうしようかと困っていたら、アリサは突然すずかの手を掴んだ。

 

「す、すずか! 行くわよ!」

「へ……?」

 

 気の抜けたような声。

 アリサに手を引っ張られ店の外に出ていく姿は熱に浮かされているようで、やはり体調が悪かったのだと思わされる。

 ……ん? これはもしやミッション達成か?

 最後の二人の態度に気になりつつ、俺は見事カタログを見ることに成功したのであった。

 

 

 ちなみに家に帰って――

 

「いえ、これではなくて、こちらの『焼きプリン』とやらが気になったのですけど」

「そっちか! なんで服の広告に焼きプリンの割引が書かれてあるんだよ!」

 


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