リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第六十七話 後悔からの道

「ただいまー」

『ただいま』

 

 二人と一つはわが家へと帰ってきた。二人の少女を連れて。

 正直言って眠気がすごい。身体が子供なだけあって、夜更かしはだいぶ体に来るらしい。

 だけど、まだ寝るわけにはいかない。

 

「まったく、今日は大変だったよ……」

「すみません……」

 

 俺の悪態に反応して、謝罪の言葉と共にしょんぼりするシュテル。

 なんというか、帰る時からずっとこの調子だ。こうして生きて帰れたし、あまり気にしてないんだけど。

 ……とかいって、反省してないからこういう事件に巻き込まれるんだろうなぁとしみじみ思う。

 

「とりあえず、俺は眠気覚ましにコーヒー煎れてくる。シュテルはリビングのソファに座っておいて」

「はい、わかりました」

 

 そう言って、アリシアを連れてキッチンの方に足を運ぶ。

 コーヒーなんて飲んでも、子供の体では限界がある。無意味になりそうなコーヒーの準備をする最中、アリシアが声をかけてきた。

 

『でもさ、まさかあんな逃げ隠れするための魔法が役に立つとは思わなかったよ』

「おいアリシア、俺をなんだと思っている」

 

 本人の前で失礼なことを言う。

 まあ、実際今日の事は役に立つとは思っていなかった魔法が役に立ったけど。

 

 あの後、俺はすぐさま結界を張った。公園の隅っこ、それこそ目立たない位置に隠れながら。

 その結界こそいつも俺が使っている結界。魔力を隠すタイプの物。賭けではあったが、その中に入り結界を操作すればばれないかもしれないと思ったからだ。

 後は戦いを眺めて、やられたらすぐにシュテルが結界を切るだけ。

 正直かなり冷や汗ものだったのは確かだ。最後に魔王が周りを一望したのも背中がひやりとしたし。

 

『でも、まだ問題はあるよ』

「分かってる。こいつらだよな……」

 

 アリシアの言うとおり、あの三人をこれからどうするか。

 野に放つわけにはいかないし、管理局に突き出すとか俺にも被害来るし、ましてや消滅させるとか俺が消滅させられる。

 ……まあ、そこまで言うとどうするかなんて決まっているようなものだが。

 

「難儀……ああ、いや、めんどくさいことになった」

『なんで言い直したの?』

「なんとなく」

 

 面倒という理由でのインスタントコーヒーを作り終わり、三人の待っている場まで移動する。

 シュテルはソファに座ってうなだれていて、レヴィはソファの柔らかさを体感していた。

 ちなみにもう一人はまだ気絶している。

 

「……とりあえず、レヴィもうちに住むか?」

 

 とりあえずもなにも、それ以外にどうしようもないだけなのだが。

 

「え? いいの?」

「まあ、うちは大丈夫だけど」

 

 仕送りも元々の量が多いうえに自炊しているおかげでかなり余裕もあるし、家自体もそれなりに大きいので部屋にも余裕がある。

 親もしばらく帰ってくる気配がない。

 アリシアからの反論もないので、アリシアからしても正しい選択なのだろう。

 

「んー、僕はそれも面白そうだしいいけど、王様が何ていうか」

「説得とかどう?」

「王様が説得に応じるとは思えないな」

 

 レヴィからしても説得は無理のようだ。

 シュテルなら……とも思ったが、今の調子じゃ成功しそうもないだろう。

 同じ存在のレヴィからの返答が安心できるものだったことを考えれば、可能性がないわけでもないだろうが。

 

(正直、さっきまでの調子を考えれば無理だよな)

(無理だろうね。存在からしても)

 

 アリシアも無理だろうとの判断。

 こうなると、シュテルを拾った判断は完全な気の迷いなんだったと実感する。

 考えてもらちが明かないこの問いに、俺はそのまま意識が途切れていくのを感じた。

 

 

 

 

 リビングが静まりかえってからそんなに時間も経っていない頃、気付けば起きているのは私一人となっていた。

 いや、もしかするとアリシアは起きているのかもしれないが……思考に混ざらなければ寝ているのと同じことだろう。

 

「結局、私がしたことは良かったのでしょうか……」

 

 王が攻撃する瞬間、動くことを止められなかった。

 もちろん、そのこと自体に後悔はしていないし、その時の気持ちが分かった今納得もしている。

 だけど、自分は闇の書にとって失敗作だったのではないか。

 たとえいい記憶があるわけではないが、使命が素直に受け入れられない時点で自分の存在に価値はないのだろうか。いや、無くなったのではないだろうか。

 

「良いも悪いもないわ。この馬鹿者が」

「!? 王……」

 

 顔をあげてみると、あおむけに横たわったままの王がいた。きちんと目の焦点があっているところを見ると、意識はもう取り戻したようだ。

 

「ふん、話はずっと聞いておった。ただ、いまだに体が慣れぬ。シュテル、本気で感電させにきおったな」

「……」

「ちっ、我をこんな目に遭わせたこの丸太棒には、しっかりと返さなければならんようだ」

「王」

「――分かっておる。かまをかけただけだ。身構えるでない」

 

 気付けば、体は自然と武器を手にしていた。

 その狙う先は私にとって耐えられない言葉を吐いた者へ。

 

「貴様は所詮失敗作だ。たかが人間に心盗まれおって」

「やはり、王は」

「……やりあうつもりはない。シュテルをこのように変える者。我とて気になる」

 

 拗ねるようにして顔をそむける。

 しかし、その言葉は私にとって意外であり、そしてその意味がするところは……

 

「我は寝る。……そいつには厄介になると伝えておけ」

「はい、分かりました――我が王」

 

 なんだかんだで、王は気遣ってくれたのだろう。

 自意識過剰ともいわれるかもしれないが、変わってしまった私を。

 


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