リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
勝負は決した。
王様はシュテルにより追加された全力全開の魔力を受け、帯電により気絶をした。どう考えても相手の敗因は、余裕を持ちすぎてバリアジャケットの防御を薄いままにしていたからである。
「……あちゃあ、王様やられたかぁ。人には油断するなっていうのにさぁ」
今いるのは海鳴の公園。引き上げられ、木の幹にて気絶し倒れていた王様をみて、レヴィはあっさりとそう口にした。
「って、お前!?」
「あー、いいよ、僕は元々シュテるんと戦いたくなかったしね」
武器を収めているところをみると、言っていることは本当のようだ。
「……とりあえず、いろいろ聞きたいことがある」
「僕に聞くの? 多分、シュテるんに聞いた方がいいと思うよ」
「シュテルは事後処理とか言ってどっか行った」
多分結界とかの後始末だろう。とはいえ、行くときの顔はあまり余裕がなさそうな感じだったが。
あの規模なら管理局あたりにばれていてもおかしくないからな……
ついでにアリシアも持って行った。理由は分かるが、レヴィが残っていたぞ。もしまだ戦闘意欲が残っていたらどうするつもりだったんだろうか。
「ふーん。まあ、答えられることなら別にいいけど」
「まず、お前たちはなんなんだ?」
只者ではないと思っていたシュテルは正しく只者ではなかったわけだが、それだけでなく、作り直すとも、先に生まれたとも言われていた。
これでただの人間なんてこと、ありえはしないだろう。
「砕けえぬ闇を生み出すために生まれた存在。マテリアルといったところかな」
「砕けえぬ闇? いや、マテリアルって……」
ただの人間ではない。そして、彼女らは何かを生み出すためだけに作られた存在……?
正直混乱してくる。突然のことに何を言われているかは分からない。
(とはいえ、嘘ともいえないんだよなぁ)
この世界の事だ、そんなことがあってもおかしくないし、こうして実際に力を見せつけられれば納得もしてしまう。
そもそも、何かをなすために生み出されるというのはヴォルケンリッターという前例があるので、否定することもできない。
「えっと、じゃあ、砕けえぬ闇っていうのは……」
「うーん……僕じゃ説明しづらいかな。とりあえず、僕たちの主みたいな人、かな」
なんか余計にわからなくなってきた。
とりあえず、こいつらはヴォルケンリッターみたいな奴らで、あっちの主を守るのとは違い復活させるのが目的……というわけかな。
……あれ、こいつら凄く危険な存在じゃね?
「ねぇ、今度は僕の方から質問いい?」
「んー?」
今度はレヴィの言葉に耳を傾ける。
レヴィは身を乗り出し、俺への距離を近づけて聞いてきた。
「僕が戦っていたシュテるんはなんだったの?」
「あれは闇の欠片ってやつだ」
闇の欠片、それは闇の書の中に埋められた記憶の欠片。物体として生成することもできる。
戦闘が始まるときシュテルからこっそりと渡されたもの。
そして、アリシアがその欠片の能力を見て考えた作戦に使った。その作戦は、単純にそれぞれできることを役割分担させ、全員が何らかの役に立てるようにされたもの。
俺が闇の欠片で魔王を生成させ、アリシアが作戦をシュテルに伝え、シュテルがシビアなタイミングを決行させる。
勝利には全ての行動の成功と、シュテルが相手しているレヴィがうまく闇の欠片にだまされること、この二つの条件がそろわなくてはならなかった。結果として上手くいったわけだが。
「王様が俺に隙を見せた時、そして一瞬でもひきつけられたとき、それぞれに闇の欠片を再生、シュテルが王様に奇襲をした」
「へぇ、それでよくバレないって思ったね、闇の欠片は結構違うんだよ」
「深夜で月明りしかない中、戦闘中になかなか気づくものじゃないさ」
本当は、向こうはあまり知能が高くないことに期待してだが。
実際にレヴィは近くだというのにニセモノだという事に気付かなかったし。
しかし、なんだかそれを聞いたことでレヴィの中の何かは熱くなっていたらしい。
気付けば目の前のレヴィは魔力をたぎらせていた。
そういえばこいつ割と戦闘狂っぽかったよな。もしかしてまた戦いたいとでも思っているのだろうか。
「龍一」
目の前の奴をこの後どうしようか迷っていたところで、シュテルとアリシアが帰ってきた。
なんだか急いでいるようで、少しあわてているようでもある。
「どうかしたのか?」
「ここに魔力の持った人間が近づいてきます」
「魔力の持った人間?」
『多分、なのはやフェイトだと思う』
アリシアの補足に、内心同意をする。
まあ、同意も何も、この地球に魔力を持った人間なんて数えるくらいしかいないが。
……ちょっと待てよ、その魔力が持った人間がこっちに向かってるってことは――
「まさか、俺たちの居場所ばれてる?」
『まさかも何も、結界を張った時点で気付かれてたよ』
薄々そんな気はしていたが、事実は時として残酷なものだ。
「今すぐ撤収するぞ!」
「待ってください」
アリシアを手に逃げ出そうとするが、シュテルはアリシアを強く握って離さない。
そんなひきとめの言葉と合図に、俺は怪訝そうな顔でシュテルの方を向く。
「いったいどうしたんだよ」
「このまま何もなしに逃げてしまえば、微力な魔力から追われかねません」
そういえば、お役所仕事は何らかの結果がなければ引くことは出来ないっけ。
そう考えると、確かに何もなしにただ逃げるだけでは追われてしまう可能性があるだろう。
「じゃあ、どうすればいいんだよ」
「……」
シュテルは顔をうつむかせた。
その反応は何の対処法が無いようにも見える。
いや、もしかすると自分が犠牲になるとかも言い出しかねない雰囲気にもなっている。そんなことをすれば、先ほどの戦闘で魔力を使い果たしたシュテルが無事でいる保証などどこにもない。
「ねぇ、ちょっといい?」
そんな考え事をしているときに、能天気にも話しかけてくるレヴィ。
無視してやろうかとも思ったが、今までの態度からめんどくさいことになるかもしれないので、しょうがなしに対応をする。
「なんだ」
「僕が代わりに戦うのはどう?」
「却下だ。そんな代わりみたいなこと、許さないからな」
仲間というのなら、多分シュテルが悲しむだろうし。そもそもこいつ偽物にすら気づかないほどの知能だから、俺たちの存在をばらしかねない。
唯一切り抜けることが出来そうな勝つという行為にも、魔王相手に無理だろうとも思う。いや、それでもその先のことを考えると悪手すぎるか。
ん? 代わりに戦う……
「なあシュテル、闇の欠片はまだあるのか」
「ええ、ありますけど……」
「よし、それを使うぞ。それを代わりにするんだ」
いいアイデアが思いついたと喜ぶが、シュテルは首を横に振った。
「代わりがいても他に問題があります」
「問題?」
『まず、この結界も代わりが倒される瞬間に解除しなきゃ、本物がほかにいるという事がばれちゃう』
ちょうどシュテルとの間にいるアリシアが、コアを光らせて説明をしてくれる。
言われてみれば、この中に待機するのも結界維持の魔力を追われるかもしれない。
それこそ、ステルス性のある何かがないと……ああ、いや。
「問題ないじゃんか、アリシア」
『え?』
夜が明ける。
なのはとフェイト、そしてはやては三人で上りつつある夕日を眺めていた。
「これで終わったなぁ。……なんや、あまりすっきりせえへんな」
はやては先ほど戦っていた相手の事を考える。
なのはにそっくりな敵。フェイトのそっくりな敵。はやてにそっくりな敵。
誰も決していい人物ではなかった。だが、彼女らとて、使命に従っただけの事。
「また、出会うことがあるかもしれない」
なのはという少女は朝日に目を向ける。それが明日への続く道だと思い。
「その時こそ、友達になれるといいな」
なのははその言葉を最後に魔力の気配がないか最後に確認して帰路へとつく。
三人の少女は、そうして自分たちへの日常へと帰って行った。