リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第六十五話 守るこその力

 覚悟は決めてきたはずだった。

 この世界に未練など残していなかったはずだし、思い出なんかも残そうとすらしなかった。

 だから感情など表に出そうとしなかったし、何物に興味を示さなかったはずだった。

 

 はず……だった。

 

「……家族だろ。助けるのは当然だ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、自分がこうしてこの世界の人間を守ってしまったことに瞬時に理解してしまった。

 いままでなかったものを埋められた。それは感情もあれば、楽しかった思い出もある。たしかに、存在しえなかった家族だとすら感じていたかもしれない。

 自分の使命を忘れていたこの日までの日々。それはいつの間にか失うには耐え難いものとなっていた。

 

(これが、変化というやつですか)

 

 自分が変化するなんて思わなかった。

 破壊の感情に支配され続ける。それが自分の運命だとすら思っていた。

 

(……守らなきゃいけません、自分の命に代えましても)

 

 だからこそ、今まで味わったことのない感情のままに動く、それは今度こそ忘れてはならない物だから。

 

 

 

 

 戦いが始まって数分、力の差は歴然としていた。

 

「守ってばかりじゃ我は倒せんぞ!」

「ぐっ……」

 

 理由は明らかではあった。この場に一人、実力が大きく食い違ったものがいるからだ。

 龍一ただ一人、周りの力の奔流に流され続けていた。

 

(アリシア! なんとかならないの!?)

(だめ、だめだよ。このままじゃ何の抵抗もできない!)

 

 お互いそのことは分かっていた。だが、何もすることが出来ない。

 ジュエルシードを使うにも、状況はプレシアの事件の時とは違う。カモフラージュできるものがない以上、強大な魔力を使ってしまえば管理局にジュエルシードの存在がばれてしまうかもしれない。

 

 一方で、シュテルも苦戦を強いられていた。

 

「シュテるん、今ならまだ王様も許してくれると思うよ。早く謝ろうよ」

「家族は裏切れません」

「強情だなあ……!」

 

 レヴィの武器での一閃。何とかといった風に受け止めるシュテル。

 彼女は元々前面に出るタイプではなく、後ろで支援砲撃を出すタイプ。本来はレヴィとの相性は最悪であり避けなければならないはずだった。

 だが、龍一がレヴィのスピードについていけないため、シュテルはレヴィの攻撃を正面から受け止め続けざるを得ない状況に持ちこまれていた。

 

(このままでは押し負けてしまいますね……なんとか、せめて彼だけでも……)

 

 ただ一人の家族だけでもこの場から逃がそうと気持ちを新たにする。

 当面の問題はレヴィ。彼女をどう動かすかに勝負はかかっていた。

 

 

 

 

 目の前で何度目かわからない大爆発が起き、そのたびに吹き飛ばされないようしっかりと飛行状態を治していく。

 先ほどからアリシアの声は聞こえないし、対峙している王様とやらももはや俺の方など見てはいなかった。

 

「ふん、あちらの方が楽しそうではないか」

 

 その視線の方向はシュテルの方。

 彼女はよそ見をしながら俺の相手をしている。

 一見隙だらけ、だが、おそらくその隙をつくほどの実力がない事はすでに見切ってよそ見をしているのだろう。

 

(完全に舐められてる)

 

 誰が見てもそのことは明らかだ。

 実際事実であるし、どうしようもない状況であることには間違いない。

 それでも、なんとか逃げ出す機会をうかがっているところで、相手は急に攻撃の手を止めてきた。

 

「……貴様は、なぜシュテルを庇う?」

 

 今まさに逃走を打診している本人に聞く言葉ではない。

 などと思うが、そのことは自分自身未だにわかっていなかった。

 先ほどは家族などとのたまったが、本心から本当に自分がそう思っていたかと聞かれると即答は出来ない。

 

「ただ、自分の予感に従っただけ……」

「ここは貴様のような丸太棒にとって地獄だったはずだ」

「……」

「そんな貴様に、面白い選択肢を与えてやろう」

「選択……?」

 

 王様は無防備にも俺に近づく。

 無防備、とはいったものの、距離を詰められればつめられるほど、彼女の威圧は大きくなっていく。

 目の前に立たれた時には、もはや恐怖で脳内が支配されていた。

 

「シュテルに言え。お前は用無しだと」

「なっ……」

「お前など何でもない、裏切りもの、死ね。このどれかでも面白いかもしれんな」

 

 彼女の言いたいことはすぐにわかった。

 俺とシュテルの間に埋めることのできない溝を作る気だと。

 

「されば、せめて苦しみを与えず殺してやろう。やらぬというなら、ゆっくりといたぶるよう殺してやる。さあ、どうする?」

 

 恐怖に満ちていた思考が怒りに変わる。

 目の前でにやつく顔にも、その余裕ぶった態度にも、もはや勝ちを疑わない態度にも、すべてが俺の神経を逆なでしていった。

 

「……ふざけるなよ!」

 

 がむしゃらに手に持っている武器を振り切る。

 その行動が分かっていたのか、王様は攻撃のリーチが当たらないぎりぎりのところに下がる。

 

「甘いぞ、丸太棒」

 

 王様は余裕そうな笑みを浮かべる。

 だが――

 

「それはどっちの方かな」

 

 ――その油断はこちらにとってチャンスを生んでくれる。

 

「む? なっ」

 

 王様が振り向いた先には迫りつつある砲撃。

 だが、着弾まで少しの間がある。避けるには十分の時間。

 もちろん、王様は避けようと――

 

「ライトニングバインド!」

「チィ!?」

 

 ――する瞬間バインドを発動させる。

 設置型のバインド、設置していれば逃げる時間よりも早くに発動が出来る。それに俺の作ったバインドは少し改造を施した特別型、いくら王様でも一瞬の間に解除は出来やしない。

 抜けようともがく間にも、砲撃は傍まで迫り王様に直撃のダメージを与える。

 

『まだだよ!』

「分かってる!」

 

 アリシアの合図とともに、その技を発動させる。

 その間にも体勢を整える王様。その眼は怒りに満ち溢れている。

 王様に月明かりを隠すように影が出来る。上を見れば、上空からデバイスを振り上げ迫るシュテル。

 

「覚悟っ!」

「我に傷を与えおって!」

 

 シュテルの攻撃をシールドで受け止めるも、上空からの攻撃により勢いのまま王様は落下していく。

 その先は湖。落下のダメージは期待などできはしない。それが分かっているからか、王様はわざわざ勢いを止める真似はしない。

 ……だが、ダメージがないなら、与えるよう仕向ければいい。

 

「エレクトリックリフィケーション!」

 

 物に帯電させる力をもつ魔法。湖にかけるがその力はたかが知れている程度の物。

 本来の力であれば、それはピリッとくるくらい。おそらく、全力を込めたとしても、改造スタンガンくらいのダメージしかいかないだろう。

 だが、それはあくまで俺一人の場合。

 

『シュテル!』

「はい、龍一」

 

 アリシアの柄を俺の手の上から掴んでくる。

 それだけで、本能的にこの魔法が強化されていくことに勘付いた。

 

「くっ、レヴィ!」

 

 湖まで数メートルというところ、魔力の強化を感じ王様はとっさにあたりを見回した。

 余裕を持ちすぎていた彼女にとって、この事態は予想外以外の何物でもなかった。その余裕は焦りとなり、普段求めるはずのない助けに変わってしまった。

 その顔の向きはとある人物と戦うレヴィのもとでとまる。

 

「ばっ、あ、あやつは……!」

 

 シュテルと似ているようで、違う人物。後に管理局の白い悪魔などと比喩される少女がそこにはいた。

 しかしその人物を見たことが無い王様には気付かない。シュテルとしか彼女には判断されない。

 もう一人のシュテルがいるという驚きのまま、自分の動きを変えることなく、湖の中へ大きな音を立て落ちて行ったのだった。

 


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