リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

64 / 100
第六十四話 気付かぬ心

 逃げることのできない状況。

 周りの助けなど望めず、結界により魔力反応をそのまま頼って追うことも難しい。

 だが、管理局も街中で大々的に結界を張られればさすがに気付くだろう。それが助けなど到底言えないが……

 

「さて、覚悟はできたか?」

「……」

 

 はやてに似た少女が先ほどと同じように、こちらにデバイスを向け構えている。

 

「ねえねえ王様、あとはもう殺すだけなら、僕がやってもいい?」

「ふむ、いちいち我が手を汚すまでもないか。レヴィに任せるとしよう」

「……」

 

 道を阻んできたレヴィという少女が楽しそうに声をあげながら提案し、それを受け入れる王様と呼ばれる少女。

 シュテルの方に目を向けるも、シュテルも俯いていて表情が読めない。

 

「というわけで、カッコいいボクの必殺技でやられるといいよ!」

 

 レヴィが構えるも、俺は状況についていけずにただ困惑するだけ。

 ただ避けることのできない現実。逃げることが出来ないのなら、もはやすることは一つしか無い。

 

(どど、どうしようアリシア!)

(混乱してないで早く構えて! くるよ!)

 

 混乱した頭にアリシアの叱咤がかかるが、動揺してなかなか構えることが出来ない。

 その間に放たれる攻撃。

 なんかこういう事ばっかりな気さえしてくる、死亡一歩手前の状況。

 周りがスローモーションで再生される中、一つの影が間に入ってきた。

 

「――シュテル!?」

「っ! プロテクション!」

 

 驚きのままに声を上げる。

 シュテルはレヴィの攻撃を受けきって、俺の手を引っ張って距離を取った。

 相手も間に入ってきた人物に驚きの声を上げる。

 

「……どういうこと、シュテるん」

「……」

 

 シュテルは答えない。

 いや、答えられない。

 自分で行った行動に、自分で理解していない彼女には。

 

「……ふん、情に流されおったか」

 

 少し離れた場所にいた王様はレヴィの隣へと移動する。

 不機嫌そうな表情に、思わず俺は身震いをしてしまう。

 

「私……は」

「ねえ王様、どうするの?」

「決まっておる。シュテルが裏切るというのなら致し方ない。また一から作り直せばいいだけの事」

 

 王様がかまえる。今度の狙う先は俺ではなくシュテル。俺なんていなかったかのような狙いの変えっぷり。

 おそらく、今この状況において俺なんて眼中にないだろう。

 この結界を作ったのがシュテルだとすれば、シュテルがやられた時がチャンス。魔力を全て飛ぶスピードに費やせば逃げれる可能性があるだろう。

 

(でも、それでいいの?)

 

 アリシアの声が頭にひびく。

 思考を漏らしていたわけではない。だとすれば、これは彼女が俺の思考に気付いて声をかけて来てくれた言葉。

 

 そうこうしてる間にも、王様はシュテルへと向ける魔力に力を込めていく。

 

「シュテル。貴様が寝てる間にすべてを終わらせておこう」

「……」

 

 その言葉を言い終え、無慈悲にも王様はシュテルへと魔力の塊を放った。

 

 

 

 

 管理局。アースラ艦。

 魔導師たちが集い、突如発生した魔力の対策に船員たちは忙しく駆け回っていた。

 その魔力は闇の書によるものとよく似ており、すぐさま艦長であるリンディは夜天の騎士たちに連絡を取っていた。

 

「――ということは、これはあなたたちにとってもイレギュラーなものというわけね」

「すまないな、シャマルやリインフォースも今調べているが……」

 

 リンディは実際のところ分かっていた。この子たちによるものではないと。

 あくまで形式上、聞かざるを得なかっただけの事。

 もちろん、その勘は当たっており、彼女たちも途方に暮れていることが分かっただけだ。

 

「分かったわ。あなたたちはそのまま調べて頂戴」

 

 連絡を終え、リンディはこの町に住む少女たちの事を思い浮かべる。時間帯的には子供はすっかり熟睡している時間。それでも、彼女たちに任せるしかない。

 

 勘としては、まったく逆のことを感じてはいたが。

 

 

 

 

「ほほう……」

 

 王様は一人、口元を笑みに変える。

 ただの丸太棒かと思っていた。実際、覇気も感じられなかったし、保有魔力量も自分たちの敵ではなかった。

 そんなありんこみたいなやつがはむかって来ようとする状況……シュテルを狙った攻撃を丸太棒が防いだこの状況に、王様は一種の愉悦を感じていた。

 

「龍一……?」

『シュテル、家に帰ったら説教だよ。こんな危ないやつらと友達だったことに』

「なぜ……私は、あなたたちを……」

 

 アリシアは怒ったように声を出す。

 シュテルは心苦しそうに声をだし、それに対して龍一は本心から言った。

 

「……家族だろ。助けるのは当然だ」

 

 家族、とまで言ってしまったことに内心動揺をしつつ龍一はシュテルを後ろに隠す。

 その言葉に返答はない。だが、少しだけ間を置いた後、頷くような気配はした。

 その気配だけで、アリシアは覚悟を決める。この場を切り抜ける覚悟を。

 

 一方として、龍一はぎりぎりだった。

 防御に使った魔力の量、アリシアと自分の二重プロテクションでぎりぎり防げたこと。

 自分の強さに自信はあったわけでも無く、ただはじかれたように体が動いた結果だった。

 逃げればよかった。彼はいつものように本気でそう思っていた。

 

(表情で読めるぞ、丸太棒)

 

 おそらく、王様……ロード・ディアーチェが面白そうに笑っているのは、その思考が明け透けに読み取れるからだろう。

 

「ねえ王様、シュテるんは結局壊してもいいの?」

「勝手にせい、だが、時間はかけんぞ」

「だいじょーぶ! だって、ボクは強くてかっこいいからね!」

 

『シュテル、準備はいい?』

「はい」

(ああ……もう泣きたい)

 

 誰もが予期せぬ戦いが、多くの者が知らぬ場所で始まる。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。