リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第六十三話 三人の少女

 海鳴市上空。

 そこでは二人の少女が暇そうに駄弁っていた。

 

「ねえ王様~」

「なんじゃ」

「シュテるんはいつ来るの?」

「知らんわそんなこと。だが、あやつが使命をすっぽかすとは思えん。何かあったのだろうな」

 

 腕を組んでさもどうでもいいことかのように言い切る少女。

 そんな少女の顔をじっと見つめる、もう一人の少女。

 

「……」

「なんだ、レヴィ」

「王様、もしかしてシュテるんのこと心配してる?」

「なっ」

 

 この言葉に激しく動揺を受ける。

 声を大きくして言い返そうとしたとき、闇夜の中飛行する物体の存在をつかむ。

 王様と呼ばれた少女は言い返そうとした言葉を飲み込むことにした。

 

「……ふう、遅かったではないか、シュテル」

「すみませんでした」

 

 闇夜の空から出てきたのはシュテル・デストラクタ―。

 シュテルは三人で集まるのが、さも事前に待ち合わせをしたかのように頭を下げる。

 

「シュテるんはボクたちよりも早くここに来てたんだよね。何か面白いものとかあった?」

「何を言っておるレヴィ。仮にあったとて、ナハトヴァールが復活したときに全て無と化すぞ」

「むー、そうだけどさぁ」

 

 興味津々といった様子の少女に強く言い聞かせる少女。彼女らの力関係は見たままのようだ。

 その中で一人、やはり様子がおかしい遅れてきた少女。

 何か心残りでもあるかのような――

 

「何奴だ!」

 

 突如、小さな玉のようなものを地上の大木に落とす。

 しかしそれは何かに阻まれ、その何かは音もなく崩れ去った。

 そして、その中に隠れていたもの。それは、デバイスを持った少年だった。

 

 

 

 

 前略、俺は焦っていた。

 

(なな、なんでばれたんだよ!?)

(まあ、今から何かしようって人が周りに気を配ってないわけがないよね)

 

 結構な力を使って張り上げたシールドが一発の球によって破壊された。

 このことは力の差が思いっきり分からされるという事態になる。

 正直ここまで来たのは後悔しかない。

 いくら急にシュテルが出たとしても、一人でここまで来ることはなかったはず。言うなら、適当に魔王でも呼んでくれば良かったわけだ。

 

(といっても、夜も深い。簡単に呼び出せるとは思ってもないけど)

 

 実際選択肢は、追うか放っておくかの二通りしかなかった。

 俺はその中で追ってしまう選択肢を選んでしまっただけ。その先のことも考えず。

 強い気持ちに押されて来れば、シュテルが明らかに敵だとわかるものの一味だとわかっただけ。

 

「出てこんというなら、今度は当てるぞ」

(本当、来なければよかったなぁ)

 

 どうやらこれ以上隠れることはできないようだ。

 この魔力差から考えると、逃げたほうが無慈悲に殺されそうである。それを考えると、逃げるという選択肢はないものと考えたほうがいいだろう。

 俺はあきらめて三人の前に出ることにした。

 

「……!」

「ふん、始めからそうして出てくれば良かったものを……」

 

 ゴミを見るような目で見てくる少女の後ろで、シュテルは目の前の物を信じたくないかのような顔をしている。

 どうやら、シュテルにとって俺がここに来るのは誤算であったらしい、

 俺自身、こんなことになるのが分かっていたら追いかけなかった。……というのは言い訳か。薄々、嫌な予感はしていた。

 

「えっと……逃がしては」

「逃がすわけなかろう。何か呼ばれでもしたら迷惑であるからな」

 

 逃げられない状況多すぎでしょ、本当に。

 

(アリシア、この状況を突破する方法は……)

(ジュエルシード……ううん、こんな結界も張っていないところで使ったら管理局に筒抜け……)

 

 つまり、この目の前の少女にやられるか、管理局の人に補導されるかどっちか。

 どちらにせよ無事にすむわけはないだろう。

 

「ここにきてしまったことを恨むがよい」

 

 その相手も待ってくれるわけなどなく、無慈悲に少女は攻撃を――

 

「待ってくださいっ!」

 

 ――しかける直前、シュテルが少女の動きを止めた。

 怪訝そうに振り向く少女、その顔は何で止めたのかと不自然がる様子がありありと浮かんでいた。

 シュテルはハッとするももう遅い、自分自身口を出してしまったことに戸惑いがあるのか、シュテル自身もとまどってしまっていた。

 

(! お兄ちゃん、今のうち!)

(逃亡だな!)

 

 その間にも先の行動を即決する。

 アリシアが何か言っているが、そんなこと気に留めることすらなく即座に行動を決めた。

 しかし、その行動を機敏に感じ取ったのか、今まで後ろの方にいた少女に回り込まれる。

 

「おっと、どこ行くの? まだお話は終わってないよね」

 

 見てくれはフェイトにそっくり。ともすれば、相性はあまりよくない。

 まあ、相性など関係なく現在の魔力量じゃまず勝てないだろうが、

 

「ねえ、君はどうやってここを嗅ぎ付けたの?」

『別になんでもいいでしょ』

「へえ……インテリジェンスデバイスってやつだね」

 

 フェイト似の少女の問いにアリシアが代わりに答える。

 代わりに答えたことに興味を持ったのか、少女はこちらに一歩距離を詰めてきた。もちろん、条件反射で下がった。

 

「おっと、そういや名前を言っていなかったね。ボクはレヴィ。レヴィ・ザ・スラッシャー。気軽にレヴィって呼んでよ」

 

 何を勘違いしたのか、突如名前を語り始める。

 いきなり殺しにかかってきた一味の名前など気軽に呼べるかと言いたいところだが、とりあえず俺には無理である。

 

(お兄ちゃん、もしかして彼女たちがフェイトたちに容姿が似ているのは……)

 

 レヴィが名前を言い終わったとき、アリシアから念話が入ってきた。

 内容は俺自身ちょくちょく気になっていたこと。

 逃げ道を失ったことにより心の余裕は失ったが、話す余裕が出来た俺はその話の続きをせかす。

 

(なんだ? 何か関係があるのか?)

(……確定していない情報だけど)

 

 そこまでアリシアが言うと同時、周辺に違和感が走った。

 大きな魔力反応。だが、これは放出するものとは違い封じ込めるもの。

 

「ふん、結界など張らずともよいだろう」

「いいえ、強い魔術師がいる以上、この場を一直線に来られてしまうのはまずいかと」

 

 二人の会話から張られたのは結界だとわかる。

 向けられる視線。

 

「逃げ場所を探しても無駄だよ」

「結界なら壊せば……」

「君の魔力で?」

 

 バカにしたようなレヴィの声。だが、事実であることは変わらない。

 

『……ねえ、一つ聞いてもいいかな』

「何?」

『あなた達の姿恰好、それはどこからとったものなの』

「――生まれつきだよ。それ以上の事はボクには分からない。シュテるんや王様に聞いて」

 

 レヴィの目の色が変わる。

 それは本当に知らないようにも見えるし、遠まわしに教えないと言っているようにも見える。

 ただわかることは、この場を切り抜けないことにはどうにもならないという事だけだった。

 


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