リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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申し訳ないのですが、一話抜けていたのでずらしました
次の更新はこのひとつ前になります。本当にすみません。


第六十二話 スイーツの残しもの

『お兄ちゃんって、家でスイーツは作らないの?』

「突然どうした」

 

 アリシア、俺、シュテルの順番でソファーに座ってテレビを眺めていると、スイーツの特番あたりで突如そんな切り出し方をしてきた。

 

『いや、お兄ちゃんって料理上手なんだから、スイーツを作ることもできるんじゃないかなって』

「アリシア、それは違うぞ」

『違う?』

 

 テレビの特番では簡単おいしく作れるスイーツなんて書いてあったが、実際作るとなればそうもいかない。

 

「テレビには基本的に機材とかそろっているからすぐ作れるんだ。一般家庭にはオーブンなんてないところも多いし、そもそも材料自体高かったりするのが多い。実際に作るとなれば大変なことの方が多いんだよ」

『へぇ』

「ですけど、作ろうとしたこともなかったんですか?」

 

 翠屋のシュークリームを食べながらテレビを見ていたシュテルが、めずらしくこういう話題に食いついてきた。

 翠屋のシュークリームが気に入ったのだろうか。家でそんなの作るの無理なんだけどな。

 

「ないと言えば嘘になる。だけど、俺にはスイーツを作る才能は全くなくてな。……まあ、一応プリンくらい作れるまでにはなったけど」

 

 いつしかシュテルに出してから作ってないけど。

 最近何かと忙しいからな。主に魔法練習で。

 そこで終わりかと思った話題だが、意外にもシュテルが更に食いついてきた。

 

「では、作りましょう」

「……スイーツを?」

「はい。スイーツを、です」

 

 なんだかやる気に満ちている様子。

 なんだろう、まるで小さい女の子のようだ。容姿は小さい女の子であってるけど。

 

 

 

 

 からして始まるスイーツづくり。

 とりあえず、俺でも作れるプリンを作ることとなった。

 エプロン姿となり、きっちりと料理を作る準備をしてから、シュテルと共にキッチンに並ぶ。

 

「さて、久しぶりに作ることになったので、始めからいきたいと思う」

「始めですか」

「そう。それで材料はこれだ」

 

 冷蔵庫から取り出すのは、かき混ぜるタイプの市販生クリーム。

 

「もちろん卵とか使うが、うちでは生クリームも使う」

「ではこれをどうするのですか」

「まずかき混ぜる容器より一回り大きい容器を用意する。そのなかに氷水を入れるんだ」

 

 シュテルは言われた通りのものを用意する。

 最後に間違えがないか確認してから話を続ける。

 

「で、生クリームの容器を氷水の容器に重ねてから、生クリームをかき混ぜる。このときのコツは空気を含ませるように混ぜるんだ」

「そうですか」

「……あの、シュテルのためにやってるんだから、シュテルがかき混ぜてくれるとうれしいかなーって」

「……わかりました」

 

 なんか微妙に嫌そうな顔された。

 なんだろう、特番でかき混ぜている姿が面倒そうに見えたのだろうか。

 

「じゃあ、こっちは卵と牛乳を出しておこう」

「まだ早いんじゃないですか?」

 

 泡だて器を手にして、生クリームをかき混ぜるのに悪戦苦闘している様子のシュテル。

 確かに早くはあるが……

 

「卵は少し常温にしておいた方が後のためになるからな」

「はあ……」

 

 さて、実はカラメルソースはストックがあるのだよ。

 しかし実演ということなので作った方がいいのか迷っていたら、アリシアから念話が入る。

 

『作った方がいいんじゃない?』

 

 ……ただのアドバイスだったことに内心落胆はするが、一応その通りにすることにした。

 なんか文明の凄さを体感させてくれるようなことするかと思ってたんだが。念話で作っている姿を流すとか、瞬間的に相手を理解させるとか。

 

「じゃあ、その間プリン本体の説明をしよう」

 

 シュテルがこっちに集中するのを確認して手順を説明する。

 簡単に言えば、卵と温めた牛乳を混ぜて、こす。あとはオーブンで熱して冷蔵庫に入れて完成というものだ。

 ちなみに諸所の注意はあるので、実際に作るときはきちんと調べるとよい。

 ……あれ、俺誰に説明しているんだろう。

 

 

 

 

 それで完成したのがこれだ。

 

「できた……」

「うむ、頑張ったな」

 

 ほぼ同身長のシュテルの頭を撫で上げた。

 少し恥ずかしそうにしている姿にちょっとした感激を抱きつつ、プリンにカラメルソースを加えたものをシュテルに渡す。

 

「さあ、食べてみろ」

「それでしたら、一緒に食べませんか?」

 

 まさかの天使発言。

 そういえば、前にも夕食を俺が来るまで食べずに待っていたことあったっけ。

 お言葉に甘え、シュテルが作ったプリンを同じように準備する。

 

「ではいただきます」

「いただきます」

『いいなー、うらやましいなー』

 

 なんか念話でうらやましそうにするアリシアを放置して、一口とプリンを食べ進めた。

 なかなか美味しい。しかし、やはり本音を言うとまだ俺の作ったものにはかなわないといったところか。

 いや、初めて作ったにしては確実に上等な部類に入るんだけどね。おそらく俺も三か月くらいあれば味で抜かされるだろうし。

 

「美味しいぞ」

「……ですが、初めて食べたプリンには劣ります」

 

 どうやら、シュテル自身気づいていたらしい。

 初めてでこれは凄いんだけどな。

 

「まあ、こういうのは経験だ。頑張れ」

「はい」

 

 おそらく今日一番元気のあった返しだと思われる。

 

 

 

 

 夜。私は空を眺めていた。

 安易に外に出てはいけないといわれていたが、庭なら大丈夫だろうと狙いをつけて今は庭に出ている。

 この季節、この時間になると外では結構寒い。だけど、そんなのも気にならないくらい空を見上げて考えに没頭していた。

 考えていたのはこの家の持ち主のこと。

 

「私を拾ってくれた……恩人、というのでしょうか」

 

 知識はあるが、それと意味があまり結びつかない。

 たまに龍一から抜けているといわれるのはそういうところからきているのだろう。

 そんな私も、だんだんと物を覚えてきて……記憶も生まれてきた。

 

「生まれてきた……間違いではないですね」

 

 日に日に生まれていく自分というものに自嘲的な笑みを浮かべる。

 少なくとも、自分は龍一と同じ人ではない。あの人とは違う、もっとほかの生物。

 それを知ればあの人はどう思うだろうか。

 拒絶? どうだろう、ただ、受け入れてくれる可能性は低い。

 

「今日のことだけでもいいです。覚えていてくれると……いえ、さすがにも求めすぎでしょうか」

 

 こうして、楽しい記憶ができただけでも儲けものだろう。

 本来は破壊と殺戮だけになるはずだった。その中に光るものひとつくらいあったとて、悲しむこともないだろう。

 

「ですが……悪いことしましたかね」

 

 何も言わずここから去ること。

 あの人は今寝ているし、起きた時には良くも悪くもすべてが終わっているだろう、

 この日を境に、日常は終わる。

 

 始まるのは悲しみの記憶。シュテルはそういう未来を予測した。

 

 

 

 

 ――だめシ…テルを止…てあげ…――

 

 何か聞こえた気がした。

 

 ――こ……ま…とあ…たの元……離れて…しまい…――

 

 頭の中に流れ込んでくる声。

 だけど、これはアリシアの物じゃない。

 不意に目が覚め、なんともなしに窓を見上げた。

 

 その先にはどこかへ飛び去るシュテル。

 何か起こるだろうと俺は嫌な予感が強く告げるのにもかかわらず、まるで何か大事なものを追いかけるかのように、自分でもよくわからないままそのあとを追った。

 


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