リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第六十一話 稼働する歯車

「龍一、いつもどこに行っているのですか?」

 

 この子を拾ってから実に二週間くらい。監視も必要ないと判断して山に出かけるようになったある日、シュテルが急にそんなことを聞いてきた。

 どこかと聞かれれば、それは山と答える。しかし、いまだにこの子の正体がはっきりつかめていないので、自分のことをぺらぺらというのもはばかれる。

 

「……すいません。余計なことを聞いてしまいました」

 

 なんて考えていると、シュテルが謝ってきた。

 おそらく、困ったように悩むこちらを見て、聞いてはいけないことなのだろうと考えたのだろう。空気読めるとか、魔王と大違いだ。

 

「いやいや、そんな言いたくないことではなくてね」

「ですけど、龍一は困っていました」

 

 人の感情も読めるなんて、この子はほんといい子に育ったもんだ。なんて、感慨深げに一人納得する。

 もうこんないい子にいつまでも黙っておくのも悪いな。監視とかマジいらんかったわ。

 

「行ってる場所は、山だ」

「山……ですか? ……なぜ山に?」

 

 いまいちピンと来ないのか、首をかしげるシュテル。

 山に行く理由がいまいちわからないのだろうか。まあ、その気持ちはわかる。魔法の練習するにしても、山まで行くのは普通はあり得ない。

 魔法について詳しく話すのも、時空管理局に見つかりたくないとか言ってしまえば、次々と要らないことを言ってしまいそうになる。ジュエルシードはいい加減どうにかしたいし。

 とりあえず、詳しい情勢なんて言わずに必要なことだけ言うことにした。

 

「魔法……のためかな」

「魔法」

 

 ――なぜか、シュテルの見ているものが変わった気がした。

 とはいえ、こういうことはよくある。記憶を思い出す合図なのかもしれないが、この時のシュテルの目は、深い闇に包まれるように見えて――

 

「シュテル」

 

 ――いや、言い訳をしないのであれば、ただシュテルが変わってしまうように見えて、自分のわがままで止めるだけだ。

 

「あ……すみません。それで、なぜ山に?」

 

 シュテルの視点は元に戻る。少なくとも、さっきの一瞬の時のようにはなっていない。この後は何も知らぬように話を続けるだけ。

 とりあえずこの問いは、適当に周りに被害が出ないためとでも説明しておくことにする。

 

「あ、手違いで大量殺戮をしないためですか」

「手違いで大量殺戮とか怖っ!」

 

 あとは、たまに物騒なことを言う癖はやめてほしい。

 

 

 

 

 なんだかんだで二人で山に来た。

 なんだかんだというか、まったく外に出せてやれてないので、たまには外で遊ばせるのもいいかと思っただけだけど。

 

「シュテル、あまり離れないでよ」

「はい」

 

 結界から出ないように言い含めておく。ちなみに、デバイスを使うところを見て何も思わないということは、こいつは魔法が当たり前のように思っているのだろうか。

 少なくとも、地球人ではない……か。

 

「……まあいいか。魔法の試し打ちをしてるから射線だけは入らないように」

『いや、お兄ちゃんは攻撃魔法撃たないでしょ』

 

 アリシアよ。そんな身もふたもないことは言わんでくれよ。

 シュテルは頷き、その辺の大きな石に腰かけた。

 それを確認してから、俺はまず適当なところに前に練習できなかった技を使ってみる。

 目標は……まあ、その辺の岩かな。

 

「アリシア、エレクトリックリフィケーション」

『エレクト……ねえ、前から思ってたけど長くない?』

「スターライトブレイカー……うーん、1.5倍くらいだけど、まあ語感的には問題ないだろう」

 

 アリシアからの指摘に、割と本気で考える。いや、語呂ってやっぱり大事なもんだからさ。

 

「……魔法の練習をするのではないですか?」

 

 シュテルからの厳しめの言葉。

 自分でなんだか流れが変な方向に向かっていることに気付いていたので、それを受けてすぐさま考えを切り替える。

 

「アリシア、名前のことは後にしよう。じゃあ頼む」

『エレクトリックリフィケーションだね』

 

 アリシアが術式を発動すると同時、目標の岩に対して何かが走る感じがする。おそらく、成功をしたのだろう。

 前にも成功自体は見ていたので、実際の実験はここからである。

 

「じゃあ、電力はいかほどのものか……」

『ちなみに、どれくらいの強さで作ったの?』

「魔力の込め方にもよるけど、だいたい相手をピリッとさせるくらい」

『弱っ!』

 

 素の魔力はたいして高くない俺が手軽に使える魔法なんてこのくらいだと思うけど。

 とにかく、この魔法をどうやって有効活用しようか。アリシアに言われずとも、この魔法はカスだということもわかりきっているのだが。

 しばらく唸っていると、いつの間にかシュテルが電力を帯びている岩に近づき触れていた。

 

「あっ、シュテル!」

 

 急に行った暴挙についダッシュまでして手を取る。

 危険はないと思うが、あまり試用もしていない技なので、何があるか分かったものでもない。

 シュテルの手を見る限りとくに何もないので、やはり実害はないのだろう。危険がない電気とか、結構需要あるんじゃないだろうか。

 とはいえ、突然魔法に触れるという行為は危険だ。魔王の攻撃に触れると一瞬でぼろくそにされるとかそんな記憶あるし。

 

「シュテル、そこに座ってろって言ってたよな」

「はい。……すみません」

 

 こちらが怒っているのをくみ取ってくれたらしく、早めに謝ってくれる。

 しかし、シュテルにもそれなりの理由があるからか、頭を下げた後はきっちり俺の目を見つめ返してきた。

 

「ですけど、こういうのは直接調べてみるのがよいかと思います」

 

 いや、俺ビビり症だからそんなことできるわけない。……なんて返してやりたいけど、俺にもプライドが一応あるため言葉を飲み込む。代わりにため息を吐いた。

 

「術式が完璧じゃないかもしれんぞ。何が起こるかわからない」

「龍一が作ったものなので大丈夫ですよ」

 

 しっかりと目を見て言ってくれたその言葉は、信頼からくるものなのだと理解させられる。

 プレッシャーにはなるが、それはうれしい言葉だった。

 

「それに……」

「それに?」

「このくらいの力で、肉片や肉塊になったりしませんよ」

 

 物々しい言葉に背筋が凍る。

 たまに物騒なこと言うのやめてほしいよ、マジで。

 

「って、やっぱり魔法のこと知ってるんだな」

「魔法ですか?」

 

 軽く聞いたつもりの言葉。

 しかし予想とは裏腹にシュテルは、魔法という事柄について深く考え込みだした。

 

「魔法……? あれ、なんででしょう……なにか、忘れているような……」

「っ、シュテル!」

「え、あ、はい」

「それよりシュテルは魔法を使えるのか?」

「えっと、どうでしょう、試してみます」

 

 もしかすると、シュテルはもう思い出してきているのかもしれない。自分の記憶を。

 そのことがこの後にどう関係するのか、今このとき、俺はまだ考えないようにしていた。

 


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