リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第六十話 真冬にドッジ

 二月に入りまだ寒い中、何をどうしたらそうなるのかこのくそ寒い中、体育でドッヂボールをすることになった。

 

「寒っ! すごく寒い!」

 

 小学生なので半袖短パン縛り。なぜジャージがない。

 肩を震わせながら隣を見れば、ぺちゃくちゃ喋り合う魔王たちご一行。どうして平然としてられるのか疑問に思う。

 

「龍一君、寒そうにしてるね」

 

 そんな時、寒そうにしていた俺を見たすずかは、魔王の輪を抜けてこちらによってきた。

 

「実際寒いんだけど。よく平気でいられるね」

「寒いけど、龍一君ほど寒くはないかな」

 

 一瞬体感温度がおかしいんじゃないかと思った。おそらく、単純に俺が寒さに慣れてないだけだと思うが。

 

「すずかちゃん、あっためて」

「え? 温めるって……」

 

 すずかはしばらく思案したのち「えいっ」と声を上げて手を握ってきた。

 おお、これならあった……かいのか? なんか、両方とも冷たくて大して変りないように思えるが……

 

「ど、どう……?」

 

 少し背をかがめているので、上目遣いになる。ここでかわいいと少しでも思った俺はロリコンなのかもしれない。

 とりあえず、ここはすずかのかわいさにめんじて頷いておくことにした。

 

「えへへ、よかった」

 

 ……はっ、これが萌え殺されるというやつなのか。

 

「あんた、なにしてんの」

「何してるって……はっ、この気配は」

 

 すずかの陰に隠れる怒気。その正体はアリサ。いつもの三倍くらいこちらを睨みつける力が強いように見える。

 

「すずかと手をつないで? へー、楽しそうね」

 

 全然顔が楽しそうじゃありません。頭冷やされそうです。

 アリサはゆったりと俺の前に立ち、一度だけニコリと嗤った。

 え? 漢字? あってますから安心してください。

 

「この変態!」

 

 アリサの 力を込めた ビンタ ▼

 俺は 大きなダメージ を 負った ▼

 

「なぜに……ガクッ」

「さあ、すずか行きましょ」

「ご、ごめんね龍一君」

 

 すずかが申し訳なさそうにしながらアリサに手を引かれ連れて行かれる。

 それにしても、アリサも強くなったもんだ。

 

 

 

 

「男子対女子で行いたいと思います」

 

 どういうチーム分けかと思いきや、先生は男女で分けるらしい。

 さすがにそれはないだろうとは思ったが、周りの人たちは納得しているようだった。どういうことは不思議がりながらも、ほかの男子のやる気の度合いからして、そう簡単に勝てるわけではないようだ。

 ……しかしなぁ、男女別か……

 

 そう思っていた時が、俺にもありました。

 

 

 

 

「いきます……!」

「ぐわぁ!」

 

 一声かけてからのボール。

 普通ならキャッチすることなど容易なことになるはずのボールが、予想を外れるほどのすさまじいスピードでクラスの内村君(趣味・運動場の雑草を引っこ抜くこと)の腹に直撃した。

 気が付けば、向こうの陣地十人に対しこちらの陣地にはもう五人しかいなかった。

 

「な、なんだこれ」

「そういえば、倉本は休んでたから知らないんだっけ。あの三人は……化け物だ」

 

 外野のアリサ、さらに内野のフェイトとなぜかすずかを指さして教えてくれるクラスメイト。

 すずかも化け物というところに疑問を感じつつ、そのクラスメイトに詳しく聞こうとしたとき、すぐそばに危険が迫ってるような気がし、すぐさま屈みこんだ。そしてすぐに、俺の頭の上を越えてボールが飛び去る。

 

「ぎゃあ!」

 

 そのボールはさっきまで話していた宮崎君(特技・一世代前の芸人のモノマネ)の横っ腹にぶち当たった。

 

「だれが化け物よ!」

 

 投げられた方を見れば、アリサが肩を怒らしていた。先ほどフェイトが投げたボールは女子の外野まで転がっていたらしい。

 しかし、これで残り四人……これは終わったかもわからんね。

 

「「「まだ終わってないぞ倉本君!」」」

「君たちはトライアングラー山田村!」

 

 山田、田村、村山の三人から放たれるトライアングル攻撃はすさまじいという噂の三人じゃないか!

 

「いくぞ!」

 

 山田君から放たれる速球。その矛先は、魔王をきれいにとらえていた。

 これで少しは勝てる可能性が……

 

「って、三人とも内野だからトライアングル攻撃できないじゃないか」

「「「あ」」」

 

 まるで今まで気が付かなかったかのようなトライアングラーの表情。

 なぜ最初に外野に送らなかったし。

 そして相手の陣地を見れば、すずかが魔王へ向かったボールを華麗にとらえていた。

 

「ありがとう、すずかちゃん」

「助け合うことが大事でしょ」

 

「おい、田村が行けばよかっただろ」

「それを言うなら村山でしょ」

「山田がいけばよかったじゃない」

 

 向こうは素晴らしい友情を演出しているというのに、こちらの三人はまぬけにもお互いのせいにし始めた。

 もう無理だろこれ、授業じゃなきゃ降参しているところだ。

 

「よし、じゃあ十倍にして返してあげる」

 

 あ、すずかがお茶目にも冗談を言って投げることを教えてくれてる。やさしいなあ。←現実逃避

 そして放たれる剛速球。うん、間違いなく剛速球と呼べるレベルのもの。

 どうやら、十倍は冗談でもなんでもなかったようだ。

 

「ぐはぁ!」

「うわっ!」

「いやん!」

 

 トライアングラーの三人にバウンドでうまくあてていく。

 一発で三人を外野行きにさせられて、すずかは満足げな表情をしている。

 

「で、あんたはぼーっとしてていいの?」

 

 転がったボールは外野へ。アリサの手にボールが渡ったのだった。

 

「……手加減しては」

「いやよ」

 

 そう返した後にアリサは大きく振りかぶり、全力でボールを放つ準備をする。

 危機を感じ右手の方角に踏み出す。

 すぐさま左手の方にボールが飛び去った。

 

「あぶねえ!」

「くっ、すずか!」

「うん!」

 

 間髪なく後ろから来た戻ってくるボール。

 足元に向かっているのを確認して、少々無茶な体勢ながら少しジャンプすることにより避けきる。

 

「次こそ!」

 

 アリサも待つ時間を与えずすぐに投げてくる。さすがに無理な体勢が続いたことにより、これ以上避ける状況に持ち込むことはできない。このままではおそらく当たってしまう。いや、確実にあたる。

 最終手段。避けきることを諦め、そのボールに対しては少しだけしゃがむことで対応する。

 そして走る痛み。

 

「が、顔面セーフ」

 

 誰かが発した声、それを聞いてからアリサがこちらに駆け寄る。

 

「だ、大丈夫なの?」

「平気だって、顔面セーフとかだれか言ったけど、当たったのは頭だから」

「それでも……」

「アリサが気に病むことじゃないって。ほら、次始めるぞ」

 

 アリサが心配そうに持ち場に戻る。

 その後ろ姿を見届けて、ふと思う。

 

 というか、なんで俺はまじめにやっているんだ。

 

 そのことに気付いた俺は、次に放たれたボールにおとなしく当たり、ドッジボールは終了ということになった。

 

 

 

 

「龍一君、当たった場所は……」

「大丈夫だって」

 

 ドッジボールが終わってすぐに駆けてきたのはすずか。顔つきを見たところ、心底こちらを気にかけているようだ。ここがすずかが天使の理由だと一人納得する。

 遅れて、魔王とフェイトも来る。外野からはとぼとぼとした感じでアリサもよってきた。

 

「龍一君、大丈夫なの?」

「大丈夫だって。それよりアリサ、そうやってしょんぼりするのやめてくれない?」

「だって……」

「なんかこっちがいじめたみたいな空気になるから」

 

 さっきから陰でいろいろ言われてるんだよ。察してくれよ。

 普段女王様な人物の覇気がないと、こっちがなんか変なことしたみたいな感じになるだろ。

 

「正々堂々と勝負した。それでいいだろ」

 

 とりあえず、この話はとっとと終わらせていつものアリサに戻ってほしい。でないと、逃げたとき噂がいよいよ大変な方向に向かうだろうから。

 

「……龍一がそれでいいなら」

 

 よし、これで思う存分逃げることができる。

 小さくガッツポーズする俺。

 

 気が付けば授業は終わり、寒かった体も暖かかった。

 


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