リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
図書館であった女の子のオススメ本を借りて二日。
うん、普通に読み切ってしまった。
家の暇な時間が異様に多かったのと、学校でもいつも通り誰からも話しかけられなかったことが理由に挙げられる。
ちなみに、この本を読んでいると周りから奇妙な視線にさらされた。なんでだろうか……
それはそうとして、俺はこの本を返すため図書館へ来ていた。
ちょうどよく、あの女の子がいるのが見えた。
なるべく気軽に……深呼吸を二・三回繰り返してから、俺は女の子に話しかけた。
「面白かったよ『十七人の殺人者』」
「もう読み終わったんかいな」
「学校で読んだらすぐだった」
「これを学校で読むとか、度胸あるやつやな~」
少し呆れる目で言ってくる女の子。
なんだか、友達っていう感じがしてとてもうれしい。
前に友達がいたのは、一年前だからな……そういえば、あの子元気にしているかな。
「そういえば、なんていうんや?」
「なんていう?」
「名前や名前。そういえば、聞いてへんかったなって」
「倉本龍一。君は?」
「私は八神はやてや。名前で呼んでかまわんで」
おお、まさしく友達になったっていう気がする。
名前を呼びあう関係……そういえば、なんで前の時は名前を教えあってなかったのだろう。
まあ、前の事は前の事。今は今ということで。
ところで、八神はやてという名前に何か引っかかったのだが……まあ、気のせいだろう。
「さて、今度はどんな本を教えてくれるの?」
「そうやなぁ……うちきいへん?」
「うち? ……ええっ!」
女の子に初めて御呼ばれされた、小学一年の春。あともう少しで夏になるけど。
「図書館の本はあまり読んでへんから、うちにある方ならいろいろ薦められると思うんや」
「そういうこと」
小学生ならそんなものだろう。
そしてやってきたはやて家。
「そこの右の部屋で待っててな」
「分かった」
なんというか、この家はバリアフリーだ。
車いす用に段差は除去されているし、全体的に低い位置に物がある。
明らかにはやてのために作られている家だ。
……たぶん、予想通りこの家には誰もいないのだろう。
八神はやて、この子以外は。
少し待っていると、はやては何冊か本を持って待たされた部屋に入ってきた。
「これとか、どうや」
いくらか説明を受けて、よさそうな本をいくつか見出していく。
流石に文学少女(推定)のはやてだ。オススメする本はどれも面白そうなのばかり。
しかし、真面目にどれがいいかと考える姿ははやてにとって異常に見えたのか、不思議そうに俺をじっと見ている。
「ど、どうかしたのかな?」
「ん?いやな、どれも龍一みたいなのが読む本じゃないと思うたんだけど、なんだかまともに選んでるなあと思て」
いきなり名前呼びのようだ。
こちらも呼んでるし、こっちの方がいいけど。
選ばれた本に関しては、確かに小学生にしては難しいものばかりだが、社会人としてはそこまで難しいものではない。
それに、こっちのセリフでもある。
「それをいうなら、はやてこそこんな難しいものを読んでるよね」
「私は慣れてるから」
「なら俺だって同じだよ」
「そうなん」
いくつか眺め、はやてのオススメは確かに面白いものだとわかる。
「そういえば、これって借りていいの?」
「かまわんよ。私以外誰も見いへんし」
「そっか。ありがとう」
ある程度見ていたら、すでに時間は八時を回っていた。
なんだか、時が過ぎるのが早く感じられる。
こんな感じになったのは、一年前以来だ。
「そうや。うちでご飯食べて帰るか?」
「いいの?」
「そっちがよかったら、やけどな」
「この時間から作るのはちょっとめんどくさいと思ってたから、お世話になるよ」
「作る?」
はやては俺の言葉に不思議そうに首をかしげる。
そういえば、こちらの家の事情は話してないか。
家族は外国で家に自分一人だということを告げると、はやては少し驚いた顔をした後、考えるそぶりを見せた。
俺が言ったこと、何かおかしかっただろうか?
「さみしくないん?」
はやてはまっすぐ俺を見つめてきた。
友達になったとはいえ、まっすぐ視線を向けられると気恥ずかしさが来る。
そういう理由で視線を外すと、はやては納得したような声を出した。
そして、そのあとに言われたセリフに俺は驚愕した。
「私んちに泊まらん?」
私は八神はやて。
図書館であった倉本龍一ちゅう男の子をうちに招待したんや。
その理由は、一人でいるうちに帰るのがもの寂しいということもあったし、この男の子と本の事でもっと話したいということもあった。
うちにつくと最初に不思議そうにしていた顔も、少し経つと納得した顔になり私に何も聞かず、ただ私が持ってきた本だけに集中してくれおった。
そんな優しい男の子は、うちで泊まることになる。
理由はその男の子も私と同じ境遇だと思ったから。
真意を問うた視線は外され、図星だということを告げられ、私はそんな一人の男の子に一人じゃなくなる提案をした。
男の子は最初あわてていて、断ろうとしていることを見受けられた……が、突然「初めてのお泊り?」などとつぶやくと、その男の子は笑顔で分かったと言ってくれた。
なんだかわからないけど、今日は一人で寝るわけじゃないとわかって、私も笑顔を浮かべて喜んだのだった。