リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
あらすじ
魔王たちの魔の手から逃げたと思ったら、魔王の父親につかまったでござるの巻。
「どうかしたか?」
「はっ。いえいえ、なんでもありません!」
目の前の恭也さんからの声に、少しの間意識がどこぞへ飛んで行っていた。
とりあえず現実逃避はここまでにして、恐ろしくも恭也さんの言葉に耳を傾けることにする。
「何かご用でしょうか?」
「いやな……なのはは、学校では元気にやっているか」
なのは……?
……ああ、魔王のことか。魔王が元気にやっているかと聞かれれば、まあやっているんじゃないかと思う。
「元気にやっていますよ」
本当はそんなことは知らないが、なるべく笑顔で答える。
これは投げやりとかじゃなくて、あまり学校で魔王と話すことがないから詳しくは言えないだけ。
いろいろあったが、なんだかんだ言って関わりをあまり持たないという俺の考え方はいまだに変わってない。
魔王に対してだけじゃなく、原作キャラ自体にかかわろうとはあまり思ってないから、友達だと思っているすずかにもあまり自分から話そうとはしない。とはいえ、話しかけられても逃げなくなったので、そこは進歩といえるのではないだろうか。……逃げ道がふさがれているため逃げれてないだけだが。
「そうか。ならそれでいい」
ぶっきらぼうにそう口にする恭也さん。しかし、口元が微妙に緩んでいるのを見る限り、一応本気で心配していたようだ。
……で、もう帰っていいよね?
「君には感謝しないといけないな」
帰ろうかと考えた矢先に話しかけてくる。
実は恭也さんも俺を帰さないようにしているんじゃないだろうか。
「感謝とは……?」
「たしか、君には小学校に入る前からなのはと友達になってくれてたな」
「……」
おそらく公園で友達になった時のことを言っているのだろう。
あの時はあの子が魔王だって気が付かなかったな。懐かしい思い出だ。
「……あの時、家はなのはの居場所を作ってやることができなかった。しょうがないことだと思いつつ、相手をしてあげることができなかった時に、君はなのはと友達になってくれたな」
そんなタイミングだとか知らなかったし。ただ単に友達になってくれそうな同じぼっちを見かけたから話しかけただけだし
知らないところで俺の株が上がっていることにプレッシャーを受けつつ、恭也さんの真意を探る。世間話にしては重い話の以上、この後何らかのアプローチがあるはずだ。
「だからな……」
ここで身構える俺。
さあ、矢でも鉄砲でも撃ってこい!
「なのはとこれからも友達になってやってほしい」
「だがことわr……じゃないですはい」
ついつい条件反射で答えたものに寒気を感じ、急いで言葉を切り替える。
「そうか、ならこれからも頼む」
ようやくこの場に流れる緊張感が薄れ、俺は安堵の域を漏らす。
今思い返してみると、先ほど返そうとしたセリフは明らかに死亡フラグだったと思う。いや、本当言わなくてよかった。
さて、このあたりで再び帰ろうかと画策していると、今度は出て行ったはずの士郎さんが扉を開けて帰ってきた。
視線を向けてみると、士郎さんの後ろには見たことのある犬が……
「お邪魔する」
って、ザフィーラだこの犬。
「どうしてここに?」
隣に座って出されたお茶をすするザフィーラ(人型)に、この場に現れたことによる疑問を解消させようとする。
ザフィーラはピクリ耳を動かし、啜っていたお茶を置いた。
「家に主の友人達が来たのだ」
そういえば、俺はその友人たちとやらから逃げてきたんだっけ。
しかし、今まで見たところ空気を読む力が素晴らしいザフィーラが、女だらけという理由で逃げてきたとは思えない。俺とは違うし。
「へえ、それで?」
「そこで高町なのはが家に作りすぎたシュークリームの話に持っていき……」
「なるほど、代わりに取りに来たというわけか」
恭也さんがザフィーラの言葉を先読みして答えをいう。
こういう地味に使える能力はうらやましく思う。おそらくこいつはリア充だろうと予測した。
「うむ、その通りだ。そういうわけで来たのだが……どうやら龍一が頂いていたようだな
」
「量なら心配することはない。まだ冷蔵庫にたくさんある」
え、結構今の状態でも山積みなんだけど。まだあるって本当にどれだけ作ったんだよ魔王。
恭也さんはその証拠を示すため、冷蔵庫に向かってそこから再び山積みになっているシュークリームを取り出した。
「……本当多いですね」
「せめて君がなのはに嘘でもおいしいといってくれたらね」
なぜか恭也さんによくわからないことを言われ、ため息をつかれた。なぜだ。
再び恭也さんは席に着き、さらに盛っているシュークリームに手を伸ばし始めた。
「龍一の方はここで何をしているのだ」
見れば、ザフィーラさんがこちらに視線を向けていた。
「そりゃあ……」と口を開いたところで気づく。
あ、そういや俺逃げてきたんだった。
なんだかんだとお茶をお世話になっているから忘れていたが、そもそも俺がここに来たのは単純にシュークリームがほしかっただけだったはずだ。のんびりするつもりはなかったとはいえ、このことを魔王たちに知られると……か、考えただけで身震いがする。
とりあえず、この場を切り抜ける言い訳を考えてみる。
「ザッフィさん」
「ざ、ザッフィ?」
なんか困惑の声を上げるザフィーラだが気にせず言葉を続ける。
「ザッフィさんの目の前に高級ジャーキーがあったとする」
「かまわないが、ザッフィさんと犬扱いは勘弁してほしいのだが」
「もしはやてに待てをされた場合、ザッフィさんは我慢するか?」
「……主の言うことなれば」
今度はあきらめたようにため息をつく。
恭也さんも目を白黒させていて、おそらく俺の突然の行動に真意が読めないのだろう。
やはり恭也さんはリア充だ。これは間違いない。
「して、その問いがなんだというのだ」
「つまり、俺は目の前のシュークリームの誘惑には勝てなかったというわけだ」
「待て、どこがつまりなのだ」
軽く舌打ち。
やはり青き狼の異名をとるザフィーラに適当なことを言って場を濁す作戦は使えなかったか。
「……まあ、なにを言いたかったのかはわからんが、少なくとも高町なのはに伝えたいことは分かった」
なんだとぅ!? ここにいるっていうのがばれた時点で、明日の朝言葉のリンチを浴びせられるのは確定じゃないか!
「いやそもそも言わなくても……」
「龍一は、高町なのはのシュークリームを食べたがっていた……でいいんだな」
「って……え?」
「ここで会ったことは言ってほしくないんだろ? 帰りに会ったことにしておく」
おおう……なんていう空気の読めているお方。まさにすずかに続く天使。見た目には大きく差異はあるものの。
……なんだか、変な方向に突っ走りそうだが、尻が痛くなってきたのでこれ以上は感激しないでおくことにした。
次の日、なぜか昼ごはんの時間に魔王からシュークリームが送られてきた。