リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第五十七話 漢の間 前編

 さて突然ではあるが、またしても俺は魔王の家にきていた。

 しかし、魔王の家とはいったもののその面子は魔王とはかけ離れた面子ではあった。

 

「ほら、シュークリームだよ。ゆっくりしていきなさい」

 

 目の前に置かれるさらに乗っけられたシュークリーム。一目見てわかる、魔王が作ったものだと。

 どういう原理でこんなことをしているのかはわからないが、善意で出されたものということで断ることもできず、もしゃもしゃと食べる。

 

「……ふつう」

「はっは、辛口だね」

 

 さて、そろそろ目の前にいるお人を紹介してみよう。おそらく説明しなくてもわかるだろうが、魔王の父士郎さんである。

 

 どういう経緯でこういうことになったか。それは数時間前、放課後になったばかりの出来事から始まる。

 

 

 

 

「はやてちゃんちに行くんだけど、龍一君もどうかな」

「いかない」

 

 魔王の声に即答する俺。

 魔王は一瞬の間を開けて、断られたことに気付いて涙目になった。

 

「龍一!」

「なに、アリサ」

「泣かすのはやりすぎでしょ!」

「いや、俺断っただけだからね。別に泣かすようなことしていないからね」

 

 さすがに理不尽であるアリサからのお叱り。

 実際にそれがわかっているのか、俺の返答に何も返さずそのまま口をつぐむ。

 しかし、俺への感情は収まっていないのか、アリサはさらに突っかかってくる。

 

「あんた暇でしょ。なら来なさいよ」

 

 どうやら、アリサもはやての家に行くらしい。

 だとするなら、なおさら行きたくなくなる気持ちが増えてしまった。

 しかしこのままでは強制的に連れて行かれてしまう。最近では俺がアリサに逆らえないのを知ってか知らずか、よくこういうことをアリサに言われることが多くなっている現状、さすがにそろそろ反抗しなくてはならないのではないだろうか。

 

「たまにはこっちの都合も考えてほしいんだけど」

「じゃあ、その都合とやらをいってみなさいよ」

 

 おおっと、口から出まかせの発言にアリサが引っ掛かってしまった。ちなみに、そんな都合なんてない。

 しかし、このままでははやての家に連行されてしまう。それから逃げるにはどうすればいいのか。そう、予定をねじ込めばいいんだ。

 

「じ、実は家に帰ると……」

「帰ると?」

「親の電話があるんだ」

 

 ……

 いや、俺自身この言い訳はどうかと思った。正直たいしたことないものだし、この前日本に戻ってきたことから、そこまでレアな邂逅というわけでもない。

 こりゃ連行確定かな……なんて考えた時だった。アリサは身を引いて言った。

 

「それならしょうがないわね」

 

 ……え?

 

「みんな、しょうがないだろうけど、今日は連れて行くのあきらめなさい」

 

 困惑する俺を気にかけることなく、後ろの三人に話しかけた。

 お粗末な言い訳のどこに共感する部分があるかわからないまま話は進む。

 

「それならしょうがないよね」

「お母さんとの時間は大切にしなきゃ」

「龍一君、お父さんとお母さんによろしくね」

 

 すずか、フェイト、なのはの順番で話しかけてくる。

 俺がその言葉にあいまいにうなずくと、彼女たちは俺をしり目に去って行った。

 とりあえず危機は去ったというところだろうか。

 

 ……ていうか、なんでこいつらは俺を連れて行きたがったのだろうか。

 

 

 

 

(で、一度家に帰ってから翠屋に来たら、なぜか士郎さんに案内されたんだよね)

 

 シュークリーム買うだけだったのに、どうしてこうなったんだろう。

 俺がそんな思考になっていたところで、士郎さんはまたいそいそと何か準備をしていた。

 

「ええと、何をしているんですか?」

「すまないね、連れてきて悪いんだけど、すぐにでも店に戻らなくちゃいけないようだ」

「あ、そうですか。では、俺も家に帰ることに――」

「それなら大丈夫だよ。恭也が代わりにいてくれるみたいだから」

 

 士郎さんはまるで当たり前かのようにそう口にした。

 士郎さんとしてはおそらく家に連れてきてすぐに店に戻るというのは心苦しいというのがあったのだろう。

 だが、あえていおう。どういう理由であろうと原作キャラというだけで関わり合いにはなりたくないと。

 

「い、いいですよ。その恭也さんにも用事があるでしょうし」

「いや、これは恭也からの提案なんだ」

 

 おのれ! 誰か知らないが余計なことを!

 

「はは……ですけど」

「それに、そのシュークリームも余らせたくないしね」

 

 気づけば、いつの間に用意したのかさらにあまるほどに乗っている大量のシュークリーム。

 相手に気付かれずにシュークリームを用意する……これが御神流というやつなのか! まあ、御神流とか適当に言っただけだけど。そもそも、シュークリームを相手に気付かれないように用意するとかいらない能力にもほどがある。

 

「えと、いいんですか? こんな大量の」

「娘が作りすぎたようで、今日中に食べなきゃならない量なんだ。ちなみに、まだまだあるよ」

 

 シュークリームを作った人物をネタばらし。とはいえ、最初にわかっていたことではあるが。

 しかし、それよりも思ったことが、なぜこんなにシュークリームを作ったということだが……いやまて、その前になぜ俺はここに居続けなければならないんだ。

 

「いや士郎さ――」

「まあそういうわけだから」

 

 そういってさっそうと店のほうへ向かった士郎さん。うん、まさかこうゴリ押ししてくるとは思わなかったよ。

 しかし、俺の性格的にここまでされて無理を押し通して帰ることなんてできない。それを見越したのだとすると……士郎さん、恐ろしい人!

 

「なんてこともないか」

 

 冗談は冗談で頭の中で考えておくことにする。とりあえず帰りたい気持ちを押しとどめ、シュークリームをもさもさと食べることにした。

 

 そうして、二つ目のシュークリームを食べているとき、誰かが部屋に入ってくる気配がした。

 見てみると、士郎さんに似て凛々しい顔をしている。たぶん彼が恭也という人なのだろう。変な人を見る目で見られる前にあいさつしておこうと、食べかけのシュークリームを置いて話しかけた。

 

「……おじゃみゃみてま……おじゃみゃ……みゃみゃ」

 

 いきなり盛大に噛んだ。

 うつむき、表情を見られないようにする。顔が赤くなっているのが自分でもわかるからだ。

 しかし、相手はいったいどんな反応をしているのだろうか。そんなことが気になり、この状態では恭也さんの表情も読めないので、上を向いてちらりと様子を見る。

 

「……フッ」

(薄く口元だけで笑った!)

 

 驚きに身を固め、恥ずかしくなり再びうつむく姿勢に戻る。

 士郎さんはなんてものを残してくれたんだ! と一人口の中でごちる。まあ、士郎さんは悪いことなんもしてないけど。

 とにかく、俺はこの状況から脱却することを一番に考える事にした。

 

「……ええと、高町恭也さんであってますよね」

「そうだ」

 

 返信が冷たいですよー。そんなんじゃこっちも恐縮してしまうのだけどー。

 しかし、ここであきらめるわけにはいかない。こちとら一刻も早く帰ってすでに折れかかっているメンタルをアリシアに癒してもらわなきゃいけないんだ。

 え? いい大人がそんなこと考えるなって?

 別にいいじゃない、見た目は子供なんだから。

 

「おい」

「ひゃいっ!?」

 

 だいぶ現実から逃げていたところで、突然目の前の人から声がかかる。

 相も変わらず目の前の男の雰囲気はとても冷たいものだった。

 

 これ、殺されたりしないよね?

 


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