リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第五十六話 一人より二人

 少女……もといシュテルを拾って数日。そろそろシュテルの方も慣れてきたようで、口数は日に日に増していっている。

 

「龍一、このだし汁はどうすればいいのですか?」

「それはこっちの鍋に使う。とりあえず置いといてくれ」

 

 最近では料理も手伝ってくれるようになった。おかげで時間勝負な料理に手を出せるようになってきてうれしい限りだ。

 ほかにも洗濯掃除などもやってくれる。かなり楽ができて、この辺りはうれしい誤算といったところか。

 

「しかし、どうするか」

「何がですか?」

「いや、なんでもない」

 

 なんだかんだ言いつつ、バリアジャケットのままはいただけない。微妙に魔力反応がある気がするから、おかげで最近はビビッて家に結界をしかけるようになった。

 家にフェイトや魔王が来たらおそらく一発でばれるな。まあ、多分来ないけど。

 はやてについては、なんだかんだとある約束をされた。

 

「……一週間に一回、はやての家に行くこと……なぁ」

 

 この条件さえ守れば家に押しかけることはしないらしい。

 魔王たちに関しても、遊びやすいからかたまに訪れているようだ。そんな中アリサと魔王が絶対にいないときに狙っていくようにしている。フェイトはどっちでもいいし、すずかも特に狙うようなことはしていない。

 

(で、今日は行く日という)

 

 前回呼ばれて一回行ったきり、いまだに行っていない。

 シュテルも家には慣れてきたころだろうし、そろそろ家に行く回数を更新しておかねばまずいかもしれない。ということなので、本日行くことが(俺の中で)決定している。

 

「龍一、量多くないですか?」

 

 料理がある程度完成に近づいたところで、シュテルがそう教えてくれる。

 だがシュテル、これは別にミスとかそういうわけではない。

 

「今日はちょっと遅くなるかもしれないから、少し多めに用意しておいた。夜は先に食べてていいからな」

「わかりました」

 

 聞き分けがいいシュテルはこういうことをおとなしく聞いてくれる。

 シュテルマジいい子。

 

 

 

 

 はやて家に着いた。

 良くも悪くも見知った家なので、さほど時間もかからずについてしまうのはいかがなものか。そんな少しの悲しみを胸に秘めつつ、押しなれたインターホンを戸惑いなく鳴らす。

 何度も聞いた身近な音に、バタバタという誰かが走ってくる音。

 扉を開けて現れたのはヴィータだった。

 

「よお、りゅう。待ってたぜ」

「家にはだれが?」

「はやてとフェイトだな。あとは皆出かけてる」

 

 ここで小さくガッツポーズ。

 特にシグナムとリインフォースがいないのはとてもラッキーだった。

 

「そうか。じゃあ、お邪魔します」

「おう、せいぜい邪魔しろ」

 

 最近ヴィータのおっさんっぽさがにじみ出てる気がするのは気のせいだろうか。

 

 

 室内へと入った。

 そこにいたのはヴィータの言葉に間違えは無く、はやてとフェイトの二人だった。

 

「あ、久しぶり龍一」

「なんや、こない人が少ない時に……狙いおったな?」

 

 フェイトは笑顔で出迎えてくれたけど、はやてはいきなり俺の考えを読んできやがった。でも正解だから何も言えない。とはいえ、はやて家の面々は基本気分屋なので狙って居ないときにお邪魔することはできないが。

 

「来てあげたんだから、少しくらい喜ぼうよ」

「嫌やな、こういう男。きっと将来は大変で」

 

 というか、気づいたらはやて口悪くなってないか。……あ、俺のせいか。ほかの人はふつうみたいだし。

 

「フェイトも、一人でこの家にいるのは珍しいんじゃない?」

「はやてから本を借りようと思って。今は面白そうな本を教えてくれてるんだ」

「へえ。はやて、どういうのすすめてるの?」

 

 すると、はやては自分の右に置いてあった本の山から一冊取り出して俺に見えるよう掲げた。

 

「人間失格」

「やめろ」

 

 確実にフェイトに見せるには早い。

 これ以上悪影響を与えないよう本を奪っておき、はやてじゃ届かない場所に本を置く。

 はやては少しふてくされたが、あくまでも冗談の一環だったのかすぐに機嫌を直した。

 ちょうどその時、お茶を持ってきたヴィータと鉢合わせた。

 

「はやてもフェイトもあれで、あたし暇でさ」

「だから話に混ざってなかったのか」

「まあな。だから何かしよーぜ」

 

 何かといわれても、二人でできるものなんてあまり思いつかない。

 あるとすれば、昔はやてと二人きりの時にやったもの……

 

「……そういえば、ここによく通っていた頃ゲームとか買ってたな。あれで遊ぶか」

「ゲームって、倉庫にあるやつか?」

 

 そういえば、飽きてから邪魔になってきたから倉庫にしまったんだっけ。

 俺とヴィータはその倉庫まで取りに行くことにした。

 

 

 

 

 テレビがあるところなので、結局ははやてとフェイトがいた部屋に戻ってくる。

 

「なんやそれ」

 

 倉庫から持ってきたものに、興味を示したように聞いてくる。とはいえ、昔はやてもやっていたやつなんだが。

 

「昔やったじゃん。格闘ゲームのあれだよ」

「あ、あーあー。そんなやつもあったなぁ」

 

 納得したようで、はやての追及はない。ただ、フェイトが意味が分からず頭をかしげているだけだ。

 そんなフェイトには「見てみれば分かる」とだけ簡潔に言って、配線をつなげる。

 ヴィータがわくわくとした表情で見てくるが、個人的に手伝えと突っ込んでやりたい。

 

「……ほら、できたぞ」

「よし、わたしがやるわ」

「あ、ずるいぞはやて!」

「わ、私もいいかな?」

 

 ……なんか異様に人気なんだけど。

 

 

 その後、俺たちは時間を忘れてゲームに励んだ。

 

 

 

 

 時刻はすでに九時を過ぎている。

 こんな時間になったのも、フェイトに囁かれた言葉のせいだ。

 

「久しぶりに本当の料理が食べたいなぁ?」

 

 いや、どんだけそれを引っ張るのかと。はやてに聞こえないように言ってくれたのは評価するが、まずそれを忘れてほしい。

 なんとなくこの言葉を言われてしまうと逆らえないので、おとなしくはやてに許可をもらってはやて一家に料理をふるまった。料理を食べたシャマル先生が料理教えてほしいとか言われたけど。まあ断ったが。

 

 

 さて、そんなこんなで家に着いた。

 電気は消えていて、シュテルはおそらく寝ているのだろう。起こさないようあまり音を立てず家に入った。

 一応アリシアには帰ったことを知らせておくことにする。シュテルの監視も兼ねさせているので、スリープモードじゃなかったら一日の行動を聞かせてほしいものだ。

 

(ただいま、アリシア)

(……)

(あれ、寝てるのか?)

(リビングに来て、お兄ちゃん)

(え?)

 

 その言葉を最後に念話は切れた。

 いきなりのことで分けがわからない。一瞬逃げようかとも考えたが、さして深刻そうに聞こえなかったので、そこまで心配することではないだろう。危険がないなら逃げる意味も見当たらない。

 なら、一体なんだというのだろうか。

 未知の場所へ行くかのように緊張感を持たせつつ、リビングの扉に手をかける。

 

 扉を開いた先、暗闇の中に誰かが動く音がした。

 だれなのか目をこらす。目が慣れない暗闇だが、この家にこのシルエットを持つ人は一人しかいない。

 

「……え」

「……おかえりなさい」

 

 シュテルがテーブルの椅子に一人ポツンと座っていたのだ。

 テーブルの上には夜ご飯として作った料理。そんな状態から、シュテルが何がしたかったのか思い浮かぶ。

 

「待っててくれたのか?」

「はい」

 

 一瞬言葉が見つからなかった。

 怒ろうとも、嘆こうかとも思った。だけど、こういう時はもっと別の言葉ではないだろうか。

 そう、もっと暖かな言葉のほうが。

 

「……まったく、しょうがないな」

 

 羞恥心から思っていたのと違う言葉が出たが、弛んでいる顔を見ればそれは本心ではないことはすぐに気づくだろう。

 やれやれといった風にテーブルの上にあった料理をとる。

 夜まで保つ料理を作っていたので腐っているわけもない。電子レンジの中に適当に入れて、感覚でタイムを設定する。

 そこまでしたところで、シュテルの前の席に座った。

 

「先に食べてていいって言ったんだけど」

「すみません……」

「理由とかある?」

 

 シュテルは一拍おいてつぶやくように喋る。

 

「一人では、あまりおいしくありませんでした」

 

 その言葉を聞いて、つい笑ってしまった。

 

(失礼だよ、お兄ちゃん!)

 

 この部屋の隅に置きっぱなしにしているアリシアの念話が来るが、そんなことも構わずに笑う。

 シュテルはきょとんとしている。そりゃ、自分の思いのたけを話したら急に笑われたのだからそうだろう。

 そこから数秒笑い、ようやく収まったところでシュテルに再び向き直った。

 

「そうだな。一人だとさみしいよな」

 

 思えば、幼少のころ魔王と仲良くなったのもそんな理由だった。

 懐かしさにあの頃の自分とシュテルを重ねて思う。いままで前世の時のように一人ではなかったのも、あの時の会話から始まったのかもしれないと。

 

「じゃあ、二人で夜ご飯といこうか」

「はい」

 

 心なしか嬉しそうな表情。

 いまだひな鳥のような彼女だが、だからこそこうして彼女と親交を深めるのも、彼女にこんな暖かさを教えることの一端になるんじゃないか、そう思った。

 


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