リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第五十五話 先生の由来

 休みが明けて学校。

 山で拾ったシュテルについては、学校へ行っている間は家で大人しくしていることを約束させた。聞き分けは良いので待っててくれるだろう。

 そもそも、あの見た目から外に連れ出すのも難しい。かといってずっとそばにいるわけにもいかないのでそうするしかなかった。

 まあ、アリシアなら存分に相手をしてくれるだろう。何かあったら念話で知らせてくると思うし。

 そんなこんなで今日も今日とで学校へ登校していた。

 

「おはよう、龍一君」

 

 教室の扉を開けると一番に魔王があいさつしてきた。朝から憂鬱になりつつ、小さく「おはよう」と返事をして席へとつく。

 クラスの何人かは休学と言っていた俺がいきなり登校していたことに驚いていたが、すぐに有象無象の一部として認識したのか、興味はなくなったかのように目線がなくなった。

 この孤立している感覚、転生前を思い出すものがある。

 

「龍一」

 

 ぼーっとしていたら、声をかけられる。ちらちら見えていた金髪にまたアリサかと思ったが、振り向いてみればそれはフェイトだった。

 朝いきなりフェイトが話しかけてくることは少ない。基本的に朝はアリサとすずかが囲ってくることが原因だからと思われる。

 フェイトもそれなりに人見知りなのだろう。

 

「えっと……何?」

「はやてが今日家に来てって言ってたよ」

 

 冷や汗が流れる。

 あんな騎士たちに(特にシグナムとリインフォースに)にらまれているというのに、家に来いだなんて、何の罰ゲームなのだろうか。もちろん、いないのなら行くこともやぶさかではないが。

 どのみち、家にはシュテルがいる。とりあえずこっちのことで忙しいので、お断りの返事をするために策をひねる。

 

「今日ちょっと気分が悪くてさー」

「来なかったらリインフォースに連れてこさせるだってさ」

「行きます」

 

 あの女、俺に対しては完全に手加減がないので、二人っきりだけには何が何でもなりたくはなかった。事故と偽って殺してきそうな雰囲気もあるし。さすがに気のせいと思いたい。

 ともかく俺はため息をつき、諦めてはやての家へお邪魔することにしたのだった。

 

 

 

 

『……』

「……」

『……お兄ちゃん、用事があったんじゃないの』

「え?」

『朝、念話で今日は遅くなるって言ってたのに』

 

 その瞬間、寒気が体中を襲った。

 

「し、しまった! 今日はやての家に行かなきゃいけなかったんだ!」

 

 放課後になり自宅でゆっくりしていたとき。アリシアの一言は人の度肝を抜くものだった。

 嫌なことって、人間すぐ忘れるよね。

 ……なんて言い訳してもしょうがない。このままだとあの最恐銀髪女性が現れることは確実。少しでも被害を減らすにはどうすればいいのだろうか。

 そんなこと、決まっている。

 

「アリシア! もうちょっとだけシュテルの相手をしておいて!」

『えっ?』

「俺は山に行って逃げる」

『用事は!?』

 

 最強の選択肢は逃走。これに尽きる。

 すぐさま俺は家を飛び出す。善は急げともいうし。

 

 そうして山への道すがら、せめて飲み物くらいは買っておこうと思い、いつものスーパーへと入っていく。

 そこで一人の知り合いの買い物姿が見えた。はじめ、それを無視していこうと思ったが、嬉々としているその知り合いに我慢ならないことがあった。

 そう、ヴィータでもわかりそうな間違いを犯していたのだ。

 

「シャマル先生」

「りゅうちゃん、こんにちは」

 

 声をかけると、その知り合いは嬉々としている表情を崩さずに応対をしてくれる。

 こういうことなら、いきなり本題に入っても問題ないだろう。そう判断してシャマル先生の買い物かごに入っているアイスを指さす。

 

「アイスありますよね」

「はい。買い物のついでにとヴィータとはやてちゃんが頼んできましたから」

「……嫌がらせのつもりなら野暮ですけど、アイスを一番下、しかも常温保存のものの近くにおいていると、溶けますよ」

「え? きゃあっ!」

 

 今更気づいたのか、すでにだいぶ溶けてドロドロになっているそれを見て驚く。

 カップのほうは再冷凍すれば味は落ちるもののどうにかなるが、バーのほうはもう手遅れだろう。

 

「……戻しちゃいけませんかね」

「見つかったら怒られますよ」

 

 肩を落としながら買い物を再開するシャマル先生に苦笑する。

 どうしてこう抜けているのにこの人に買い物を任せるのかという疑問を持ちながら、俺はその場を去ろうと――

 

「あ、そういえば、今日はやてちゃんがりゅうちゃんが来るのを楽しみにしてたわよ」

 

 ――したところで止められた。

 無理を通してここから逃げてもいいが、見つかっているのに逃げるのは得策ではない。というか、なんか迎えに行かせるとかいう銀髪悪魔が恐ろしい。

 

「か、買い物してから行くつもりだったんですよ」

「あら、そうだったの」

 

 しょうがないので、ここでつかまっておくことにした。シャマル先生と一緒だし、すぐに切られるなんてことはないだろう。

 そんな打算を考えながら、俺はシャマル先生の買い物について行った。

 

 

 

 

 そしてはやて家。

 

「なんか用があるって?」

「ごろごろしよーや」

 

 寝転んでいるはやてからそう返答が来たとき、すごく怒りがわいた。まあ、その感情を感じ取られて部屋の隅のほうにいたリインフォースからトラを殺す勢いでにらまれた気がするけど。

 

「そういやはやて、なんであれだけの凡ミスをするシャマル先生に買い物に行かせているの?」

「それは面白いからやけど」

「……」

 

 はやてから真面目な顔でそう返されたとき、怒りより先に呆れの感情がわいた。まあ、またしても感情を感じ取られてライオンを殺す勢いでリインフォースの眼光が向いてきた気がする。というか、呆れすらアウトなのか。

 

「ん? なんでシャマルのことを先生と呼んどるん? 龍一から見て先生と敬えるところは何もないと思うんやけど」

 

 割とひどいことをさらっと言ってのける。聞かれているかと思い、冷蔵庫の整理にかかっているシャマル先生を見てみるが、あちらで悪戦苦闘しているようでこちらの声は聞こえていないようだ。溶けたアイスの行く先に悩んでいるのかもしれない。

 その様子を見て、はやてに対して本心を話すことにした。一応気になることも含まれているし。

 

「シャマル先生にも、俺をはるかに超える実力があるぞ」

「へえ、なんやねんそれ」

「料理」

 

 はやての顔が驚きに染まり、シャマル先生を見てから俺の顔を見る。しばらく唸った後、はやては俺の頭に手を当てた。

 

「熱はないみたいやな」

「うん。そういう反応すると思ったよ」

「やっぱり病院やろか……」

 

 はやてが電話を取ろうとする前に、早くオチをいうことにする。本当に電話されたらたまらないから。

 

「シャマル先生の料理、さっきはやてが言った通りポイズンクッキングとなる」

「さすがにポイズンは言い過ぎやろ」

 

 でも否定はしないんだな……なんて思いつつ、人のことも言えないので気にせず続ける。

 

「あれ、レシピ通りに作っているらしいじゃないか」

「わたしが手伝うこともあるけどな」

「その出来は」

「推して知るべきやろ」

 

 やはりひどいらしい。

 大体予想はしていたが、はやてと一緒に作ってひどいとなると、その力は俺が思っていたものより強大かもしれない。

 

「俺としては、あれは才能だと思う」

「その気持ち、わからなくもないんよ」

「……そこに対して先生と言っているんだ」

 

 はやては一瞬だけぽかんとした後、大笑いし始めた。

 あれ、さすがにひどくありませんかね? 見ればリインフォースも小さく笑ってるし。ほら、シャマル先生も不思議そうにこっち見てる。

 

 ちなみにその後、シャマル先生が夕食を作ると聞いた瞬間に逃げ出すことにした。いやまあ、なんだかんだとネタにしつつ、推して知るべき料理は食べる気にはなれないし。

 そもそも怖い二人がいて一緒に料理を食べること自体が恐ろしいので、だれが作ろうと同じだったと思うが。

 

 ちなみに、栄養バランスに関しては完璧というのを聞いたのはその後のことだった。

 料理自体があれならバランス完璧でもどうしようもないと思うが。

 


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