リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
「ようやく平和な冬休みだ!」
『そうだねー』
記憶が正しければ、本編は終了したはず。つまり、これ以降は平和な日常が訪れるということである。
今年はいろいろなことがあったなぁ……アリシアと会ったり、はやてと別れたり、銀髪の女性に殺されかけたり……なんというか、いい生活とは言えない。
ちなみに、親は温泉街へ行って帰ってくるとともに外国へ旅立った。父が大泣きしていたのが印象に強い。
さて、そんなことはともかく。
「山に行くぞ」
『修行? もう平和なんじゃないの?』
「平和だからこそ、あえてしてみたかったことをしたいのだ」
『どういうこと?』
「実は前に教えてもらっていた時に、一つ考え付いた魔法があるんだ。それを試してみたい」
『ふーん』
あれ、なんかどうでもよさげな声が……まあいいか。気にせず山へと行くことにした。
「ちょっと思ったんだ、俺はヴィータとの戦いで学んだ。魔力消費量を減らすのも重要だと」
『サンダースマッシャーが最大とかどうしようもないよね』
「そう、そうして攻撃魔法が全く使えない……これはどうしようもない」
『どうしようもないっていうだけなのがお兄ちゃんらしいよね』
「まあ、今からのこととはまったく関係ないしな。ま、試しにやってみるぞ」
『え?』
アリシアの間の抜けた声を無視して、夏休みいつものようにやっていた結界を張る行為を行使する。
さて、準備は万端。あとは、ちょっとお試しで作ってみた(すでにある魔法から改造したという方が近い)魔法を試すだけ。
「……エレクトリフィケーション!」
『わわっ、なんかピリピリする』
「いや、そういう感覚ないだろお前」
『てへっ』
試したのは武器などの物に帯電を起こさせる魔法。
正直フェイトには効かなかないだろうしそもそも効果が薄かったりするが、使い方によってはなんか使えそうな気がしたから作ってみた。自己発電とかできそうだし。
魔力消費も少ないうえに、一度帯電させればしばらく続くし、あるならあるでいいかなというところだ。
「さて、今回はこれを使っていろいろ試してみるか」
『あれ、ほかにも作ってなかったっけ』
「いや、作ったのはこれだけでしょ。魔法なんてポンポン作れないし」
『お兄ちゃん一人だけだと改変すらできないしね』
「わかっているなら聞くなよ」
残りは改造が大半である。
いちおう、サンダーレイジはだいぶ改良させて、アリシアだけでも動くようにはしておいた。さすがに全く使えないというのはギャグ以外の何物でもないし。サンダースマッシャーやフォトンランサーは自分に合うように魔力の消費量を削減させた。
「……俺、頑張ったなぁ」
『いや、私のほうが頑張ったからね?』
アリシアの言葉を無視して、そうしみじみ思う。
これほど理系でよかったと思うことはない。
「さて、まずはどれだけの範囲が有効なのか試してみるか」
『三メートルしか届かなかったら笑うよね』
「……だ、大丈夫のはずだ。理論的に考えれば二十メートルまで届くはず……多分」
『うわぁ……あやしー』
アリシアのせいで不安になってきたので、早くためしをしてみることにする。
使う魔法を頭の中で構築し、その魔法に魔力を込める。今に出そうとするその瞬間――
『待って!』
アリシアからの緊急ストップが入った。
「どうした?」
『……だれか、近くに魔力を持った者がいる』
「!?」
神妙な声で告げるアリシアに冗談の類のものは全く入っておらず、その言葉は真実なのだと思わせられる。
しかし、ここで逃げる一択を選ばなかったのは、その後アリシアからすぐに送られてきた念話によるものだった。
(でも、アースラの人たちには気が付かれてないよ。ギリギリ結界の範囲内だったのかな)
(は? じゃあいったい誰が……)
(それがわからない。……どうする、逃げるにしても、状況がわからないままはやばいんじゃないの?)
アリシアの言うことにも一理あった。
最近原作の記憶が全くあてにならなく、なんだかんだと巻き込まれてばかりだったということもあり、実際に危険回避は自分の目で確かめるのが一番だったりする気がしてきたからだ。
しかし魔力を持った人物など、まともな人であるはずがない。というか、アリシアが気付くってことは結界内とはいえ垂れ流しにしてるってことでもある。
それは、管理局にばれてもいいってことになる。
「……見に行くのが最善か?」
『うん……危険そうならやめてもいいんだよ?』
アリシアが言っているのは、おそらく魔王たちに任せるということだろう。
正直そうしたい。今まさにここに来て関わってしまったことを後悔してるし。
だけど冷静に考えてしまえば、もしその魔力の発生元が俺関連だった場合、管理局にばれる可能性がある。その場合俺はアリシアを持った状態で連行されるだろう。その後のことなど考えたくもない。
確認をしないのは危険だ。結局は、ここに来た時点で関わらずを得ないわけである。
アリシアに誘導されてしばらく。
山の中腹の方まで進んでしまい、帰り道を少々危惧するが、一応サバイバル知識もあるのでそれを頼りに考えないことにする。
「アリシア、この辺か」
『うん。ただ、結構魔力が薄れてきてる。多分さっき魔力反応があったのは、何らかの魔法が発生したからだと思う』
「つまり、今は魔法を使ってないってことか。気休めくらいにしかならないな」
少なくとも、現れた瞬間ドーンとやられることはないだろう。
そうして茂みを払い、少しだけ広場のようになっているそこに、見たことがない少女がぽつんとひとり突っ立っていた。
空を見上げるその姿は、まるで少女のように見えずについ息をのんでしまうほど美しかった。
恐る恐る近づく際、足元で枝を踏んでしまい音を出す。
音に気付き、少女の視線はこちらを向いた。
「……」
「……」
お互いが視線に入りなんともなしに見つめ合う。
そいつをみて、つい記憶上にある人物と似ていて、ついその名前を呟く。
「……なのは?」
言った後で思う。これは違うと。
髪型に色、さらにバリアジャケットだって全然違う。視線から放たれる冷たさも、数倍アップしている。
だからこそ、その子に近づき聞いてみた。
「君は、だれ」
「……私は」
少しだけ、答えに迷いを見せた。
なんて答えようか迷っているように、答えがまるで無いかのように。
「自分のことがわからないの?」
「……」
少女は静かに首を縦に振った。
結局、少女をあのまま放置なんて真似もできず、つい家に連れ帰ってしまった。
見る人が見れば立派な誘拐なのかもしれないが、どうしても少女の目を見ると放っておくことなどできなかった。
何かが抜け落ちたような、空虚な瞳がこちらの目を貫いてくるから。なんて言い訳をしそうになるくらい、彼女の背景には何も見えるものがなかった。
「どうぞ、粗茶だけど」
「粗茶……?」
だからなのだろうか。
「まあ、お茶どうぞってことだ。飲んでもいいよ」
「……おいしいです」
「ならよかった」
彼女に対しては話すことに抵抗を感じないのは。