リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
新年を開けたが、親たちはなんだかんだでもう少しいるようだ。
その時、再びどこかで聞いたことのあるセリフを聞いた。
「温泉にいこーよ」
始め幻聴かと無視をしていたところ、その発言元である父はいちいち俺の肩を揺さぶってきた。これでは無視をすることが出来ない。
「……なんでまた」
しょうがなく向き合ってみれば、横には母もいた。
やはりこの瞬間悟った。これは出来レース、もう決まっていることだと。
「翠屋って知ってるだろう?」
「そこのご両親から一緒に行かないかって」
しかも、最悪な形で。
またしても温泉街。ここ前にも来ただろ……
「今日こそ私と入るのよ!」
「男同士の親交を深めるべきだ!」
そして再び喧嘩するふたり。間にいるのはもちろん俺。この二人が全く成長してないことは誰の目にも明らかである。
同行者を見てみれば、何名か呆れ果てて銭湯に向かう者もいた。
「ユーノ、行こうか」
「え? あ、う、うん」
ユーノと呼ばれた少年は、女子風呂の方をちらちら見ながら青い暖簾をくぐって行った。
とりあえずあの子たちは置いておこう、問題はここから先、俺自身の事だ。
前にも言った通り、入ってしまえば終わりだと思っている以上、絶対に入ろうとは思わない。
しかも今回は前回と違って、魔王たちだけではなくフェイトやはやてもいる。
こんなメンバーで入りたいと思うやつはいるのか? 否、いない。
「母さん、こっちは男風呂に――」
「なのはちゃん達だって、一緒に入りたいわよねー?」
「おいやめ――」
「わたしは入りたいな」
おいやめろ。無いとは思うがそれでノリノリになったらどうするんだ。という言葉ははやてにより飲み込まされることになった。
というか、さっきから言葉を切られ過ぎて言いたいこと何も言えてないんだけど。
「はや――」
「なあ、そう思うやろ?」
もはや言葉をなせない。
はやては同意を求めるようにして魔王たちに視線を向ける。そして、それを止めるすべは俺にはなかった。
「えっと……」
すずかは悩み声をあげる。
まあ、この年になっても男友達と入りたいなんて思う人はいないだろうし、女の子は思春期に入る。まさか入りたいなんて言うはずが……
「龍一君がいいなら……いいよ?」
……ああ、これだから人生ってのはうまくいかない。
彼女たちはまだ思春期という人生の岐路には立っていなかったようだ。
「龍一とお風呂? もちろん、いいよ」
「りゅうと風呂か。楽しそうだな」
フェイトとヴィータはそれに続いて賛成する。今更ながらに騎士もいることに気付いた。
ちなみに俺は抵抗することをあきらめた。
「ええっと、わたしは……」
「わ、わたしは入りたいとは思わないわよ」
なのはは迷っている様子で、アリサは正面から拒否しているもののさして嫌そうではない。
状況を考えれば二人がどのような選択をしたとしても入ることが覆るわけもないだろう。なんせ、母親はすでに俺の腕を引っ張って暖簾をくぐっているから。
引き留めてくれるのは父親だけ。俺は運命を呪った。
皆が服を脱いで室内へ。
「りゅう、頭洗ってーな」
はやては銭湯に入ってすぐにそう言ってきた。
素直にその言葉に頷き、嬉しそうにするはやてをお姫様抱っこで運び、シャワーの前に座らせる。
軽く水をだし、温度を確認してから優しくかけて頭を濡らす。
「おい、いきなりかけるんじゃなくて、一声くらい言うべきだろう」
後ろからのダメだし。それもそうだと思い、はやてに一応確認をしておく。
「声かけた方がいい?」
「前と同じでええで」
「そか」
言葉短に返答をして、さらに続ける。
後ろのダメ出しをくれた人から面をくらった気配がするが、見ていないので実際のところわからない。
とりあえず放っておくとして、次に髪を傷めないようリンスで優しくなでるように洗う。
「かゆいところありませんかー?」
「ないよー」
といういつものやり取りも忘れない。
……さて、こうしていつまでも実況していても事態は好転しない。もともと好転することは期待してないけど。
まず俺が後ろを向かない理由。分かっているとは思うが、後ろにはシグナムがいる。何も言ってないがリインフォースも。これが今一番俺を困らせていることだ。
小学三年生に劣情を抱きはしないと高をくくっていたため、銭湯に入るのは実はそこまで拒絶はしていなかった。
だが実際はどうだ。騎士たちは立派な女性ではないか。これは忌々しきことだ。
というか、精神年齢的にこれはつらい。
「……どした? なんや困ったことでもあるんか?」
動きを止めたからか、はやてが心配そうな声を上げてくれる。それに対して曖昧に返事をしながら動きを再開させた。
とりあえずは、先の事を考えないようにしながら。
「はあ……ええなぁ、こうして龍一に頭洗ってもらうの」
「へぇ、そうなのか?」
「あ、ヴィータのが悪いってわけじゃないんやで」
「分かってるって」
話からすると、普段はヴィータに頭を洗ってもらっているらしい。
なるほど、蒐集された後の介護がうまいと思ったらそういう事か。……いや、お風呂は服着てもらってたよ?
「じゃあ、後であたしもやってもらおうかな」
ヴィータの一言により、俺の動きはぴたりと止まった。
いや、なんだかんだ言ってやっぱり女の子を洗うというのは破壊力が高いわけで、それがいくらいろいろ成長の仕切ってないヴィータといえども余裕はあまりない。
はやてこそ一年のころから見てきたし、割と馴れてはいる。だが、それと同じくらいの身体と言えども、友達という実のヴィータを洗うのは……
「……嫌か?」「……」
「やらせてもらいます!」
ヴィータの寂しそうな声にではなく、後ろから放たれた気配による悪寒によって反応した。誰だそんな気配を出したのは。正直本気で怖い。
おっかなびっくりではやてを洗い終わったとき、後ろから誰かが近づく気配がした。
「私も洗ってくれないかな?」
何故。
フェイトが来て声をかけられたとき、おそらくその後ろにもまだいるのだろう。そう思った。
このままではまずい。助けを求めて母を探すと、ゆっくり湯船に浸かって微笑ましそうな顔でこちらを見ていた。
母よ、そんな優しい視線を送る前になんとか助けてくれないだろうか。助けてくれないんだろうな……
なんとか銭湯という地獄から舞い戻ってきた。
なんだかんだで湯にはあまり浸からず早々に出て行った。いや、凄いいたたまれなくなったもんで。
時間つぶしにコーヒー牛乳を銭湯の外で少しずつ飲み、女子軍団が出てくるのを待つ。初めは逃げようかとも思ったものだが、出ていくときに逃げたら殺すオーラがいたるところから感じられたので、本心では嫌でも待っておくことにした。
……いたるところからというのは誤字ではない。殺すはさすがに誇張しすぎだけど。
「龍一……といったか」
コーヒー牛乳を飲み終わったと同時、横から声がかけられた。
振り向いてみるが、そちらには誰もいない。いや、視点を下にずらすと犬が一匹。
「ええと?」
犬型……そういえば、騎士の中にこんなのがいた気がする。名前は何と言ったか……
「突然話しかけてすまないな。主の事だが」
「は、はやての事については大変反省しております」
騎士達が俺の態度に怒りを示しているのは重々承知なので素早く頭を下げる。
傍から見れば犬相手に頭を下げるという変人的奇行をしているが、それで命が助かるなら安いものだ。
だが、頭を下げられているザフィーラからすると、いきなり頭を下げられたことに度肝を抜きいたたまれなくなる。
「頭など下げなくていい。ただ、主の従者としてあることを頼みたいだけだ」
「あること?」
頭をあげると、俺をまっすぐに目を見抜いてくるザフィーラが真剣な表情でそこにいた。
「どうか、主と仲良くしてやってくれないか」
一途に思うのは己の主のこと。自分のことだけ考えて今まで逃げてきたのが恥ずかしくなってくるほどに、その目から導き出されるのはまっすぐな気持ちだった。
――心の底からはやてのことを思っているんだ
自然とそんな考えが生み出され、彼らがだれのための騎士なのかようやく理解した気がする。シグナムこそ行きすぎだが、あれもあれで不器用なだけなのかもしれない。リインフォースは……まあ、はやてのことを考えすぎた結果があれなのだろう。態度は冷たいが、あれ以来何かをされたということもない。
ちょっとだけ、ちょっとだけだが、本編キャラとはいえ仲良くしてもいいのかもしれない。
そんな風に思った。
「わかった。ザフィーラ」
「……ああ、頼んだぞ」
ザフィーラは静かにその場を去って行った。
「……じゃあ、俺もこの辺まわろうかな」
「へえ、また逃げるのね」
ビクリ。
恐怖に体が震えた。
嫌な予感はぬぐえず、恐る恐る振り向いた先にいたのはアリサ。恐ろしさのあまりつい敬語になる。
「……お、思ったより早かったですね」
「どこかの誰かさんがまた逃げるんじゃないかと思ってね」
顔は笑っている。だけど、肝心な目は笑ってはいなかった。
「に、逃げるつもりはなかったんですよ?」
「へえ……」
だめだ、許してくれる気配がない。
じりじりと距離を詰めてくるアリサ。しかしそこで現れたのが我が天使すずかだった。
「アリサちゃん、本当は龍一君を待たせたくなかったんだよね」
暖簾をくぐってきてそうそう、状況を見て即座に俺にも聞こえる音量で言ってきた。
その言葉に反応したのはやはりアリサ。
「そ、そんなわけないでしょ!」
顔を赤くしつつ今度はすずかに詰め寄る。すずかがこちらに向けて笑顔を向けているところを見ると、こうなることを予見して助けてくれたのだろう。
その姿を見て俺は思う。
(やはり、原作キャラと仲良くするのはほどほどにしておこう)
アリサ怖すぎ笑えない。