リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
あらすじ
なんか死ぬ一歩手前
「ええと……」
さすがに剣の切っ先突きつけられて冷静でいられるわけがない。頭の中は混乱状態だ。
正直異常だと思ったが、ここまでするほどに誕生日を無視されたことにはやては悲しみ、シグナムもはやての事を好きなのだろう。
しかし、その様子を見かねたのか、急いでそれを止めにかかるはやて。
「こ、こらっ、シグナム!」
「お止めなさらないでください主。これは我ら騎士としてしなくてはいけない吟味」
「吟味ってなんや、別に龍一は悪いことしてないはずやろ……」
口ではそう言うはやてだが、表面上に心当たりがあることがみてとれる。その焦燥は止まらない。それはシグナムの性格を分かって、今からすることがある程度予想がついているからかもしれない。
「問おう、貴様は主はやてをどう思っている」
「シグナムっ!」
それでも我慢ならなかったのか、はやては一際大きな声を上げる。
だが、それに対して、シグナムはなんの反応も示さない。また、他の騎士も同じだった。
異質な空気。周りの者も普段の空気を知っているわけではないが、雰囲気としては悪い方へ向かっていることに気付いてはいた。だが、それを止められるものは誰にもいない。
「……」
その中で中心人物ともなっている俺は考える。
ここから逃げ出す方法を。
()
否。すでに万策尽きて頭は空っぽになっていた。しているのは周りを観察するという現実逃避である。
「答えられぬか。つまり、主と仲良くしていたことなど知らないと?」
「そ、それはちが……」
「何が違うというのだ!」
絞り出すように答えた声も、一喝されて抑え込まれる。
すでに涙目状態だ。
空気が完全に淀み、停滞していた時、今までずっとはやての後ろにいた銀髪女性が一歩前に出てきた。
もちろん、シグナムの視線はそちらに移動する。
「私も、その男に対してはシグナムと同じ気持ちだ」
さも当たり前かのようにそう口にする。
ある程度分かっていたことのためショック自体はないが、なぜこの状況で出てきたのかが疑問に残る。
「だから……だ。主はやて、主はこの男の事をどう思いますか」
女性は振り向き、はやてから真正面で聞き手にまわった。
もちろんはやては、決まっているその答えを出す。
「か、家族や!」
俺自身としては、あまり言ってほしくなかった答え。
その理由は原作にかかわりたくなかったり、騎士たちが思ってたより怖いとかあるが、なにより、申し訳なかった。
だけど、それとは違う感情もあった。
嬉しい……という。
「それで貴様、主に対してどう思う。これでも、貴様にとってはどうでもいい人とでもいうのか」
「リインフォース、その問い方では、こいつが本当に思っていることを言わないのではないか?」
「主、こいつはそういうやつなのですか?」
はやてはその言葉に首を横に振る。信頼から来るものなのだろう、その否定はしっかりとしていた。
一方こちらの感情としては、流されやすい性格の俺に何を期待しているのだろうかと問いたくなる。
その信頼はいったいどこからきているというのだろうか。
「俺は……」
言い淀む。本心だけの返事ならば、決して明るいとは言えない返事になるから。
まさか家族とまで思ってくれていたことに感激はするし、嬉しくもあるが、大手を振って喜べるものではない。
考える。この状況を切り抜ける方法を。そして、自分の本心をさらけ出す方法も。
「……どちらにせよ、答えられぬという事は、主にとっていい人物ではないという事か」
シグナムは突き出している剣を引っ込める。
侮蔑。シグナムからはそれだけ感じられた。
ようやく逃げられるチャンスに、俺は安堵する……が、このままというわけにはいかないという事も、自分ではわかっていた。
だからこそ、そのまま部屋を出ていくときに、言った言葉はただ単に置き土産感覚。
「俺は、伝えたいことはすでにもう言っている……」
その言葉は自分にとって大したものではないと思っていた。実際、俺自身特にこれといったことを言っていたつもりはなかった。ただ、少しくらい都合よく解釈してくれないかなっていう考えがあっただけだ。
だからこそ、周りからすれば十分爆弾ともなれるものだという事に気付かなかった。
その爆弾は一生つき従う物。それに気づくのはまだまだ先。
龍一が帰ったことにより、空気自体がだいぶ緩和された。その中でシグナムは、いまだに龍一が去った後をにらんでいた。
「なんなんだあの小僧……リインフォース、確かお前はあいつの事を知っていたな」
「知っている……そんなものだ」
「ならばなんなのだ、あいつは。子供らしくない表情をしおってからに」
シグナムは始め気に食わないやつだと思った。それならばそれで良かった。だが、ただ問い詰めただけの時、奴の目はすでに諦観に満ちていた。泣き出すわけでもなく、ただあきらめた表情。
あれは近くにいたからわかるもので、おそらく、それを知るものはこの中にはいないだろうが。
「子供らしくない、か。それに関しては私も同じことを思っている」
リインフォースこそ、闇の書の騒動の途中、いくつか子供らしくないところを見てきている。シグナムの言いたいことはしっかりと伝わっていた。
だがリインフォース自体、あのような目は今までいくらでも見てきた。それも近くで。
だが、これ以上追及したところで、あいつのことが分かるわけではない。この話はここで打ち止めとなった。
「ザフィーラ、シャマル、ヴィータはどうなのだ。あいつを許すのか?」
シグナムは今まで話に入ってこなかった三人を見渡す。
言葉は、先ほどから見守るだけのザフィーラ、居づらそうにしているシャマル、めずらしく話に入らないようにしているヴィータに向けられた。
「……シグナムほどではないが同意見だ。だが、彼を責める気にはならない」
「あの子をそこまで恨めないわ。彼は悪い子ではないから」
「あたしはりゅうを友達だと思っている。友達なら、信じてあげなきゃな」
三者三面の言葉。
その中でもシャマルとヴィータは一際感想が違った。
「二人は龍一のことしっとるん?」
「ええ」
「ああ」
はやての問いかけに、シャマルとヴィータは同じ答えを返す。
少しばかりだが、懐かしい思い出ともなる二人。
シャマルは主に対して悪いことをした奴だとネタばらしされるのが初めてだというのに、龍一に対して悪い感情を抱きそうも無い。その様子は、先ほどから龍一を攻めようとする心意気のなさですでに周りから気づかれていた。
シグナムはそれがあまり気に入らなかった。
「なぜ、あの子供を許そうと思うのだ」
つい、シグナムは言ってしまった。まぎれもない本心であるその一言。
結局のところ、不思議でならなかったのだ、主を泣かせた奴を許す空気になっているのが。
「はやてちゃん自身、あの男の子を恨んではいないから。それどころか、あの子を家族とまで言っている。私は、彼が本当にはやてちゃんを泣かせるためだけに逃げたとは思えないわ」
「あたしもシャマルと同じ意見だ。それに、今思えばあいつははやての事をよく気にかけてた」
「なんやて?」
その言葉を目ざとく聞きつけるはやて。今の言葉は寝耳に水と言ったところか。
だがその答えを聞くまえに、シグナムは苦虫をかみつぶしたような顔で部屋を出て行った。
「だ、大丈夫なの?」
今まで話に入ってこれなかったなのはがはやてに聞いてみる。今出て行ったシグナムが気になるのだろう。
「シグナムも、頑固やからな」
はやてはそれにこたえる。誰が悪いわけではないというように。
そうして、先ほど龍一が放った言葉を脳裏に浮かべる。
彼はすでに言っていた、と口にしたはず。
ならば、その口にした場所は闇の書の中のはず。
(ずっと一緒に過ごしたい、か)
その言葉ははやてにとって思い描いていた生活が実現することを想起させた。
(ところで、龍一が何やったか聞くのは……)
(今はやめときなフェイト。後でゆっくり聞けばいいさ)
その中でフェイト、アルフと念話をしていたのだった。