リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
なんだかんだではやて家。
おそらくこの後、壮大なネタばらしが来るのだろう。その前にヴィータに対して釘を打っておくことにした。
「ヴィータ、俺が魔法を使えることは秘密な」
周りに聞こえないように小声で話しかける。
ヴィータはその言葉に少し首をかしげた後、ハッと思い出したような表情を浮かべる。
「……そうだよな。あたしが巻き込んだせいであんなことになったんだし、これ以上は関わりたくないよな」
ヴィータの言ってることは正解なのだが、どうにも空気が悪い。実際に悲しげな顔してるし。
なんかフォローをかけておかないと、後々なんか来そうな気がする。主ならずヴィータまでも、とか言って銀髪のあいつが報復とか仕掛けてきそうだし。
「と、友達付き合いくらいならするぞ? ゲートボールとか」
「ほ、ほんとか……?」
不安げな瞳を揺らし、いつもよりも小さく見える少女は声を震わせながら聞いてくる。
「ああ、もちろんさ」
そんな状態のヴィータの言葉を断れるわけがない。というか、流石にこれを断ったら人間としてどうかと思う。
……なんか、追い詰められてるなぁ、俺。
「じゃあ、今まで私たちがやってきたこと……説明するね」
始まった魔法講座。やはりこうなったか。
ちなみにこの説明、どうやらフェイトの母親かららしい。
フェイトが実はクローンだの、はやての闇の書が次元を滅ぼすだの、なのはは魔王だの。……あ、いや、最後のは俺が勝手に付け足しただけだぞ。
とにかく、全ての説明を受けたが、敢えて言おう。
ねーよと。
「……ねえ、龍一は信じるの?」
急にアリサが声をかけてきた。やはり、突然こんな説明を受けて困惑しているのだろう。
前々から魔王が何をやっているか気になっていたものの、その返答がこんな真実かどうかわからないはちゃめちゃワールドなもんを聞かされて納得するわけがないよな。
「あたしは……信じるわよ」
……え?
「すずかもそうでしょ?」
「うん。実際に昨日起こったことを見ちゃった身としては、信じないわけにはいかないよ」
まさか、この二人は巻き込まれていた? 昨日のあれに? つまり、こんな説明をしなくても二人には必要なかった。
だとすると、主に管理局員が(多分)いない独特の人数の集まり方……ハッ、もしや……
「龍一、あんたはどう思うの」
これは俺に対して集中攻撃をしている!?
いそいで視線を魔王に移す。その眼は不安げではらはらしたような目。
次にフェイト。何を考えているのか分からないが、視線があった瞬間ニコリと笑顔を向けた。
その隣のはやて。なぜか手を振る。
みんなこっちに視線を向けている……やはり、これはすべて計算された出来事だというのか!
「龍一、なにあんた視線をさまよわせているの」
アリサに肩を揺さぶられる。
「さすがに驚いた? 魔法なんてものが実在することに」
「しょうがないよね。わたしも最初聞いたときは驚いたもん」
アリサの言葉にすずかがフォローしてくれる。
だが、欲しいのはそんなフォローではない。
(考えろ……もし認めてしまった時の場合を)
魔法ってあるんだ → 龍一君もやってみる? → 魔法使えるんだ → 管理局へ
……いやいや、まさかこんなあっさり行くわけがあるまい。もう少し現実的にだな……
魔法ってあるんだ → あ、龍一くんから魔力反応が → デバイスを持っている? → こんなところにロストロギアが → 逮捕
余計危ない方向にいっちゃったよ!? 自分で忘れてたけど、なんでジュエルシードを持ちっぱなしなの!?
なんて、一人で考えてつっこむ。
とりあえず、ここで魔法を認めるという選択は後後自分の首を絞めることになりかねん。
つまり、ここでの最善は意地を張ること。
「ま、魔法なんてありえねーっすよ」
「えっ……」
なんか変な口調になった。
しかも、魔王がなんか寂しそうな顔している。おいその顔やめろ。隣のアリサからすごい怒気を感じるんだぞ。
そう心の中で怒ると、気を取り戻したのか再びチャレンジを仕掛ける。そこであきらめる魔王ではなかったということか。
「じゃ、じゃあこれを見て! レイジングハート、セットアップ!」
どこからともなく返答の声が聞こえ、目の前で魔王の服が変わっていく。
もちろんそれに対して俺は……
「ど、どうかな?」
「ごめん、うたたねしてた」
見なかったことにした。
またしても寂しそうな顔を向ける魔王。いよいよ隣のアリサから感じる怒気も殺気に変わってきた。
しかし、ここであきらめないのが魔王としての性か。今度は何か魔法を唱えようとしている。
「バインド!」
両手両足がっちり固められる。
確かに、こんなものを見せられては魔法であることを認めざるを得ないだろう。
だが同時に、逮捕の危険が迫っている人間はこんなところであきらめるわけにはいかない。
「わ、ワイパーか何かかな?」
「龍一、それをいうならワイヤーや」
「そうでした間違えました!」
はやてからのつっこみに恥ずかしさを隠しながら返す。
しかし問題なのは魔王だ。先ほどよりも落ち込みが激しく、隣から発せられるアリサの気迫も殺気だけになってしまった。
「あんた……」
ついにその堪忍袋の緒が切れたようだ。
ゆらりと立ち上がり、虫くらいなら視線で殺せそうなほどの力で睨んできた。
恐怖に歯が鳴りそうになるのをぐっと抑え、あわてて言い訳を述べる。
「あ、アリサはまお……高町さんが魔法使えるからって何か変わるの?」
「そんなわけないじゃない」
「だったら、別に魔法が使えても使えなくても関係ないじゃないか。高町さんとフェイトが友達だってことは変わらないんだから……あ」
うわ、ついつい友達とか言ってしまった。もしかしたら、俺の事をただのクラスメイトとしか思ってないって可能性もあるのかもしれないのに。
「えっと、クラスメイトだってことは変わりないんだから」
「そこは訂正しないでほしいの」
魔王からの忠告。
そうは言われても、実は俺自身友達だなんて嫌なんだけれど……いや、どんな奴でもいるといないじゃ別だよな。うん。
「……ごめんなさい龍一。そうね、そういうやつだったものね」
アリサはなんとなく失礼な言い方で謝ってくれた。
とりあえず、魔王は納得しなさそうな顔をしているものの、魔法についての話はここで終わりらしい。
しかし、問題はこの後だ。
予想できることは、この後何らかの形で集まりとしてこの集団が固定されてしまうことだ。
そうじゃなくても、ヴォルケンリッター……特にピンク髪の女性と銀髪の女性からは敵意のものを感じられる。この場にいてみたいなんて思うはずがない。
ならば、俺がこういう場面でする行動は決まっているだろう。
「それじゃあ」
片手をあげて立ち上がり、その場を去る。自然に、何もおかしいところはなく。
周りもさすがに動きを止めている。
それもそうだろう、いきなり立ち上がって「それじゃあ」だけしかいわず去ろうとする人がいれば、行動に不思議に思って観察にまわる。
これこそが、俺の逃走術の一つ、相手を受け身にさせるものだ。ちなみに、コツはツッコミが来る前に素早く離脱すること。
それは、このまま作戦通りに行くかと思われた……その時。
「待て、まだ我々からの話を聞いてないぞ」
その行動はシグナムによって止められた。
背中に感じるのは、先ほどからずっと受け続けていた殺気。それと、なんとなく感じるちくちくしたもの。おそらく剣の切っ先。
「もともと我らにとって、お前が魔法を信じるかどうかなど関係ない。ただ、我ら主を悲しませた罪は償ってもらわねばならん」
流石騎士というべきか、その声の張りは凛としていた。