リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
五月、いまだに友達ひとりできないという悲しい事実が出来上がった。
昼食じゃ寝たふりをして、給食時間では俺だけ会話に入れず一人さみしく給食を食べる。
流石に小学校一年生ということがあるからか、それともいい子ちゃんが集まるお嬢様学校だからかいじめはないが、いつも一人机に座っているだけだと流石に周りの空気もとても悪い。
そういうことから、俺は一つの方法を思いついた。
図書館。
来て早々図書カードを作ってもらい、面白そうな本を探す。
そう、俺は学校で読むための本を探しているのだ。
一般的に、ボッチはあまり良い聞こえ方はしないが、文学少年ならどうだろう。
いい方的にはそっちの方がいいし、見た目もそっちの方が良い。
一人だという孤独感も薄れさせて、それこそ一石二鳥ともいえるだろう。
もう一つ言えば、俺はこうやって本を探す時間も好きだったりする。
もしかしたら、今まで見過ごしていた面白い話や、意外な展開になる話などを見逃していたりすることだってあるかもしれない。
こうやって時間を潰していくのは、周りからは無駄だと思われるかもしれないが、自分にとってかけらも無駄だとは思えない。
つまり、俺は図書館が好きなのだ。
図書館に来たのは初めてではないが、こうやって借りる本を探すのは初めてだ。
なるべく、長い本をと思って探していると、隣で椅子に座って本を取ろうとしている女の子がいた。
いや、正確に言えば車いすに座って……だ。
少女の先にある本は、座っている状態からでは到底とれるものではない。
俺はおせっかいだと思いつつ、少女がとろうとした本にあたりをつけてとってあげた。
少女は目をぱちくりとさせて、本を取った俺を見た。
「はい。本」
少女は本を受けとり表紙を見た。
お礼はいい、そうかっこつけようとしたとき、少女から先に声がかかった。
「これ、私が見たい本とちゃうんやけど」
俺は素早く本を取り換えし、おさめて別のを差し出した。
「これは!?」
「いや、さっきの隣やねんけど」
また本を戻し、先ほどの隣から取り出す。
「こ、これは!?」
「いや、逆」
とどめと言わんばかりの声に、言われた本を取り出し差し上げた後に逃げた。
恥ずかしさを隠すために。
家に帰ったときに気付いた。
「俺、本借りてないじゃん」
逃げた後では心苦しいので、少したってから行くことにする。
夕方・図書館。
夕方とはいうものの、閉館時間ぎりぎりだ。
さすがに帰っているだろうとおもってきたが、見事に予想を裏切られる。
「お、またおうたな」
更に見つかった。
恥ずかしさは引いているが、あのことがなくなったわけじゃない。
というか、なんでこの子はまだここにいるんだ。
もう日没前だぞ、閉館前だぞ?
「さすがに帰ったんだと思ったんだけど」
「もうそろそろ帰ろうと思ったとこやで。そっちこそ、こんな時間に来るなんてどうしたん?」
「借りようと思ってた本を借りてなかったことに気付いただけだよ」
「顔真っ赤にして逃げよったからや」
ニシシと笑うその姿に、何も言えなくなる。
その時、何か違和感が出来たからだ。
「ほら、そっちもさ、心配する人とかいるんじゃないの?」
「心配する人? なにいうてんねん。そっちもやろ」
……わかった。この女の子が、なんなのか。
俺はあまり人の機微に敏感なわけじゃないが、こういう人の場合すぐにわかることが出来る。
このこも、一人だということを。
あまり笑うことに慣れてない表情。
それは、この子があまり人と接していないということを如実に表している。
そのどこかさみしそうにする姿に、俺とは違う環境であることが分かる。
本当にひとり、俺にはそう思えた。
図書館の本棚の前。
俺は女の子とともにここに来ていた。
それは本を借りるためで、ちょっと他にも意味があったりする。
「ええんか?私が選んで」
「うん。よく本を読んでるんでしょ。だったら、そのおすすめから選んでくれたらいいなって」
「……嫌とかいうの無しで」
「わかってる」
そういって見せてきた本は、ガチガチの純文学。
ページ数、実に三百ページほど。
……この女の子、俺とそう変わんないよな?
焦る心を表に出さないようにして、俺は女の子が差し出してきた本を受け取って「ありがとう」と告げた。
実のことを言うと、本を選ばせたのは共通の話題を増やすためだったりする。
口下手な俺は、一言目にはどもり、二言目には噛み、三言目には混乱する。
それを防ぐためには、事前に話題を用意しておき、それについてしゃべるというのがとても良い方法だ。
……急に別の事を言われたら、さっきみたいなことになるけどな。
とにかく、俺がこういったのはこの子と友達になりたいがため。
会話の量が多ければ、自然と良い関係になっていくものだと思っているから。
その日が早く来るようにするためにも、さっそく今日から読み進めようと思う。
「三日で読んでくるよ!」
「速読でもしてるんか?」
少し奇妙な目で見られた。