リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
あんな大変な事件から一日たった。
銀髪のお姉さんに襲われたり、ヴィータに助けてもらったり、ナハ……なんちゃらとの決戦に勝ったらしい昨日の出来事。あくまで夢の出来事だと思うことにした。
だって、あんな恐ろしいことを覚えていたいわけがないし。
帰ってきたらいつも通り父に泣きつかれたりなどいろいろあったが、それらもすべて昨日の事だ。
「それにしても、いい本無いな……」
ちなみに俺は図書館で本を探していた。
昨日あんなことがあったのに、何のんきに本を探しているんだと自分でも思う。だけどどちらかといえば、何もしていないほうが個人的に嫌なことを思い出すので、適当なものでもいいから本を読んでいた方が有意義だった。
後悔も朝にしたので気分転換である。もちろん、アリシアは親もいるので会話以降押し入れに入れて放置だ。
「友達がいないときの友だよ……本当」
前世を思い出して多少げんなりする。
今の人生はそれこそリア充そのものだが、本来大体の人間は小学生時代などこんなものだろう。小学生の時から虐められるとか、それなんて俺。
……やめよう、本当に泣きたくなってきた。
「お、いい本見っけ」
そうして手を伸ばすと、誰かの手と当った。
急ぎ、大きくなり過ぎないような声でその人に頭を下げる。
「す、すみません」
「こちらこそ……って、龍一君?」
聞いたことのある声。
顔をあげてみれば、そこには驚いたような表情をしているすずかの姿があった。
「あれ、すずかちゃん? どうしてここに……」
そこまで言ったところで、俺は肩を捕まえられた。
振り向けばそこにはアリサの姿。
「久しぶりね、龍一」
その表情、明らかに怒っている。
危ないことにはかかわることなかれ。すぐさま逃げようとしたところ、動き出すよりも早くアリサの手が首根っこを掴んできた。
「へぇ、逃げるなんていい度胸してるじゃない」
鬼だ……鬼がいる……
それこそ般若のようにも見えてきたアリサは、そのまま俺を引きずっていき、図書館から連れ出そうとする。
このままではやばい、そう感じた俺は急いで言い訳を考える。
「二人とも、申し訳ないのだけれど、俺にはやることがあってですね」
「あら、用事があるのが分かってるのなら、話は早いわね」
ニコリと顔だけ笑い、それについていってない眼。
この瞬間、悟った。
こいつに何言っても無駄だなって。
結局俺は、何の用事かわからぬまま連行されることになった。
辿り着いたのははやての家。
昨日家に入るときに使った合鍵はちゃんと戻しておいたし、用事なんてないだろう。
……はやてのことについてだったら、襲われる前に逃げるぞ。マジで。
俺の家と同じようにインターホンを押す。ちなみに押しているのはすずかだ。
なんかもう、そのしぐさだけでアリサと格が違うことを実感させられる。
「……なに」
アリサからすごい眼光で睨みつけられた。その眼はまるであんたの考えていることなんて、すべてお見通しとでもいうような感じのもの。
……いやまあ、多分本当にバレバレなのだろうと思う。すずかをみてからアリサを見たわけだし。
ちなみにそんな現状を内心確認してはいるが、外面では眼光に対して恐怖に打ち震えているだけだったりする。怖いんだから仕方ないじゃないか!
そんなことを考えていたら、ドアの扉が開いた。
「お待ちしておりました。どうぞ、入ってください」
出てきたのは、昨日散々俺に向けて殺気を放ってくれた女性だった。
俺のほうをちらりとも見ない……いや、気のせいか眼光炯々とみられている気もする。
そんな視線を向けているようには表面上は見えない。おそらく気のせいだろう。気のせいということにしておこう。
「すみません、遅くなってしまって」
「そもそも、こいつがいちいち抵抗するからよ」
すずかはおとなしく頭を下げ、アリサは俺に責任を押し付けるかのような言葉を吐く。間違っていないので訂正はしない。
そのまま、アリサに引きずられるようにして家に入った。
実はこの時点で俺の豆腐メンタルはすでに砕けかけていたのは秘密。
「おお、龍一久しぶりー!」
「グフゥ!!」
ドアから入った瞬間、はやてが突撃してきた。車椅子の状態で。
そんなのをくらってしまえば、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。
膝に大きなものを強打した俺は崩れ落ちるように倒れた。
「りゅ、龍一!」
はやてが心配そうな声が聞こえるが、原因はお前だ。そう突っ込みたいが、痛みで声を出す気にもなれない。
ちらりと周りの様子を確認すると、銀髪の女性が嘲笑していた。
うぜぇ……
「お? なんだなんだ?」
「どうかしたの?」
そうしていまだにうずくまり、周りが動揺しているときに魔王とヴィータが来た。
あ、魔王って名称使うの久しぶりな気がする。
「龍一? 何そこでうずくまっているんだ」
ヴィータは膝を押さえている俺に近寄り、声をかけてくれた。
そんなヴィータに、なのはから質問がとぶ。
「あれ、ヴィータちゃん、龍一君と知り合いなの?」
「ゲートボール仲間だな」
下手なこと言わないかひやひやしていたが、確かにそうだと言える回答を返してくれた。
いや、魔法使えるってばれたら怖いじゃん。なんか管理局の奴もいるらしいし、何が起こるかわかったもんじゃない。
そろそろ動けるくらいには痛みが抑えられてきたので、よろよろと立ちあがる。
「だ、大丈夫なんか?」
はやてが背中をさすってくれる。
痛いのは膝なので、背中さすっても意味はないのだというツッコミは抑え、はやてには親指を立てて返事を返してあげた。
「そ、そうか? ほんと、堪忍な」
「龍一君、肩かしてあげるよ?」
はやての謝罪……いやまて、堪忍て謝罪じゃないような……はともかく、すずかは気を使ってくれて、手を取ってくれた。
女の子に助けてもらうのは情けないと思うが、意地張る場面でもないのでおとなしくその言葉を受け取ることにした。
そして移動する部屋。
そこにいたのはフェイト、シャマル先生、ザフィーラ、シグナム、まさかの犬耳女性、なんか動物に変身してそうな男の子だった。
はやての家にこれくらい人数が集まることに驚きを覚え、更に嫌な予感がこれ以上ないくらいにしたので、膝の痛みなど忘れて全力逃走する。
「はやて、友達いっぱい増えてよかったな!」
そう言っていそいで玄関を開けようというところで、なぜかドアが開かない。
振り向けば、ドアに向かって手をかざす女性が一人。
「主が悲しむので、逃走は許さない」
こいつ……! 魔法を使いやがった!
いや、ちょっとまて。こいつ今堂々と魔法を使ったな、すずかやアリサの前で。
(この集まりはばれてもいい……いや、魔法という存在をばらすための集まり? だとすれば、このままここにいてはまずいことになる)
いつも以上に回転する頭脳。嫌な予感はきっちりと当り、それが余計に焦りを助長させる。
まったくもって無駄なところでしか頭が働かない。
とりあえず、現在逃げるすべがないのならば、チャンスがくるまで我慢するしかない。
こうして、いかに魔法についてを誤魔化すかの長い一日が始まった。