リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第四十八話 闇の書の事後

 一日たって思う。あの事件は俺の何かがおかしかったと。

 

「なんてもんだったらいいんだけどね……」

『そうだね。ちょっと、わたしも聞いてみたいことが多いし』

「はい……」

 

 少し怒っている様子のアリシア。自分の知らない場所で、持ち主が死にそうになっていたのだから気持ちは分からなくもない。

 

「アリシアは何が聞きたいんだ? 俺の事なら大体話しただろ」

 

 なんやかんだではやて家で料理を作っていた時、アリシアを手放していた時の出来事を話している。他に俺に聞きたいことなど、いつものようにハッキングすればいいのではないだろうか。

 

『今は事後処理の途中だろうし、下手にハッキングはしないよ』

「なんでわかった」

『そんなことよりも聞きたいこと。実はね、私さっきフェイトと会ったの』

「……はぁ?」

 

 いきなり荒唐無稽なことを言ってくるアリシア。ついに壊れたんじゃないかとすら思う。

 そんな憐れんだ目に気付いたのか、アリシアはコアを光らして怒鳴る。

 

『嘘じゃないって! ……それでも信じないのなら、それでもいいけど』

「ごめんごめん、信じるって。それで、どうかしたの?」

『フェイトは、笑ってた』

「……え?」

 

 不思議と、見えた。

 アリシアとフェイトの会話が。

 

 

「アリシア、わたしは今の生活が楽しい」

「そうなの?」

「闇の書の中の夢は確かに楽しかった。お母さんが優しくて、リニスもいて、アルフにアリシアもいる」

「でも、それよりも現実の世界の方がいいんだよね」

「うん。なのはがいて、アースラのみんながいて、学校の友達がいて……わたしの事を気にかけてくれる人がいる」

 

 そこまで伝えると、アリシアの体は消えていく。

 もう思い残すことが無いかのように。

 

「……じゃあ、さよならだね」

「アリシア、ごめんね」

「謝らないで。それに、いつか家族三人……ううん、四人で過ごせる日が来るかもしれない」

「四人?」

「それまで我慢。だからね、そんな未来が来るよう、頑張って、フェイト」

「……分かった。そういうことなら、またね……かな」

「うん、またね、フェイト」

 

 その言葉を最後にして、フェイトの夢は覚めた。

 

 

「! っと」

 

 同時に、目の前の幻覚のようなものも消えた。

 何が起こったかわからなかったが、アリシアが見せたかったものは分かる。

 

「今のが、フェイトとの間に会った会話か?」

『いつかはわからないけど、お兄ちゃんの言う闇の書との戦闘の途中の出来事だと思う』

「そうか……」

 

 フェイトもだいぶ母親からひどい扱いを受けていたっていうのに、明るい幻想よりもそういう現実を選ぶか……

 

「強いな、フェイトは」

『フェイトはみんながいるからって言ってたけどね。お兄ちゃんだって、変わってきてるよ』

「へえ、言いたいことってのはそれ?」

『まさか、わたしがいちいちお兄ちゃんを褒めるためにこの会話をしたと思ってるの?』

 

 思わないけど、その言い方はひどくありませんかね。

 

『わたしが聞きたいことは、この時どこにいたの?』

「どこって……」

『わたしだってさすがに、幽霊というわけでもないのに闇の書の中に現れるわけがないよ。なのに、事実わたしはそこに現れた。……だとすると、お兄ちゃんが何かをしたとしか思えない』

「とは言ったって、別にその時は何も……」

 

 そうやって、前日の一連の流れを思い浮かべる。

 昨日しばらくは、あの女性の中でどういう理屈かは分からないけど眠っていたはず。なのにアリシアは俺が何かをしたか……

 

「……いや、俺も闇の書の中にいた。だがそれだけだ」

『多分、それ』

 

 短い返答。それといわれても、闇の書の中にいたのに理屈が分からない。

 まあ、少しおかしいくらいが魔法なんだろうけど。

 

『もしかすると、お兄ちゃんはレアスキルみたいなものを持ってるのかもしれないね』

「レアスキルとな」

『そういう検査はわたしできないから、管理局に聞いてみたりとかしなきゃ分からないけど』

「それならわからなくていいや」

 

 返答が分かってたかのようにアリシアは苦笑する。

 レアスキル……なんだかヤバそうな字面だ。

 

『でも、闇の書の管制人格は可哀想だったね』

「なんで?」

『言わなかったっけ。彼女、もう魔力が回復する機能がないみたいなんだよ』

「……え?」

『多分、半年……長くても一年生きれるくらいか』

 

 あいつが、俺をさんざん敵としてみてきたあいつが一年の命……アリシア母みたいなことなら喜んでいるけど、さすがに亡くなることを喜ぶことは出来ない。

 なんだかんだ言って、公園に飛ばしてくれたおかげで魔王たちに会わずに済んだのだし、本当に悪いやつというわけでもなさそうだった。

 

「……」

『……まったく。とりあえず、魔力の循環機能くらいは考えておくよ』

 

 アリシアの言葉。

 ちゃんとした意味は分からなかったが、いくらか、救われるところもあった。

 また、それが簡単にできるわけはないという事もある程度予想もついた。だから、おとなしくお礼を言っておく。

 

「……ありがとな」

『完成は期待しないでね』

 

 闇の書の事件は、こうして終わりを告げる。

 


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