リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第四十七話 集団帰宅

『ナハトヴァールの消滅を確認……お兄ちゃん、勝ったんだって』

「そっか……」

 

 はやての家にてちょうど料理が完成したとき、アリシアから勝利報告が来た。

 不思議と喜びはわかなかった。ただ、なんなのかわからない感慨深さだけが残った。

 出来上がった料理をテーブルに並べ、軽くラップをかけておく。

 それを淡々とこなす様子の俺に、ある程度予想をついているだろう質問。

 

『お兄ちゃん、この後どうするの?』

「帰るよ。料理もできたことだしな。今回は冷めてもおいしいものを作ったから、少々遅くなっても大丈夫だろう」

『……会わないの?』

 

 アリシアから咎めるような声。

 本来なら、そうした方がいいのかもしれない。だけど、そういう気にはやはりなれなかった。

 

(だって、銀髪のお姉さん怖いんだもん)

 

 他にも、ヴィータからはああやって受け入れられたけど、ぶっちゃけシグナム達の反応も怖い。

 下手すりゃ出会いがしらに切られるぞ。

 もし会うとしても、アリシアを持っている状況だけはありえない。少なくとも今日はさっさと帰らなければならない。

 ともかく、俺はそそくさとはやての家を出て行ったのだった。

 

 

 

 

「お願いします!」

 

 所変わって、戦艦アースラ。リンディはいきなりの事にとまどっていた。

 闇の書の防衛システムであるナハトヴァールを破壊し、その協力者を全員呼んで数分、今回の事の中心人物でもある八神はやてがついたとたんに土下座して外出許可を頼み込んだのだ。

 長年職業に就いていたが、さすがにこういうことが無かったリンディは戸惑に加え、更に戸惑いを禁じられなかった。

 

「え、えーと、さすがに事情聴取くらいはしないといけないのだけれど」

 

 しかしここは年の功、なるべく冷静を外面では装いつつ、事の鎮静化を図る。

 

「それやったらすぐに帰れますか」

「それはさすがに分からないけれど……」

「少しだけでいいのでうちへ帰らせてください!」

 

 再び深々と頭を下げるはやて。

 リンディはしばらくしたら辞職しようかと考えるくらいに現実から目を逸らす。

 

「艦長、さすがにこれくらいの子に頭を下げさせ続けるのも……」

「そ、そうね」

 

 息子に諌められ、咳払いをして冷静を取り戻す。

 そして、頭を下げ続けるはやてに声をかけようとしたところ、帰ってきた他の騎士たちも出てきた。

 説得に手伝ってもらおうと、渡りに船のような気持ちだったリンディだが見事に裏切られた。もちろん、悪い方向に。

 

「あんたが偉い人なんだよな! お願いだ、少しの間だけでいいからはやての家へと戻らせてくれないか!?」

 

 同時に土下座しにかかった八神はやてと同じくらいの背丈の少女。

 リンディはとても泣きたくなった。

 流石に状況を見かねたリンディの息子は、二人に声をかける。

 

「はぁ……しょうがない、ちょっと待っててくれないか。さすがに君らだけで行かせるわけにはいかない」

「それって……」

 

 大手振って喜びの声を上げる二人に、ついていけない他の騎士。

 リンディの息子自身もさすがにまとめられる自信が無くなったところに、ちょうどなのはたちも帰ってきた。

 同時、この場にいる他の人と同じような錯覚に見舞われる。

 

「えっと……どういうこと?」

「僕にも説明できないよ……」

 

 リンディの息子も、早くこの場を逃げ出したい気持ちでいっぱいだったため、手っ取り早く用件だけを言いうことにした。

 

「帰ってきたところ悪いんだけど、監視を兼ねてこの子たちについて行ってほしいんだ」

「この子って、はやてちゃんたちに?」

「ああ。こっちはこっちでやることがあるから、キミたちに頼むしかないんだ」

「わかったの」

 

 疲れたようにすごすごと艦長室に戻っていくリンディとそれに付き添う形の息子。その背中に香るのは、残業帰りのサラリーマンのような空気。

 そんな微妙な空気が流れる中、なのはの横から聞いたことのある声がかかる。

 

「なのはちゃん!」「なのは!」

 

 なのはがその声の主を見れば、学校の親友二人の姿だった。

 

「アリサちゃんにすずかちゃん!? どうしてここに……」

「それはこっちのセリフよ! なんでこんなことになってるのよ!」

 

 アリサとすずかがそこにはいた。二人はこの闇の書事件に巻き込まれていたのである。

 巻き込まれたと言っても、結界の中に入り込んでしまったところ、なのはとフェイトの二人に救出されたというだけだが。

 だが、そのせいで闇の書との戦いを目前にすることとなってしまった。

 殆どばれているとはいえ、このことはだいぶデリケートなことである。きちんと理由を話したいなのはであるが、情報の取捨選択が出来ないため口ごもる結果となる。

 そのようになのはは言いづらそうになっていると、その間の空気を割くようにはやてが入り込んできた。

 

「積もる話もあるやろうし、わたしのうちにきてや。それからでもええやろ」

「そうだよ二人とも。忙しそうにしているのにずっといたら、さすがに迷惑になっちゃうよ」

 

 アリサはそういわれ、一理あることを考えると、それに賛成する。

 すずかの援護もあり、はやての家に行くことは即決となったのだった。

 

 

 

 

 はやての家につくこと早速、はやては飛び込むように家の中に入る。

 はやての移動はもっぱら誰かに運んでもらうか、魔法で移動するかのどれかであるが、ついた途端に魔法を使いだしたのだ。

 運んでいたリインフォースからすれば、数時間前に魔法を使ったばかりとは思えないような速さだったという。

 ともかくとして、六人の少女と三人の女性、そして居づらさを感じたのか犬状態になった男一人ははやての家になだれ込んだ。

 

『人数が多くなるような予感がしたので、少し多めに作っておきました』

 

 はやてたちが最初に目にしたのは、そう書かれた手紙に数々の料理。

 まだ冷めきっていない料理の存在から、はやてはついさっきまで龍一はいたのだと感じさせられた。

 

「……少し、遅かったなぁ。まあ、家族ほっとくのもなんやし、今日のところは許そか」

 

 その言葉は誰に向けられたのか一部の人は除いて分からなかったものの、だれもつっこむようなことはしなかった。

 実際、はやての言葉よりも、目の前の料理が気になっている人が大半だったためだ。

 

「はやてちゃん、これは?」

 

 この中でもはやてと仲が良いすずかが、目の前のテーブルに広がる料理について聞く。

 はやてはその料理に対して、こう告げるだけだった。

 

「うちの大切な家族が作ってくれたものや」

 

 

 その後、席に座り冷えつつあった料理に口に運ぶ面々。

 おいしいと、誰もが思う料理。事前情報もなしに、その味にピンときたものがいた。

 その者は、ただ気づいただけでそのことを誰にも知らせようとは考えない。

 ただ、一口食べた瞬間に、いつもの感想がわいただけ。

 

(これ……本当の料理)

 

 地球に来て初めて食べた料理の味は、今もフェイトにしっかりと理解をされていた。

 


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