リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
暖かい風。
その暖かさにつられるよう、己は覚醒を果たしていく。
「あ、おきたか」
「! りゅ、りゅう……」
目の前にいたのは、意識を失う前に考えていた男の子だった。
廃ビルにて倒れていたヴィータを起こす。
方法としては、一度家まで帰って、魔力の扱いに長けているというアリシアを持ってきて回復できるようやり方を教えてもらった。結局、ほとんどアリシアがやったけど。
……万能だな、アリシア。
「な、なんでお前……痛っ」
勢いで起き上がり、傷に障ったのか顔をしかめるヴィータ。
「あまり無理するな。あくまで回復させたのは魔力だけ。傷自体は治っているわけじゃない」
「こんなのかすり傷だ……それより、今はどうなっている。あたしが気を失っている間に、何があった」
「……管制人格と会った」
その言葉を聞いてヴィータが沈痛な表情をした。
こんな形で巻き込んだことに対してなのか、全てを知られてしまったことになのか、それは分からないが。
「りゅう……一つ聞いていいか」
「答えられることなら」
「りゅうは、あの龍一なのか」
あの、というのはおそらくはやての事だろう。
直接話に加わってないあの女性があそこまで怒っていたのに、ヴィータがその名前に対して何も思わないわけがない。
素直に教えるか、隠すか……
「……ああ、そうだ」
……なんて、悩むことでもない。
ヴィータが激怒したとて、当の本人からはすでに許してもらっている。
今ここで一発殴られるようなことがあったとしても、あの女性のように殺しに来ることは無いだろう。
……ヴィータとの絆はなくなるかもしれないが。それもまた、良いのかもしれない。元々、原作キャラとは付き合わないつもりだった――
「りゅうっ!」
突然、声を上げて抱きしめてきた。
だれがだれを? ……ヴィータが、俺を。
「なっ、なんでっ」
驚愕のあまり声が裏返る。
ヴィータは俺のそんな様子に全く気にかけず、むしろ抱きしめる力を強くしていく。
「あたしが、りゅうを責めれるわけがない。こうなってしまったのは、あたしに責任があるからだ」
「ば、馬鹿! 違う、ヴィータは何もしていないじゃないか」
「りゅうとはやてを引き合わせてしまった。……あれが危ないって気づいていたんだろ、りゅうは」
その言葉は確信を持っていったセリフではないだろう。
だけれど、間違ってないその言葉を否定するほどの根拠はなく、図星を言い当てられたかのように押し黙ってしまった。
「……やっぱり、そうだったんだな。すまん、あたしがいつまでもお前と会い続けていたから……友達でいたいと思ってしまったから……」
懺悔するように肩を震わせるヴィータ。
それは、俺が今まで見てきた中で、一番弱弱しいものだった。
「……また、一人に戻るだけ……」
そうぽつりとつぶやいた瞬間、俺の中で何かがはじけた。
「ヴィータは一人じゃないだろ!」
「なんでだよ! シグナムにシャマル、ザフィーラは消えた! 仮面の奴らによって! はやてだって、闇の書に取り込まれてしまった!」
「まだ終わったわけじゃないだろ!」
「あたしはみてきたんだよ! 闇の書が暴走するところ、そしてそれがどういう結果になるか! りゅうもいずれ闇の書の手によって……!」
叫び声をあげて、涙まで流して、ヴィータは悔やんだ。蒐集をした結果が、こうなってしまったのだから。
……だけど、まだそれは早とちりに過ぎない。
俺は嘆きの声を上げるヴィータを逆に強く抱きしめ返した。
「懺悔の言葉を吐くのはまだ早い。まだヴィータにはやることがあるだろ。まだ、救えるものもあるかもしれないだろ」
「え……」
ヴィータは何かを感じ取ったかのように、頭に手を当てた。
いや、実際にかかっている。実は先ほどはやてたちと別れる前にしばらくたってから念話をかけるように言っておいたためだ。
しかし、図ったかのようなタイミングで念話かかったものである。
そして、その話は少し前に戻る。
脱出前、外の様子を教えてもらった俺は、どうしようか悩んだのだ。
(普通にやばい状態なんですけど、逃げてもいいですよね)
やはりだが、いつも通りの思考に陥る。
このままついて行ったところで手伝えることなんて何もない……ああ、ジュエルシードを使えばそうでもないか。
だけど、あそこには管理局もいるんだろ? そんな中で使うとか自殺に等しいぞ。
しばらく考えた末――
「じゃあ、はやて。俺は家に帰ってるから」
やっぱりこういう決断になるわけです。
「せやな、龍一はうちに帰っとき。料理、楽しみにまっとくで」
はやてはそんなふうに言った俺ににこやかに返答してくれた。
うん、なんかおかしい一文も入ってたけど、気にしないでおこう。気にしたら負けだ。
だけど、そんな風に事がうまくいくわけはない。
隣の女性は俺に鋭い視線を送っていた。
「……な、何か用で?」
「おい、お前はヴィータに会いに行ってこい。今のまま私が出ても、戦力が足らないだろうからな」
「他の三人は呼び出せないの?」
「私の中に取り込まれたんだから呼び出せるに決まってるだろう。ヴィータだけは取り込んでないから言ってるんだ」
「自分で行ったら?」
顔の真横に魔力弾がすぎさった。
「……で、返答は」
「行かせていただきます」
この選択を強いられているんだ! 決して自分から行きたいわけじゃないぞ!
「だ、だけど、自分で念話くらいは送ってくれないかな? 俺に騎士とかそういうことは分からないし……」
「そんなことは百も承知だ。ただ、ヴィータに念話が送れないのが気になって、お前に命じただけだからな」
「パシリかよ!」
とのような事があって今に至る。
(思えば、なんで俺の脱出先は公園の木の上だったんだろう。……おのれ、管制人格)
とりあえず管制人格のせいにしておき、現在念話が終わったヴィータの様子を見る。
その表情はさっきまでとは違い、ちゃんとした騎士の顔になっていた。
「サンキューな、りゅう」
「なにがだ?」
「お前がいなかったら、きっと救えるものも救えなくて今もふさぎ込んでいたかもしれない」
正面からこういうことを言われるのは馴れていないため、少しばかりか気恥ずかしくなる。
ヴィータは言うだけ言って、側面に開いた穴ギリギリのところに立ち、こっちを振り返って言った。
「あたしが帰ってくるまでに、料理を作っとけよ!」
その言葉は、自分の勝利をすでに確信しており、以前のような影はなく、そこに映るものも決意だけになっていた。
孤独を感じなくなり、彼女の中にあるのはきっと……光。
少女は飛び立つ、目に見えない天へと。
暗闇をこえ、目指すのはきっと夜天。
「っ! 頑張ってこいよ! 夜天の騎士の一人、紅の鉄騎ヴィータ!」
気付けば、飛び立とうとするヴィータの背に激励を送っていた。
その激励に対して、ヴィータは迷い一つない笑みを返してくれる。
「おう!」
夜は明ける。五人の騎士に、三人の魔法少女、そして多くの魔法世界の人達のおかげで。