リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺 作:500MB
ぐわぁあああああああああああああ!!
すっげーーーーーー痛いセリフ吐いたぁああああああああああああ!!
なんだよはやての元に帰ってきたって! くさいどころか痛いだろ!
はやては有言実行するかのように傍を離れないし……ああ、もうどうすりゃいいんだ。
「まあ、出れないのなら、ここで運命を共にするしかないんだろうけど」
「は? 何を言っているんだ。普通に出ることは出来るぞ」
……えーと。いったい何を言っているのだろうか、この女性は。
俺は女性の言ったことを確認するために、向き直って聞いてみる。
「いやいや、こういうのって出るの不可能で、なぜか知覚することが出来る外の景色を見て絶望するところでは?」
「つまらんギャグを言うな。お前は元々外から入ってきた奴だ。出すことくらい簡単にできる」
「わーお」
こんなにあっさりでいいんだろうか。
いや、だめだろ。しかもシリアスブレイクしてきたし。
未だ離れないはやてをみれば、同じような顔で女性を見ていた。
「でれるん?」
「え? えーと、主は……」
「でれるん?」
「いやー、その……」
「でれるん……?」
「やろうと思えばできますハイ」
最後のはやては恐ろしい顔で見ていた。最初に女性と会った時の恐ろしさ以上だった。
……でも、そうか。出られるのか。
「あ、ですけど……」
言いづらそうに、女性は喜びの顔を浮かべていたはやてを引き留める。
はやても、それがふざけてではなく真面目な口調だからなのか、気を引き締める。
「主の媒体が消え、闇の書だけになってしまいますと、今のこの状況、おそらく闇の書は暴走するかと」
「たかが本の暴走だろ? そんなのたいしたことないだろ」
簡単にそういってのけるが、女性の表情は一向に晴れない。
そして、その事実を説明する何かが、頭の中に直接送られてきた。
その光景は、悪夢そのものだった。
「あ……あ……」
「数々の悲劇を生み出し、最も厄介なシステムを持つもの。その正体こそが闇の書の防衛プログラム……名をナハトヴァールと言います」
「ぐ……」
見慣れていないスプラッター映像に吐き気が込み上げるが、それを何とか抑え、そして女性の言うヤバさを実感した。
だが……
「でも、なんでだ。なんかおかしかったぞ」
一つだけ、今まで見たものに違和感があった。
それは一種の夢かもしれないし、もしかしたら何らかのバグかもしれない。
だけど、それだけが圧倒的におかしかった。
「いったい何がおかしい?」
「なんで悲劇の中に、闇の書の苦しみが混じっていたんだ」
その言葉を言うと、女性は驚愕した。
それこそ、はやてまでもが。
「……お前の与えた情報の中にそんなのは与えてなかった」
「だったら、あれはなんなんだ。知っているんだろう、管制人格」
「……」
一拍置き、女性は口を少し動かしたのち諦めが混ざったように話し始めた。
おそらく、はやても俺の話に興味を乗り出したからだろう。
「私の中でも真実か定かではありません。それほど昔の話」
闇の書の元は夜天の書という、数々の魔術の研究に使われたものだった。
だが、心無い主により、夜天の書は己の好きなように改造されていき、ついには周りのものすべてを破壊する危険なものとなってしまった。
「その末路が、見せたあの記録です」
「ま、まて、それが本当なら、夜天の書に戻せば」
「それは不可能だ。すでに闇の書に夜天の記録はない。元に戻すことは不可能だ」
だったら、やはり止めるには破壊するしかないのか。
管理局が総出でかかったとしても勝てそうもないほどの能力。
この街にいる人たちでかかったとして、勝てるのだろうか。
たとえ、魔王がいたとしても。
……勝てるか……なんて。
「考えるまでもない。外に出るぞ」
「っ! 人の話を聞いていたのか!」
「聞いていた。だけど、このままこうしているわけにもいかない」
原作がこの先どうなるかなんてわからないけど、このままこんなわけのわからないところにいて終わりを迎えるなんて、そんなのは到底我慢できない。
それに、こうなってしまった原因の一端は俺にある。少なくともはやての前から、逃げるわけにはいかない。
「そうやな。こうしていたところで、何か変わるわけもないしな」
はやても俺と同じようにこのままじゃいけないと思ったのか、現状から脱却する方を選ぶ。
「それに、限界なんやろ、暴走を止めるの」
「っ、流石にばれてましたか」
「暴走を止めるのが限界って……どういうことだ」
「そのままの意味に決まっとる。龍一は分からんと思うけど、今、外は大変な状況なんや」
暴走が止められない……?
「だったら今の街の様子は?」
「いまはなのはちゃん達がどうにかしとるみたいやね。……私がこうなる前に見たのは、やっぱ偽物やったんか」
「しかし、彼女らにしても全く太刀打ちできていない模様。彼女らがやられ、暴走が活発になってしまえば抜け出すことも難しくなりましょう。主、ご決断を」
はやては静かに目をつむる。
それは己の気持ちを落ち着けるためのものであるか。少なくとも、悲観的なものは見受けられない。
はやては一つ深呼吸して、言った。
「夜天の主の名において汝に新たな名を贈る。強く支えるもの、幸運の追い風、祝福のエール、リインフォース」
「な……」
その声を上げたのは俺ではなかった。
俺以外にここにいる人物、それはこの女性しかありえない。
女性は否定する。その名を受け取る価値など自分にはないと。
「あ、主! 私はもうすでに夜天ではありません! そのような……そのようなきれいな名前を受け取ることなど……」
「私の持つ本は、そないな恐ろしい本ちゃう。それこそ、全てを破壊してしまう物なんて、こっちからお断りさせてもらうわ」
「では……」
先ほどからずっと離れようとしなかったはやては、ここでようやく俺の元から離れた。
はやてはかたくなになる女性の手を取り、両手で強く握りしめる。
「そない固くならんでええ。リインフォース、あんたが受け取らな、わたしも名乗れんやろ」
「名乗れない……とは?」
「夜天の……そう、『最後の夜天の主 八神はやて』ってな」
女性はその気高い主に対し、少しだけ驚いた顔を見せると、すぐに膝をついて従者の構えを見せる。
「……承りました。これよりわが名は『祝福の風 リインフォース』。夜天の書、最後の主を支える騎士となりましょう」
その言葉を聞いて、はやてはにこやかに笑った。
「さて、いい話にまとめているところなんだけど、時間は一刻をも争うんだよね」
「そうだ。バラバラにやってしまえば時間も魔力も使う。主と共にお前も送ってやろう」
「思ったが、なんか俺に対してはひどいよな。リインフォース」
「お前がその名を呼ぶな! 穢れる!」
襟をつかまれて凄まれた。なんかすごいガチ切れされるとか……今度から名前呼びはやめておこうと思った。
「まあまあ、もう少し仲良くせーや。これから協力してそのナハトヴァールを倒すんやから」
「こんなただの人間が役に立つと?」
「それでなくても仲よくはしてな。ほら、龍一も涙目になってしもーとるし」
な、泣いてなんかないやい!
「こ、こんなところで会話しててもしょうがないし、早く出ようよ」
服の袖で目元をぬぐい、何事もなかったかのように振舞う。
ちょっと鼻声のような気がするが、自分で聞かないふりをしておく。二人も、気を使ってくれてきかないことにしておいてくれたようだ。
「では主、また会えるときが来れば……」
「は? 何言うとるんや」
リインフォー……女性が別れを切り出したところで、はやてがまるで驚いたような視線をおくりながら返事をする。
「リインフォース、一緒に来てわたしを支えてくれんの?」
はやてからそう言われてしまえば断るすべはない。
女性も、名をもらった意味に気付いたんだろう。はやての言葉を聞いてすぐに訂正をした。
「……いえ、そうでした。私は主に仕える騎士。どこまでも主の剣となり盾となりましょう」
「うん、それでいいんや」
はやてはここで、久しぶりに家族に対する笑みを見せたのだった。