リリカルでマジカル。そんな中に入りたくない俺   作:500MB

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第四十三話 想い流れる

 廃ビルの上層へ駆ける。

 外での戦闘のせいで、廃ビルは時たま大小さまざまな揺れが起こる。

 そのせいなのか、それとも単に電力が供給されていないのかエレベーターは動かず、しょうがなく揺れが危ない中必死に階段をあがっていた。

 なぜ、そんなことをしているのかというと、それはヴィータが救援に入ったところまで話は戻る。

 

 

 

 

「まったく、危ねえところだったな」

 

 大きなハンマーを抱えて登場したヴィータは、立ちすくんでいる俺を見てにやりと笑う。

 そこで立ちすくんでいた足はようやく動き、驚きと共にヴィータに寄りすがった。

 

「ど、どういうことなの、これは」

「どうっていわれても……」

 

 後退したことにより少し距離を開けて立っている女性を見て、ヴィータは固い声で喋る。

 

「あれがはやて……いや、闇の書だ」

「はやて? 闇の書? いったいどっちなんだ?」

 

 たしか、あの女性もはやてが悲しんでいるとか言っていた。

 少なくとも関係性がないということは無いだろうが、あんな乱暴なことをするのがはやてとも思えない。

 ……途中ではやての元から去った俺が言うのもなんだが……な。

 

「一つ言えることは、奴の言っていることは間違っているわけじゃない。だが、反対にはやての代弁者というわけじゃない」

「なんだか、はっきりしないな」

「あたしにもよく分かんねえよ。こういうことはシグナムかシャマル、ザフィーラでもいいな……とにかく、あたし以外に聞いた方が……っと」

 

 そこまで口を開いたところで、急にしまったという風に口を閉ざす。

 初め、理由が分からなかったが、不可解なことがあった。

 女性ははやてに深く関係していて、思い当たった理由から俺を狙ったとするなら、なぜ目の前の女性一人なのか。

 いつかヴィータが漏らしていたことだが、ヴォルケンリッター……特にシグナムはそのことに対してかなり恨んでいたはずだ。だというのにいるのはあの女性だけ。

 さらに、ヴィータは俺を庇っている。その矛盾はどうなるのか。

 そして、他の三人を口にしたときのあのヴィータの顔。

 

 俺は、嫌な予感が抑えられなかった。

 

「な、なあ、シャマル先生は……はやては今どうしてんだ?」

「それは……」

「おい」

 

 ヴィータが気まずそうに口を開いたとき、女性が動いた。

 動いたとはいっても、ただヴィータに向けて言葉を発しただけだが。

 女性は矢継ぎ早に言葉を続ける。

 

「なぜ邪魔をする。その男は我が主にとって最も憎き男」

「……りゅう、話は後だ」

「あ、ああ」

 

 女性は明らかに殺気を放っている。

 ヴィータにも当てているという事はそういう事なのだろう。

 あの女性の正体が何であれ、一番の目的は俺を抹殺すること。その途中になにがあろうと止まりはしない。

 あの女性の言っていることは間違いじゃない……なら、はやては。

 

「そんなに、恨んでいたのか……」

 

 ぼそりと、ヴィータにも聞こえない音量でつぶやく。

 

「りゅう、とにかくここは危ない。結界はこの廃ビルを中心に狭く張られているから、このビルの中に隠れておけ」

「ヴィータは?」

「あたしは……」

 

 女性に向き直り、俺を庇うようにしっかりと立ち見据えている。

 その背中姿をよく見れば、少し傷ついているようにも見える。

 もしかすると、ついさっきまで何か戦闘があったのかもしれない。それでも俺を守ろうとする後ろ姿は、今まで物事に対して逃げてきた俺に何か責め立てるような気さえしてくる。

 

 結局俺は、その場から逃げるように廃ビルの中へ入って行った。

 

 

 

 

 必死に階段を上ること数分、ついに屋上まで来てしまった。

 そして、その屋上から見える外の景色、女性とヴィータが空中で火花を散らして戦っている姿。

 戦っているというと聞こえはいいが、実際はヴィータが一方的に攻められているだけ。

 

「おいおい……」

 

 流石に高さがあるのでここまで飛び火はしなさそうだ。いや、ヴィータがここまで来させないようにしているのかもしれない。

 どっちでも俺がするのは同じこと。ここで勝負の行方を見守るだけだ。

 

「ちょっと待てって……」

 

 この勝負の行方がどうなろうと、そしてその結果、俺の死につながったとしても、俺はどうするつもりはない。

 そんな、流される性格。

 

 なのになんでだ?

 

 なんで俺は……

 

「あそこに飛び込もうとしているんだよ……」

 

 気付けば、屋上から飛び出す直前。フェンスがないので本当にギリギリのところで立ち止まっていた。

 あと一歩踏み出せば、地面にまっさかさま。途中に戦闘をしている二人を通ってだが。

 思い直すように一歩下がる。

 だが、その意思に反してそれ以上足は下がらない。

 

 命を捨てたいわけでもなく、危険なことに飛び込もうとしているだけでもなく、ましてや今更原作の奴らにかかわろうというわけではない。

 昔から、そう、昔からそれは変わらなかったはずだ。

 

 ……

 

 また一つビルに振動が起こる。

 今までよりはるかに大きいもので、バランスを崩し一歩前に足をだし……落ちた。

 

 いきなりの事だが、自然と落ちたという実感はわかなかった。

 衝撃の中、走馬灯のように前世の事を思い出し、さっきまで悩んでいたことはすべて吹っ飛んでたから。

 

 そう、ただ一つ簡単なこと。

 

「俺って、友達いなかったからなぁ」

 

 はやてにヴィータ。俺にとって、どちらも大切な友達だった。そういうこと。

 

 

 

 

 魔法弾を打ち落としつつ、あたしは相手の様子を見る。

 実力自体はかなりの差がある。おそらく、シグナムやザフィーラがいてもこの差は覆ることは無いだろう。

 出来ることは時間稼ぎだけ。その間に、忌々しくはあるが時空管理局の奴らが来てくれればりゅうくらいは何とかなるかもしれない。

 可能性の低い一縷の望みにかける。ここで立ち止まることは出来ないから。

 

「解さぬ」

「なにがだ」

「我が一部があのような小僧に肩入れをすることが」

 

 相手……闇の書が攻撃の手を止め、語りかける。

 たしかに、闇の書の騎士であるあたしが、主である己の意思に反して敵側に入れ込んでいるのが不思議なのだろう。

 だが、そのセリフはあたしの中のあることに確信を抱かせてくれた。

 

「やはり、お前ははやての代弁者ではない」

「……何?」

「はやてだったら、間違えても人と人の絆は疑わない。それがどのようなものだったとしても」

 

 はやてはいつでも龍一ってやつが戻ってくるのを待っていたし、蒐集も疑いから確信に変わったときでもあたしたちに対して悪意を与えることはなかった。

 そんなはやてが、誰かに害を与えることどころか、自分の思い通りにならないことに憎悪を覚えるわけがない。

 

「だからお前は、はやての言葉を代弁しているわけじゃない。自分で勝手に判断しているだけだ。自分の都合よく……な」

「ヴィータ、お前は主の言葉を疑うのか」

「はやてじゃない。お前の言葉だ!」

「いいだろう……ならば、貴様もろとも龍一を殺してやる!」

 

 闇の書はつっこんでくる。

 それを避けてしまえば、廃ビルが崩れる危険性があるほどに力が大きい。

 だったら、あたしの魔力を使い果たす要領で守らなきゃやばいって――

 

 まて、あいつは何と言った。

 

 龍……一……?

 

 その時、迷いが生まれた。

 迷いはあたしの動きを止め、防御に回そうとした魔力も閑散し、ほぼ身一つの状態で闇の書の攻撃を受け止めてしまった。

 

 吹き飛ばされ、廃ビルの側面を突き破り、最後の壁一枚というところでようやく勢いは止まる。

 廃ビルは揺れ動き、倒壊の危機に瀕すほどの大きな揺れ。

 脱出をしようと体を動かそうとするが、防御なしでまともに攻撃をくらったせいかなかなか動くことが出来ない。

 

「りゅう……お前は……」

 

 先ほどの闇の書の言葉、龍一。

 名前だけでしか聞いたことは無いが、はやてが良く話していた。

 あたしたちが来る前のはやてを支えていた家族のようなもの。それと同時、非情にも誕生日の日にはやてを見捨てたやつ。

 そいつはあたしたちヴォルケンリッターの中でも許されざる人物として刻まれていた。

 だけど、りゅうが龍一だとすると……

 

「どっちが正しいんだろうな……」

 

 今になって思う、闇の書は危険だった。

 それに感づいて逃げた龍一は当然の行動だったのではないか。

 むしろ、はやてを悲しませてしまった直接の原因は、自分たちにあるのではないか。

 

「謝んなきゃならないのは……もしかしたら……」

 

 つぶやき、横になる。

 頭がまどろみに染められていく。

 

「ちっ、どのみち……ここで終わりか」

 

 思ったよりダメージが重い。

 すでに意識を保つのがやっとというこの状況、万が一立つことが出来たところでどうしようもないだろう。

 

「はやて……りゅう……すまねえ…………」

 

 そこで、ヴィータの意識は途絶えた。

 

 

 

 ヴィータが気絶をして一瞬後、外で強い光が走った。

 


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